46 友達
「あんだけ言っても付いてくる奴は居るもんなんだな」
「当然だろう。だからって本当に殺すわけには……」
「そうだな、勝手に死んで貰うしかない」
そう言うと思った、と返すと彼は笑った。
灰と青とが半々の空模様の下、こうして誰かと歩くのもそう悪くないと僕は思い始めた。こいつの口の巧さとお節介振りに慣れてきたと言い換えられるかもしれないが、もしかしたらそれが普通なのかもしれない。
「まあ、全員ここで立ち入り禁止だがな」
ガルシアがそう言うも、その彼自身も行く手を遮られた。
無口な――――単に喋る理由がないだけだろうが――――アニマリアが二人、その身なりは騎士団の所属ではなく、教団に仕えていることを示している。得物である長槍のあちこちにも、時代に似合わない改良が施されている。
「お勤めご苦労さん、許可が要るならカロに……まぁ技術長にこう言ってくれれば良いか」
無言の圧力を屁ともせずにガルシアはへらへらと喋る。
「『カガタクロウに用がある』って伝えてくれるか? それまで俺はここに居るからさ」
「……本部、来訪している技術長に。カガ・タクロウに用があると」
一人が喉元に手を伸ばしたかと思うと、誰に言うでもなく言葉を発した。耳に先駆物由来の何かが付いているのを考えると、毛並みに隠れているだけで、通信機の類が取り付けられているのだろう。
「………………お前、名前は」
「ガルシアだ。姓もいるか?」
「いや。本郡、ガルシアと……分かった、同行する」
誰と話しているかは分からないが、こういう光景には多少の憧れがある。
面と向かっての対話ではなく、電話のように繋がるまで時間が空くこともない。即座に繋がって、目の前に居るかのように話せることに、なんとも言えないロマンを感じるのだ。
或いは、その相手が居ることに対する、少なからぬ羨望があるのだろうか。
思ったことはないが、無意識下で欲していても不思議ではないか。
僕が素通りした道に存在した段階に独白を展開させながらガルシアに続く。フラクタルな図形は二度見ても一定の形を認識させてはくれない。
「うぉ、すげぇ」
中に入った瞬間、ガルシアが素の声を上げた。
これが一度目の来訪なら、僕も確かに驚いただろう。が――――昨日の混沌具合と比べると、今の屋内はなんとも物寂しく感じてしまう。まだなお様々な物品が散らかっているが、総数は遙かに減っているし、人数もまばらだ。
「衛兵さん、案内お疲れ様です」
奥の扉が開いたかと思うと、わたわたと慌てたカロが急ぎ足でやってくる。
彼が僕らの目の前に到着するのと同時に、衛兵は踵を返して外へ出て行った。
「それで、貴方がガルシアさん……?」
「ああ。見た目は他人、中身は本人ってな。タクロウさん?」
「私の名前……となれば、やはり他人に成り代わることが出来るんですね。直ぐには信じられませんが、二年前の彼が貴方なら矛盾がありません」
「その通りだ。驚いたか?」
「そりゃあ当然でしょう! 私の本名なんて最近口にしてないんですよ。それに、なんでこんな興味深いことを黙ってたんですか、全く……玩具を預かられた子供みたいな心境ですよ。どういう仕組みなんでしょうか……本当に不思議ですよ」
カロがガルシアに向かってのめり込む姿を、僕は以前見た覚えがある。
彼は不思議なこと、未知や不可解な事象に対しての好奇心が尋常ではない。それは強みでもあるが――――普段生活する際には煙たがられたことだろう。
「まぁまぁ、後でな。随分と元気になってて、それは良かったが」
「済みません、そうでしたね。で、用件というのは……昨日の件ですか」
ああ、とガルシアが答えると、遠慮がちな視線を周囲の研究員にやった。
「おっさんよ、真面目な話は他人のいるとこじゃどうにもやりづらい」
「なら、私の個室へ行きましょう」と彼は察した様子で答える。
「こちらも時間のある限り貴方のことを調べたいですし、多少なり積もる話もありますから……」
背中を向けると、昨日僕と彼とが使用した立方体へと向かい始めた。
「お先にどうぞ。装置と私に触れないようお願いします」
「そりゃどうも……じゃあ、俺も一番目を譲ろうかな」
「え?」カロが純粋な疑問の声を上げた。「一番目をって、誰に譲るつもりなんですか?」
「誰って、カズに決まってるだろ」
「――――え、えぇ?」
ガルシアの変わりのない応答とカロの把握しきれないような返事が認識の食い違いを明確にした。僕に関して何がすれ違ったのか――――言わずもがなだろう。
「な、え、それじゃあ……居るんですか? そんな……まさか」
「居るぞ。おい、見えないんだから喋らねえと。マジで存在感なくなるぞ?」
「あぁ…………はい、います。カロさん」
誰かに諭されてした行動というのは、どうにも情けなく恥ずかしいものだ。
別に居ても居なくても構わないだろうと思っていたが、彼に振り回されるようになった結果の、無意識的な甘えだったりするのかもしれない。
一応は、僕もカロに用があって来ているのだから。
「…………え、えええぇっ!?」
突然の素っ頓狂な叫び声に、屋内の全ての視線が集まった。
「――――――――お待たせしました。いやはや、お騒がせして申し訳ないです」
転送されて開口一番、カロは何度か頭を下げた。
が、僕らに反応する余裕はそれほど残っていなかった。
今回の転送先は彼の個室そのものに通じていたらしく、主が来るまでの十数秒間ではその全容を把握できないほどに情報が――――というよりは、未知が過密している空間であった。
全面に彫り込まれたフラクタル図形で、先駆文明の遺構だと分かる。個室にしては中々に広く、家具らしい存在の見当たらない部屋の四辺を埋め立てるようにガラクタのような物品が散乱していて、中には駆動しているものすらあった。
僕らの余裕を奪う要素はそこだった。
ロボット、ドローン、人工生命……どう言えば良いのか分からない存在が飛び回ったり、這い回ったり、歩き回ったりと忙しない。そんな住人が大小二十体はいる。
虫や小動物を真似た造形も幾つかあるが、大多数が見たこともない――――それでいて「生物的」なフォルムをしており、これが近寄ってくるだけで原始的な恐怖を湧き起こらせるのだ。
「……なぁおっさん、こいつらは何なんだ?」
僕の総意をも彼は代弁してくれた。機械らしさは見た目だけと言いたいように駆動音は全くしない。この小さなもの達に意思があるのか測りきれず、各々が自由な行動を取っている。僕らを無視するものもいれば、積極的に観察しようと近寄ってくるものもいた。
「私の友達ですよ。皆可愛いでしょう?」
カロがこちらに来るまでに、三体ほどが彼の身体をよじ登り、一体が頭頂部に着陸した。
「そう、だな。やっぱ独特な感性をしてるよあんた」
「全部私の手作りなんです。だからもう可愛くて可愛くて」
「親馬鹿ってやつか」
「その通りかもしれませんね。なんであれ大切な子達です」
どんどん集まってくる「友達」と楽しそうに戯れながら、カロは部屋の一角に進んでいく。
「何か飲みますか? 味だけならどんな飲み物でも出せますよ」
「どんなものでも? なら……緑茶は出せるのか?」
「勿論、私も時々飲みますから」
「んじゃそれ、カズはどうするよ?」
と言われても、こういう場合の「なんでも」という言葉は難しい。
幾つかから選ぶのならやりやすいが、どんなものでもとなると選択の幅が広がりすぎる。
「……同じもので」
「分かりました。故郷の味って言うんですかね、異郷にいるとどうにも恋しくなりますよねぇ」そう言いながら彼は図形の異なる壁の一カ所を操作する。
「さて、少し時間がかかりそうです。その間に用件を窺いましょうか」
戻ってきた彼が小さな友達に何かを喋ると、比較的大きな複数体が――――自らと散乱した部品を組み合わせて椅子と机を模る。計三人分、全て造形が異なっている。まさに前衛芸術だ。可動域がきびきびと動き、脈動しているようにも見える。
「おぉ、すっげ……座り心地も妙だが、悪くない。こんなのを一人で作ったのか?」
「私に割り当てられる仕事が仕事ですから、こういうモノを作らないと退屈で仕方ないんです」
「仕事っつうと、先駆物の何やらか」
「そうです。未知の先駆物の用途、構造、製造法、必要な資材等。解析に数年かかる作業が十数秒で済むからと言って、何でもかんでも依頼してくるのは堪ったものじゃありませんよ。そこら辺に散らばってる奴は、それで価値がないと判明したのを貰い受けてきた結果です」
「それじゃあ、結構不満があるのか?」
「そんなことはありませんよ。今の状態がこの世界における私の最適解でしょうから……と、出来上がったみたいですね」
飛行型の住人が妙な光沢のある白いコップをぶら下げて飛んでくる。二つはカロとガルシアの前に着陸して役割を終えたが、僕に割り当てられた一体は困ったように右往左往している。その仕草は妙に生々しく、感情が――――仕事を終えられない不安が存在するかのような振る舞いだった。
「あらら、済みませんね、アサナギさん」
カロが空いている椅子の前に置くよう指示すると、その子も荷物を置いて飛んでいった。
「それにしても、ガルシアさんと話すと話題がどんどん逸れていきますね」
「悪いな、俺はお喋りだから。話したい奴とはとことん話し尽くしたい」
そう言いながらもう緑茶――――と言うより明るい緑の液体――――に手を付け、ぐいと飲み干してしまう。僕の手の内にあるものと同じならば、それなりに熱いはずなのだが。
プラスチックのような質感の中に満たされた液体は、確かに「味だけは」緑茶だった。
「それなら、そろそろ用件を済ませてしまいましょう」
全員が口を湿らせたところで、カロが言った。
「多分合っていると思うんですが……昨日お貸しした先駆物のことですよね?」
「だな、用件の一つだ。これは当事者同士で話すべきだな」
ガルシアがこちらに視線を向けると、僕は息を吐いて調子を整えた。
どうにも調子が狂う。必要なことだけを話すのなら造作もないが、この二人のように雑談を交わしながらというのは中々に気が引ける。
口を噤んだままでは妙な沈黙で喋りづらくなるだけだった。
不可視である以上、喋る以外に意思の表明は出来ない。
「済みませんでした。お返しすると約束しましたけど……」
ただでさえ口にするための勇気がそれなりに必要な内容だ。最初だけでも勢いに任せて言ってしまった方がやりようがある。
「……渡せるのはこれだけです。本当に済みません」
机の上に先駆物のグリップ部分を載せると、努めて柔和な表情を維持しようとしていたカロの顔がさっと変わった。その変化は決して悪い方ではない――――と信じたいからそう思ったのだろうか。
少しの沈黙がかなり恐ろしかった。
「…………アサナギさん、先に言っておきますと、私はこの件で貴方を責めようとは思いません。例の爆発の時点で、液化ガスが誘爆したことは把握していました」
見えなくとも萎縮していたのを見破られたのか、そんな前置きがあった。
鵜呑みにすることは出来ないが、こう言われただけでも肩の荷が幾分下りたのを実感できる。
「幾ら先駆物が頑強といえど、エネルギー換算で広島原爆の数倍規模、それ以上だったかもしれません――――正直なところを言いますと、この部分だけでも返ってきた、それだけで十二分な成果なんですよ」
「そう、なんですか?」
「ええ、破片は数十キロ四方に散乱しているでしょうし――――――――この際暴露してしまいますが、万が一にもこれが皇国軍の手に渡ろうとした際には……無力化してしまおうと考えていました。アサナギさんから奪われたとなれば、こちらが打てる手というか、保険はこれしかありませんでした。貴方の命すら共に無くす暴挙です……これはこれとして、謝らせて下さい」
そうして彼は頭を深く下げた。が、元から許す許さないなど考える必要のない行動だ。
それほどに危険な代物なのは、使った僕自身が彼の次に理解していると自負している。
彼の言いたいことは、敵に悪用されなければ及第点、持って帰れれば万々歳、との認識だったということ。喪失するリスクを昨日の内から飲んで、僕に預けたということだ。
「それにしても、この部分を持ってきて頂けたのは不幸中の幸いと言うべきですね。この部分……精密には中身なんですけどね、ここに先駆物の九分九厘の価値があるんです」
「そこだけで?」
僕よりもガルシアの方が先に反応した。
「ここだけで。是非素晴らしさをお二人にお話ししたいところですが……まだ用件がありますよね?」
「あぁ、そうだな。あと二つ、俺とカズからの、まぁ個人的な頼みなんだがな……」
グリップが友人達の手に渡ると、わちゃわちゃと分解を始めた。
滑らかな局面に彫り込まれた複雑な図形の一体何処が繋ぎ目なのか、分解を目の当たりにしていても認識しきれそうにない。
「俺からは、カズとかお嬢ちゃんとかに渡した、その無線機を幾つか……『買いたい』って言い方が良いのかな? ずっと俺が通訳するのもくたびれる。
あの衛兵さんに付いてたのも似たようなもんだろ? だったらお嬢ちゃんのもそれに変えてやりたいしな。耳に合わないタイプは外した後のストレスが、ね」
「成る程、確かにあった方がアサナギさんにとっても快適ですね」
「金は法外じゃないなら言い値で構わないぞ。それとおっさん……俺の記憶が確かなら、一度触ればどんな機械でも直せるんだよな?」
「そうですね……語弊がありますけど。先駆物の力を借りれば、大抵の物なら」
「それなら話が早い」とガルシアがまた僕を見た。普通なら僕から切り出す話題だというのに、一々彼が絡むものだから非常にやりづらい。
とはいえ、無ければ気分転換の一つを失ったままになる――――どうせバッテリーを使い切れば同じ事ではあるが、それでもだ。
「その、これなんですけど」
机の上に携帯を置く。軽く力を込めればクラッカーの如く割れるような状態で、どうして直すことが出来ると思えるだろう。
が、カロは予想外な反応を返してくる。
「あれ、見たことない代物ですね」
「え?」
見たことがない? そんなはずはないだろう。
形は違えど、十年代の後半にもなってスマートフォンを知らない日本人が居るだろうか。
「おっさん、冗談だろ?」
ガルシアもそこは同意見のようで、珍しく虚を突かれたような声を出した。
「いえいえ、冗談なんかじゃ。先駆物じゃないですよね、お借りしても?」
「はい、どうぞ」と言うが早いか、カロはさっと携帯を手元に引き寄せた。
「どれど……なっ!? えっ、嘘ぉっ!?」
そして、先程以上に素っ頓狂な叫びが上がった。
「えっ、アサナギさん、これ、その、どういうことですか!?」
「ど、どういうことって……」
勢いに半分押され、狼狽してしまう。
何をそこまで混乱することがあるのだろうか。特別な機種でもないし、珍しいことなどあるはずがないのだが……。
「これ、本当に携帯ですか? 通話やメールをするだけには高性能すぎますし、というより、どこでこんな代物を……?」
「どこでって、普通に携帯会社ですけど」
「そんな、ご冗談を! こんな製品が一般向けに売られている訳ないじゃないですか」
そこでガルシアの方は何か思い当たったらしい。熟考していた顔を上げ、コップを弄る手を止めた。
「……おっさん、日本人だよな?」
「え? はい。加賀拓郎、一応は生粋の日本人だと思いますが」
「となると……こっちに来たときの西暦って覚えてるか?」
「そりゃ覚えてますよ」と当然のことを訊かれたように自信ありげに答える。
「二〇〇四年でしょう?」
「え?」
僕とガルシアと、全く同じ調子で聞き返した。
「ですから、二〇〇四年。ガルシアさんは私の四年前に来たのだから二〇〇〇年、アサナギさんは今年だから……二〇〇六年から、でしょう?」
さも当然のように言い切り、違いますか、と言いたげな沈黙の中で、先に口を出したのはガルシアだ。
「……いいや、『俺達』がこっちに来たときには二〇一七年だった。通りでスマホを知らない訳だな」
「え?」
こんどはカロが呆ける番だった。
「その携帯は二〇一五年頃に発売されたモデルで、おっさんが知ってる『向こう側』の十年先のブツになる……俺はこういうことに無関心だが、反応を見るに技術の進歩は凄まじいものなんだな」
「……それ、本当なんですか?」
「ああ。俺も今まで気にすらしなかったけどな。おっさんが来たときには俺もカズも幼稚園生だぜ? まだ人を殺したこともない」
此方側と彼方側、その間に隔たる時間の流れはどうなっているんだ。
カロが僕より前に来ているのは何ら不思議ではない――――時間の流れにかなりの差があるが、一方向に進んでいる点で不合理はない、はず。問題なのはガルシアの方だ。
話からすれば、こいつは少なくとも六年前に転移させられてきたはずなのだ。その彼が僕と同じ時期に此方側に来た。
二〇一七年から、六年の差。それはあまりにも荒唐無稽で、鵜呑みに出来るような供述ではなかった。
彼の言うことが正しいなら、今のガルシアはおよそ二十歳ぐらいか。
それでここまでの狂いっぷりなのだから頭が下がる。
「…………成る程、かなり飛躍した内容ですが、それなら辻褄は合うかもしれません」
暫く僕の携帯をじっと見つめた後、彼は納得したようにそう言った。
「アサナギさん、ひとまずこれは預からせて貰います。直すことは可能ですし、データのサルベージも可能な限り行います。そこの情報が裏付けになるでしょう」
「はい、有難うございます。それで……幾らほどでしょうか」
「カズ、俺が払うから気にする必要……」
「必要ありませんよ」
ガルシアの言葉を遮り、カロは続ける。
「厳密には、一つだけ許して貰えるなら、これの修理とガルシアさんの依頼、どちらも受けようと思っています」
「……それは?」
「複製品を一つ、私用に作らせて貰いたいのです。十年先の技術なんて、言葉だけでロマンがありますからねぇ」
子供のような――――ガルシアのそれとはベクトルの違う、純粋な笑顔を浮かべている。 本当に機械、ひいては工学が好きらしい。ここまで純粋に何かを好む姿は見ていてほほえましいものがある。
「おっさんがそれでいいなら、そいつは嬉しいが……それじゃあ、こうするとしよう」
「……えっと、ガルシアさん、これは?」
机の上に置かれた金貨一枚に、カロが尋ねる。
「これからも宜しく、ってことさ。金は共通価値だからな、こういう時の意思表明に丁度良いのさ。誠意だとか、そういう気持ちよりかはずっと効果がある」
「しかし、金貨一枚ですか。そうそう出せるものでは無いと思いますけど……大丈夫なんですか?」
「応よ、昨日の一仕事でたっぷり数年分は儲けさせて貰ったからな。賢い使い方はカズに任せて、俺は利益を出せるリスキーな使い方をするって塩梅さ」
「リスキー……ガルシアさんにとっては、これも駆け引きなんですね」
「生きてりゃなんだって駆け引きになるものさ」
言って笑うと、釣られるように向こうも苦笑した。
「分かりました。これはお気持ちとして貰っておきます」と金貨を手の内に入れる。
「アサナギさんの携帯は三日ほどの猶予を下さい。無線機の方は教団内での使用も始まってますので、二日もあれば数個は取り寄せらられると思います」
「おし、取引成立だ。無理はしないでいいからな」
ガルシアとカロは立ち上がり、握手を交わす。
それと同時に二人の椅子と机も元の数体に分裂し、各々のしたいように振る舞い始めた。
随分と楽だ。誰かが僕のために働いてくれることが、ここまで気楽で安心できるとは。
これは誰もがそう思うのか、それとも彼だからだろうか?
だからといって、甘えすぎないように気をつけなければ。
全てを他人に任せれば、必ず利用される未来が待っている。




