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42 大緒戦 七

「クソ、しくった」


 重力に任せて椅子に落ちると、やってしまったという顔をして言う。


「しくったって、どこを」と尋ねると「殺し損ねた」と返ってくる。


「この場で上官の一人か二人ぶっ殺そうと思ってたんだ。裏切り者だ、こいつがガルシアだって塩梅でな。けど……そっちに話を持って行けなかった」


「そうか」


 端から見れば十分に目的は果たせていたように思えたが、彼女なりの目標は達成できなかったらしい。こういう人柄で自己嫌悪というのもなかなかに珍しいことではないだろうか。


「あぁ、面倒臭え。後はここでサボろうと思ってたんだがなぁ。良い身体だし」


 背もたれに預けていた上体を起こすと、腰元を何やら弄り始める。


「カズ、そっちの方に医療キットがあると思う。探してくれ」


「そんなもの何に……」


「良いから、お楽しみだ」


 はぐらかされるのは分かっていたので、軽く肩をすくめて行動に移る。



 ここは指揮車両だったか。ただ広いだけじゃないらしく、幅広く最低限の物資が搭載されている。

 ガルシアから言いつけられた医療器具一式の他に、小規模の天幕、迷彩ネット、工具一式。先程も使われていた通信機もあるし、この一両だけで一応の前線基地が設営できるようにはなっているようだ。


 軍事関連は色々と効率化がなされるとは聞いたことがあるが、ここまで徹底されているのを見ると胸が躍る。男の性というものだろう。


「あった」


「オーケー、じゃあ保険を適用するとしよう。包帯を出してくれ、なるたけ頑丈なの」


 脇に抱えて振り返ると、ガルシアは机に幾つかの物を放り出していた。

 手袋、拳銃ホルスター、装飾の華美な短剣、それにベルト。全て身につけていた物だ。


「一体何をするつもりなんだ」


「そりゃあ、お前……分かるだろ?」


 両腕を椅子の背に回し、ガルシアが言う。


「縛れ」


「え?」


「縛れって言ってんだよ。何なら胸も触れ」


「は?」


 困惑する僕に、ガルシアは悪戯っぽい笑顔を見せてくる。

 当然、僕の反応を楽しむための発言であることは理解できるし、彼が何をしようとしていて、何のための行為なのかもそれとなく推察できる。


 が、予想外の発言――――と言うより、一見して不可解な行動全般に対する反応は誰だろうと時間を要するものだ。

 それを彼は熟知していて、恐らくは自信を持って出来るだけの経験も積んでいる。能力も相まって、彼ほど厄介な存在も居ないだろう。


「手の方はベルトでやってくれ」


 そんな奴に目を付けられて、何故か世話させられているのだ。

 僕は警戒すれば良いのか、信頼すれば良いのか。僕が幾ら決断しようと彼は惑わせてくる。


 背もたれの作りが格子状で助かった。巻き込んで拘束しやすい。



「よし、外れないな」


 全力で藻掻いても解けないのを確認すると、彼は満悦そうな表情を浮かべる。

 縛られる側に講釈を乞うて、その上でこんな顔をされるのだ。こんな状況に巻き込まれる人間の心境など分かりたくなかった。



「腕は鈍っちゃいないらしいな。冬場でも野宿してたのがこういう時に役に立つ」


「それはどうも」


 彼の冗談には真っ向に付き合うことを諦めたが――――こういうあしらい方で良いのだろうか。会話の仕方なんてものは未だ全く分からない。


 しかし野宿のことまで知ってるとは。そういえば小学生殺人犯とか言われた気もする。

 本当に全てを知っていそうだ。



「次は脚だ、んで猿轡をして、目隠しだ」ガルシアの声からは楽しそうで堪らないのがひしひしと感じられる。


「お前にやられてるからかもしれねぇが、結構興奮するな。濡れてくるわ」


 勝手に言っていろと心の中で吐き、木綿のような手触りの包帯を手に取った。


「……なぁおい、もっと喜べよ。それなりのいい女が興奮するっつってんだぞ? 胸もあるし、それなりに筋肉質で、ベルトは手を縛るのにつきっきりでズボンは膝下までスッと下ろせる。おまけに双方同意ときた。もう据え膳レベルだぞ?」


「同意した覚えは無い。…………まぁ、中身がお前じゃなければ、悪くないかも」


 右脚を縛り終え、戯れ言に答えを出す。

 僕の答えは二つの意味がある。中身がガルシアだから食指が伸びないという理由は、そう思わなければ邪念がそれなりに出てくるからこその言葉だ。



「んじゃ、俺が居なくなったら思う存分遊んでやれや」


 両脚が椅子と同一化したガルシアはそう言う。語調からして僕の悶々とした内情は大方知られているらしい。


「遊ぶか、僕はお前みたいな奴じゃない」


「どの口が言うんだよお前。こんな上玉で童貞を捨てら……あ、待て。目隠しからにしてくれ、喋れなくなる」


「もう聞きたくない」


「おいちょい待てお前言うようになったぬごもっ」


 もう沢山なので包帯を噛ませた上でぐるぐると巻き付ける。

 見よう見まねだが、これで多分大丈夫――――――――



「………………いっほふへほな、ふめものしねーと意味ねーほはふ」


 ではなかった。


「ああ、もう」


 結局は彼の要望通り、唾液で湿った包帯部分で目隠しをする羽目になった。


「カズ、大抵のアニメとかドラマとかじゃあ口に覆いをしてるだけだがよ、実際は口の中に布とかを詰めとくんだ。舌噛まれて死なれたり、さっきみたいに喋られないようにな」


「よく知ってるよ」


「一度やられたからな。外した手袋でも詰めてくれ。その前にお前のイチモつててて!」


 あらん限りの力で強く固結びして末端を切る。抵抗が皆無な上に教えられている調子なので気が抜けるが、やっていることは普通に生きるだけでは体験し得ないことである。


「ああクソ、九割本気の冗談だよ。こめかみを圧迫骨折させる気か……」


「解けるよりマシだろう」


 彼も彼で大概だが、今の自分の境遇も中々のものだと苦笑が漏れる。

 楽しくないと言えば嘘になる。こっちに来るまで楽しかったことと言えば――――多分、あの殺人ぐらいだろう。他にもある気がするが思い出せないのだから、その程度のものしか僕の人生には無かったのだ。


「はぁ、まあ兎に角だ。俺が抜けた瞬間からこいつは猛犬の如く暴れると思う。拳銃と短剣を肌身離さず、適度に脅迫とセクハラかましとけば大方大丈夫だろうが」と手袋を押し込む前に全てを吐き出すような速さで喋る。


「まだ遊べるから絶対に生かしといて欲しいな。俺は外が静かになってからノックをする。それ以外は遠慮無く殺してこのお姫様を確保しとけ。いいな?」


「ああ、分かったよ」


 そう言うと、ガルシアの方から手袋を頬張ってくる。


 口いっぱいに手袋が詰まっているのを確かめた後、鼻を塞がないよう配慮しながら強めに巻く。この非日常感と興奮は相手が男だったとしても同じように感じるものだろうか。


「これで終わりか?」


「ああ。もほ、ふっふふふ」


 イントネーションで辛うじて「行ってくる」と分かる漏れ声の後、一瞬の脱力が見て取れた。




























 今は何時頃だろうと右腕に目をやると、腕時計もまだ現存していることを再認識する。

 あの爆発で消滅したものとしなかったもの、そこに何の違いがあるのだろうか。


 雨足は強まったり弱まったりを繰り返しているが、対抗するような地上の鉛の飛礫つぶてはめっきり少なくなっていた。耳を澄ましてようやく銃声らしい音が聞こえるかと思う程度で、鉄の棺桶の中はそれなりに快適さを取り戻している。



「彼女」は物分かりの良い人物だった。

 最初こそ混乱と抵抗を見せたものの、拳銃の安全装置の音だけで事態を把握した。それ以降は目に見えた動きを出しておらず、状況が変化するのを静かに待っているのだろう。



 僕は彼女のお守りを任されたわけだが、何をしておけば良いものかなど分かるはずが無かった。最初こそ「らしく見せようと」銃口を突きつけたり刃を沿わせたりしたものだが、そのボキャブラリーは半時間も経たずに使い切ってしまっている。


 彼女に余計な情報を教えることも無いだろうと、それからは机を挟んで半ば空想の世界に入り浸っている。外が五月蠅かった頃はまだ警戒していたが、話し声すら聞こえなくなってからは維持することも馬鹿らしくなった。




「…………あの、聞こえますか」


 何を思い立ったのか、僕は声を掛けてみた。

 無線機――――何かしらの中継を挟めば誰とでも会話は可能だろうが、生の声を聞けるのはガルシアだけのようである。

 が、彼自身はその他人に乗り移って活動している。それならば誰もが僕の声を聞ける――それ以上に、僕そのものすら見えて可笑しくないはずなのだ。


 しかし、彼女は、「ラグナロッカ」は微塵も反応を見せない。鼻呼吸で多少息苦しいのか、反らされたお陰で強調されている胸が上下するのを確認できるだけである。


 どういうメカニズムが働いているのか。僕をこうした存在に訊くほか答えを得られまい。

 自然発生的にこうなった、などという戯れ言を信じる人間は居て欲しくない。僕がこうなっているのは何者かの意図であるのは自明だ。



 が、その意図は全くもって想像がつかない。

 そもそも何のために僕を――――この世界の住人が認知できるほどに人類を連れてきているのだろう。この世界が壊れかけているとか、そういう尤もらしい理由は介在していないように思えるし、あれば何かしらのアクションを起こしてきているはずだ。





「…………車?」


 空想のさなか、静かな空間に僅かなノイズが入り込む。

 幻聴ではない。確かなエンジン音だと判明して少しすると、直ぐ傍でそれが止まった。



 ドアの開く音、歩く音、それからノックが響いた。どうやら終わったらしい。

 

 ラグナロッカもそれに反応を見せ、少し身を動かす。

 念のために拘束が解けていないかを見直してから、内側のロックを外した。


「おう、お疲れさん」


 小声と共に見せた顔は比較的見慣れたそれだった。シキロフ。


「ああ、お疲れ様」


 僕の挨拶を無視して、ガルシアは車内の奥を覗き込む。


「…………俺が出てから遊んでやれって言わなかったか?」


「本当にやるか。常識を……」


「元の身体にぜーんぶ置いてきてるよ」


 持ってなかった、と口に出さずともそう言い返されるのだ。気の利いた会話というものはこういうことを言うのか、彼ほどに会話を上手くするにはどうすればよいのだろう。


「まぁカズ、駄弁りは後でも出来る。奥の姉さんを引きずり出したら最後の一仕事だ」


 彼女の方を指さし、そのまま自分の背後に向ける。焦点をずらせば、彼が乗ってきたぼろぼろのハーフトラックが一台、こちらに中身を晒しながら停車しているのが見られる。


「…………この重労働を一人でやれって?」


「ぶつくさ言うんじゃねぇ。俺はそれ以上の重労働、数千人相手に大立ち回りを…………まぁいいか。あれだ、事が済んだら手伝う」


 反論する余地も無いので、一緒に椅子ごと外に運び出すことになった。

 多少なり抵抗されるが、ガルシアが耳元で何かを囁いた瞬間に止まる。外に連れ出して一体何をするつもりなのかはさっぱりだが、まぁ知らずとも良いことだろう。







「しかし、なんだ」


 中身を今一度見渡し、その量の多さに絶句する。


「もしかして、全部持って帰るつもりなのか。これ全部…………」


 崩れかけている木箱の中身は須く弾薬類で、その上に針山のようになった銃器類。大半がボルトアクションのライフルだが、何挺か重機関銃も紛れ込んでいる。

 手始めに小銃を一つ手にとって薬室の中を覗くと、当然のように装填された状態。安全管理も全くあったものじゃない。


「さて、久しぶりだな。ラグナロッカ嬢」


 小銃内の弾薬を排莢していると、ガルシア達の会話が風に乗って聞こえてくる。


「あんたらの親父さんを目の前で死なせて以来か? すっかり忘れてたが、こいつの記憶のお陰ですっかり思い出せた。あん時ゃお前大尉だっただろ、出世したなぁ?」


「このっ、弟の身でそれを語るなッ!」


「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。あ・ね・う・え」


「黙れこの外道が!」


「んなとこ言いましてもなぁ。今は俺ら以外に生きてる肉体が見当たらんもんで…………それよりも、赤の他人で来て貰いたかったか? 血の繋がってる最後の家族が首だけになってここにある方が嬉しかったか?」


 この身体を生かしてる分、そこだけは誠意を感じて頂きたいんだがと嗤う。他人をノーリスクで弄べるのもあるのだろうが、よくもこう嫌みったらしい言葉を選べるものだ。


 取り出した弾はどこにどう保存しようか。


「………………何故だ」


「ん、何が?」


「部隊を殲滅させておきながら、何故私と弟を生かしたのだ」


「お前とこいつが俺にとって面倒な相手だとでも思ってんのか? そいつはすげぇ。大した自己評価の高さだよ」


「フン、他人に成り済まさねば戦えぬ臆病者が何を言う」


「おうおう、俺のことをよーく分かってるじゃねえか。随分と調べたな?」


 鉄板を挟んでもなおその声は良く聞こえる。車内広しといえど、数十丁の小銃に数挺の機関銃、その弾薬をどこまで詰められたものだろうか。


「で、生かしといた理由だっけ。あんたなら察しがついてんじゃねえの?」


「…………」


「……黙るなよ、やりづらくなるじゃないか」


 外に出たついでに、二人の様子を覗き込む。

 作ったような困り顔のガルシアに、猿轡だけを噛まされているらしいラグナロッカ。外見だけは姉弟だけあって瓜二つだが、弟の中身は悦楽主義者だ。


「まぁあれだ、弟のために頑張ってくれって話さ」


「人質か。まさか私ではなく弟を取るとはな」


「女捕虜は慰み相手になるのが戦争の常だ。野郎もまぁ例外じゃあないかもしれないが……起きる可能性はグッと低い。だろ?」


「それもお前の誠意か?」


 嫌味に嫌味で返すのは流石の気の強さなのか、せめてもの抵抗なのか。


「ああ、逆だと弟さんは身が入らないだろうからな。身内があれこれされるのは予想以上に精神負荷がでかいのを俺は知ってるし、経験してる」


 どちらにせよ――――どんな反応をしたところで、ガルシアを楽しませることに違いは無い。

 運搬に戻ろう。話が終わる前に準備できていた方が楽なはずだ。


「弟さんの身柄は責任持って預かる。もし殺されでもしたら……そうだな、今度は聖王国の重鎮が一斉に自殺して責任取るだろうよ」


「体の良い責任転嫁だ。そうやって生きてきたのがよく分かる」


「ご生憎、死んで詫びられないからな。他人様の命で払うしかないのさ」


「……それで、私に何をしろというのだ」


「単純明快、反乱の準備をしといて欲しい」


「反乱? ハッ、出来ると思うのか?」


「出来るさ。現に俺がさっきやらかしただろ?

 今の皇国の中枢が過激すぎるって事ぐらいには誰もが気付いてる。これまでの仕打ちとか、所属する共同体の未来のためとか、そりゃあ納得できる要因も少なくない。


 けど、本当に相手を一人残らず消し去る必要があるのか? 向こうは少なくない犠牲を被って、自分たちのした行いの酷さとリスクに理解を示した。和平後の外交と交流だって、表面上だけかもしれないが円滑に進んでいただろう」


 ガルシアの口がより滑らかになった。


「俺はいろんな奴に乗り移って、これでもかって価値観を見てきたから言えるんだけどよ。誰だって元は一緒なんだよ。アニマリアだろうとヒューマリアだろうと、あんたら人類だろうとだ。他人との差違が気になるし、自分が優れてるって思いたいし、コミュニティの中で上に立ちたいって願うもんなんだ。だろ?」


「……フフッ」


 ラグナロッカが失笑を漏らした。


「何だ?」


「いや…………まあいいか。どうせ私の中にも入っていたのだろうから」


 お前と話していると、昔の弟と対峙しているようだ、と彼女は言った。


「人の親を平気で殺せる奴だ、それが演技だとは分かり切っている。が……これでは中身が違うのかすら判断できない。変な正義感に話の根幹が外れていくのも、全く懐かしい…………大したものだ」


「親仇の演技を褒めるのか、あんたこそ酔狂な軍人だな」


「元から私に選択肢など無い――――と言うよりも、私の戦う理由を知っていて、わざわざそんな適当な事を喋っているのだろう?」


「おぅ、じゃなきゃあんたの堅物ぶりを利用できるなんて思っちゃいねぇよ」


 俺にも大事な奴は片手ぐらいはいるしな、とガルシア。此方側がずっと談笑するかのような口調なのは今に始まったことではなかったが、ラグナロッカまで物腰が柔くなったのには少し驚いた。

 指揮官との会話の様子では、この男に父親を殺されているようだったが。


「ほう、身寄りの無い魂にも大事な器があるのか」


「自分が入るのもおこがましいってのがな。お前に知られたら人質にされそうだし言わんが――――そう言う意味じゃ、あんたほど怒らせたくない令嬢は居ないな」


 彼女も感づいたのだろうか――――この男がふざけて生きていることに。

 変に対立しても対抗手段は皆無に等しい。口ぶりからしてシキロフが唯一の家内であり、それが彼女の今を決定しているのだとしたら、ここはガルシアに従うほかない。


 が、そこまで切迫した雰囲気を彼は求めておらず、むしろコミカルに――――結果は大抵惨状なのは置いておくとして――――事を進めようとしている。その犠牲になる方向を自らに向けさせないようにすれば、確かに有用な、言葉通りの舞台装置になるだろう。


 機械仕掛けの神と言えば、それなりに彼を比喩することが出来るのかもしれない。


「兎に角、皇国に攻め込む時には俺らも一緒に行くつもりだ。それまではこっちで弟さんの面倒を見させて貰う。返すかどうかは……」


「働き次第。お前ほど手中に置いておきたいと思う手駒はそう無いな」


「口の減らない上に高飛車なこって、将来の伴侶は苦労―――――――――」





 二人の声を遮るように、一発だけの発砲音が着弾と共に広がる。



 まだ生存者がいたのか、という驚きでバランスを崩し、僕は重機関銃の半ば下敷きになった。肋骨が軋む音を聞いたような気がし、唐突な圧迫感で呼吸が乱れる。


「動くな!!」


 第三者の声だった。辛うじて車体の向こうに見える二人の向こう、天幕の残骸に紛れるように誰かが立っている。小銃を構えているものの、離れていても銃身が揺れているのが分かった。


「クソ、思ったよりもリスポーン早いな。もうちょい話したかったが……」


 ガルシアは調子を崩さずに両手を後頭部に回して正対する。さりげなくラグナロッカを背中に隠していた。


「おい坊主、誰に向けて撃ってるのか分かってるのか?」


「黙れ、この虐殺者め! 俺は全部分かってるんだぞ!」


「ああそうかい。そうだ、俺は虐殺者だ。おめでとう、大正解。でもまぁ……ねぇ?」


 彼の憤りとことごとく対照的にしたいかのように、ガルシアはお調子者を装う。


「……銃を下ろせ、ギフテッド」


 ガルシアが身体をずらして催促すると、ラグナロッカはそう指示を出した。


「中身が違かろうと、その身体は我が弟のものだ。誰にも傷つけはさせん」


「しかし、この男は……!」


「下ろさぬか。さもなければ反逆者として上層部に報告させて貰うぞ。生き返れるからといえ、変態どもの無用な苦痛に晒されたくはあるまい?」


 静かだが殺意のある言葉に、男は震えていた小銃を下ろした。

 顔を遮る影が消えたお陰で、彼の顔立ちがはっきりとし――――僕に既視感をもたらした。この男もギフテッドならば、あの時の。


「まあ、丁度良いな。ラグナロッカ嬢、人も殺したことのねぇボンボン地球人を護衛に付けるから、俺のせいで滅茶苦茶な被害を被ったって報告しに行け。そうすりゃ半分お咎め無しよ……多分な」


「また情けのつもりか、恩など返さぬぞ」


「結構結構、俺なんかより家族のために頑張って生きろよ」


 手足の拘束を切り、ラグナロッカは立ち上がる。


「私の弟に手を付けたのだから、覚悟しておけ」


「ああ、俺の大事な奴の次に大切にしてやるからよ。さっさと行け」


 敵同士、赤の他人同士とは思えない言葉のやりとりを最後に、二つの人影は遠ざかっていった。

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