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ないものねだり

作者: 齋藤仁嘉

仕事が終わりタクシーに乗って家に帰っている。私の仕事はアイドルだ。今日も握手会だったいつも来てくれる人もいたし久しぶりに来てくれた人あと初めての人ももちろんいた。私がアイドルをしている理由は正直お金のためだ。だからと言ってファンの人に興味がないとかではないことを覚えていて欲しい。

そして気づくと家に着いていた料金を払いタクシーを降りたそしてマンションのエントランスを過ぎエレベーターに乗るそして自分の部屋の前に着きドアを開ける。

「ただいま」

誰もいないとわかっていてもいつも家に帰ってそう言う。慌ただしい日常から解放されたことをわかるためと自分では認識している。

底冷えするような真冬の夜今日も家に帰ってきた。自分には都会は慌ただし過ぎたのかもしれないといつも家に帰って思う。しかし地元には戻れない父、母そして弟の和樹が路頭に迷ってしまうからだ。せめて弟が大学卒業するまでは今の仕事を辞めないと決めていた。そして自分で選んだ道だから今辞めたら自分で自分を許せなくなることがわかっていた。

冬の間はいつものことだが床が木目調なので足元が冷たいだから私は寝る準備を済ませてすぐに横になる。そして小説を読むこれを毎日繰り返していた。

私は小説が好きだ。小学生の時伝記などを読みあさり本の楽しさを学んだ。それからすぐ小説にのめり込んだ特に地元が度々登場する「ノルウェイの森」は何度も読み返した。また本を読んでいる間私はファンタジーの作品を読んでいるわけではないが別世界にいるような感覚になれるそれによって現実を忘れられるのも好きな理由の一つだ。そして本を読んでいる間ゆっくりと時間が過ぎてその時間が私の心を癒してくれた。小説が心を癒してくれると知ってから私は一人でいるのが好きになった。

10分ほど経ち窓の外を見たくなった、なぜかはわからなかったが無性に外が見たくなった。体は重かったが立ち上がり外を見る。

「月綺麗だな」

そう口にしていた。ずっと外を見ていたいとも思ったが寒いという感覚と慌ただしい日常の記憶が蘇り横槍を入れてくる。そしてまたすぐに横になって本を読み始めた。

今の仕事は嫌ではない逆に楽しいくらいだ。しかし仕事柄色々な場所で色々な人を見ているとこう思ってしまう。

”みんななぜ幸せを求めるのだろう。目の前にある幸せだけでなぜ満足できないんだろう。私はそんなないものねだりしたくない。そして幸せを求めることで何かを失うかもしれないないなら。今持ってるもの全てが私の全てでいいと”

こう思うのは家族が大事だからか何だろうそれ以外にもあるのか?そう思考を巡らしていると少し頭が痛くなった。だけどこうやって頭を悩ませることは嫌いじゃない悩むことは自分をいい方向にするために行うことだと思っているからだ。そんな事を考えていると少し眠くなってきた。

すると突然携帯が鳴った。母からだった。

「突然連絡してごめんね。和樹が国立大に合格しました。」

心の中では驚いていが声が出なかった。そしてすぐ続きが送られてくる。

「だからこっちは大丈夫。あなたが無理してるって知ってたけど頼ってしまっていた自分が情けないよ。でももう自由に好きな事しなさい」

それを見ても理解するのにいっぱいいっぱいで声もあげれなかった。そして自由に何をしてもいいと言われてもどうすればいいか分からなかった。そしてやっと思いついた。

(そうだ、自分のために願ってみよう)

”好きな小説を読みながらいつの間にか部屋の明かりを点けたまま眠ってしまうその時夢を見れる自由をください。明日、目が覚めても今のままでいいから”

そう願いまた本を読み始めた。

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