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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しっかり短編

臆病な神様と生贄の少年

作者: 閑古鳥

「ねえ。君が神様?」

死装束を着た少年は俺を見ながら首を傾げてそう言った。

「そ……そうだが……」

こんな事を聞かれたのは初めてだ。普段は怯えるか気絶している人しか居ないから。俺の答えを聞いてその少年はにやりと笑う。

「ふうん……じゃあ……死んでよ」

隠し持っていたのかいつの間にか右手に包丁が握られていた。それを振りかぶり少年はこちらへと迫ってくる。

「ひっ」

恐ろしくなって思わず後ずさりをした俺へと少年は飛びかかってきた。殆ど力が入らない俺の体を押し倒して、首元へと包丁を突き付けてくる。

「なんだ。神様って言っても弱いんだね。こんなのに生贄捧げてるなんて馬鹿馬鹿しいにも程があるよ」

ああ、この子は生きる事を諦めていないんだ。神を殺しても生きようとしていたんだ。でも俺は……

「俺は別に生贄がほしいなんて言ってない」

突きつけられた包丁は怖いけれど、これは言わなければいけないと思って彼へと告げる。その子はその言葉が予想外だったのかぽかんと口を開けて固まった。ああ、その顔は年相応に見えていいな、と少し意識が逸れる。

「は……?どういうこと?」

ようやく硬直が溶けたのかこちらへと問いかけてくる。説明はするからできれば包丁を退けてほしいなぁと思いながらも機嫌を損ねたら殺されそうなので口には出せない。そのままの姿勢でその子へと説明を続ける。

「村の人たちが勝手に生贄を置いていくだけだ……今までの生贄の子たちはどこか遠くでちゃんと生きてる……」

俺は生贄を望んでいない。だから今までの生贄になった子達はここから離れた町に連れて行って、そこの知り合いにお世話になってもらっている。数年もすると蓄えもできてどこかへ去っていく子が多いから全員の消息は不明だけれどそれでも俺が殺した子は居ないといってもいいだろう。

「うっわ。何それ。今まで神様殺すかどうにかして生き残ろうと色々計画してたのに無駄になった」

彼は俺の上から飛び降りながらそう呟いた。その計画が聞きたいような聞きたくないような……ひとまず殺されなくてよかったと言うべきだろうか。

「あ……えっと……悪かったな……」

ぶつぶつと文句を言い続ける彼に俺は思わず謝罪をしていた。俺が居なければこの子もこんな苦労はしなくてよかっただろうから。

「いや、君が謝ることじゃないでしょ」

きょとりと目を見開いて彼は俺の謝罪を否定した。

「いや……でも……俺がこの村に来なかったら生贄とかにならなくてもよかったかもしれないだろ……」

そもそもの原因は俺がここに住み着いたことだ。だからお門違いって程でもないし、責められても仕方ないとは思っているんだが……

「その時はどうせどっかに捨てられるだけだよ。生贄にするために生かされてたようなものだし」

平然とそう言った彼はそれを悲観している様子もなく、ただそれが真実なのだということがよくわかった。

「そう……」

自分は生贄でなければ生きていなかった。そんな状況でも足掻く彼はとても眩しい存在だと、そう思った 。

「っていうか君神様なんでしょ?なんでそんな弱っちいのさ」

つんつんと俺をつつきながら彼はこちらへ問いかけてくる。つつくのはやめろ。

「信仰心が弱いからな……俺は生贄じゃなくて人のお供え物とか祈りで力を得る種類の神なんだよ……」

そう、俺は生贄が苦手な種族だ。正直毎年捧げられる生贄にはうんざりしていた。

「生贄はお供え物になんないの?」

そりゃあ生贄もお供え物といえばそうなんだが……

「さすがに人は食べたくないしな……俺は果物とかの方が吸収効率いいからさ……」

俺が力を得るにはお供え物を実際に食べる必要がある。流石に人肉食は勘弁して欲しい。そんな趣味はない。ああ、果物食べたい。前食べたの何年前だったかな……たまたま通りかかった旅の人が持っていた干し柿を置いていってくれたのが最後だったかな……

「まあ年1回の生贄以外に物を供えたりしてないよね……お祈りに来るやつだっていないだろうし」

うんうんと頷きながら納得したように彼はぼそぼそと喋り出す。

「そう……だからこんな状態になる……」

ひらひらと殆ど力が入らない腕を揺らしてみせる。実はもう物を持つのも歩くのも結構しんどくなってきているのだがまあ彼には関係の無い事だ。

「ふーん……まあこれから世話になる訳だし君を強くしてあげるよ」

彼の言葉に思考が停止する。

「…………………………は?」

今なんて言った?

「さーて最初は何からするか」

彼は平然とした表情でこの社の中に自分の荷物であろう物を広げていく。

「えっと……ほかの村とか町とかに行かないのか……?」

今までの子達はみんな話を聞くとここから離れた村や町へ行きたがった。外の世界を見たいと言っていた。彼はそうではないんだろうか?このあたりに愛着でもあるんだろうか?

「このままだと君死にそうだし。なんかそういうの寝覚め悪いよね。まあ殺しかけた僕が言うのもおかしいけど」

原因俺か!?別に放っておかれても衰弱するくらいでかろうじて生きてはいけるはずなんだが……いやまあ死にそうと言われたら否定はできないけれど……それにほんとに殺しかけた君が言うことじゃないと思うんだが……

「いや死にそうなのは確かにそうだが……」

そんな理由でこの場所に残るっていうのか?

「はいじゃあ決定ね。これからよろしくー」

うん。こいつこっちの話聞く気無いな!?

「俺の話も聞けよ!」

もう無理な気がしているが一応声をかける。

「やーだよー」

ああ、駄目だった。こいつこのまま住み着くつもりだ。なんでこうなったんだろうな……






そんな俺と彼の出会いの話

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