脱力
「いやぁ。ごめん、ごめん……っ!?」
私は洸輝の胸ぐらを掴んだ。
「ふざけんなよ」
私の鞄にはしっかりと薬の類いは入っていた。ただ、ついでに一万円の束も入っていた。紙の帯で纏められた立派な紙幣そのものが。
「ただでさえ、鞄を忘れたことで焦ってんのにドッキリとか言ったら殺すぞ」
「うぅ、ホントごめん。まさか、そんなに嫌いだと思ってなかったからさ」
確かに意味の無い冗談は嫌いだ。大分付き合ってきたが知っていると思っていたのに。
「鞄の中に動くゴムゴキブリを入れたのは謝るから、ね?」
「…はぁ?」
ゴムゴキブリ?
私は鞄の中をもう一度探った。化粧品が入ったポーチや財布を退かし、奥の方に手を伸ばす。すると、言った通りのゴムの感触があった。それを掴まえ、目の前に出すと洸輝の言う物だった。
「…え?違うの?」
洸輝の問い掛けに思考が止まった。
洸輝ではない誰かが私に札束を置いていった。おそらく、あのデブ。いや、デブしかいない。
「洸輝。あのデブは?」
「仕事に戻ったんじゃない?」
「捕まえに行く」
何を考えてるか分からないが、とりあえず頭に来た。洸輝への怒りがそのまま積み重なってデブに方向転換したが構わない。
ふざけんなよ。
「ちょっと、ストップ。何があったの?」
「私の鞄にこれがあった。何の冗談か知らないけど、とりあえず頭に来たから」
「貰っちゃえば?」
「本物だろうが偽物だろうが、得体の知れない金は受け取らないの」
「密売してるのに?」
「何か文句あるの?」
「いやいや、別に」
「ただ。三倉いるよ」
目を見開き周囲を見渡した。
三倉は私に目をつけている、というか、大分疑っている警察だ。何回か対峙したことはあるがいい思い出はない。
持ち物を調べられらまずい!!
薬はなんとか誤魔化せるかもしれないが、この百万円はどうしようもない。洸輝と組んでいることがバレるとこれからの活動に支障が出てくる。洸輝を頼ることは出来ない。
どうする!?