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錻の心臓  作者: 半半人
土田純の夜
3/12

変わらない、変えられない

「洗剤とトイレットペーパーの在庫足りませんよ」


睡眠が足りなくたって冷静に仕事はこなせる。在庫の補充、混んできたら自らレジに立ち時間まで働いた。


休憩時間に煙草を吸い、何も考えなかった。怠いというより満たされないというかなんというか…。


「土田。この間は悪かったな」


喫煙所に入ってきた男は笑いながらコーヒーを飲んでいた。


「梶、か。気にするな。俺もたまにあるからな」

「相変わらず仕事ばっかか?」

「それしかないんだ」


仕事しか付き合いのない梶に言ってもあまり意味はないが。


「まぁ、たまには後輩と飲みにでもいってやれよな。流行りのギャップってやつに人は好感を持ったりするからな」


あちこちに設置されたスピーカーから梶を呼ぶアナウンスが流れた。


「んじゃ、仕事に戻るわ」


空き缶をゴミ箱に投げ捨て、梶は休憩所を出ていった。その背中を見送り、煙草を灰皿に押し付けた。



いつからだろう。この仕事をしたいと思ったのは。



たしか小学生ぐらいだったか……。



その頃、格好良くて人当たりの良いお兄さんが近所のスーパーで働いていた。特に用事は無いものの、友達とわざわざスーパーまで遊びに行ったりしたこともあった。それがきっかけだろう。そんな人になりたいと思って今に至るわけだが、実際はそうではなかった。


自分のことは自分がよく知っている。


ただ淡々と仕事をこなす凡人。それを自覚しているし、受け入れてもしていた。



レジを打っていると前からエラー音が聞こえてきた。レジを売っているのは入って間もないバイトのようだ。

並んでいる客がいないので、持ち場を離れバイトの元へ近付いた。


「どうした?」

「その、読み取ってるんですけどエラーになっちゃって…」


商品名と金額が表示されている画面を見た。確かに商品名は合っているが金額エラーになっている。次にレジ番号を見た。バイトが任されていたの一から十まであるうちの七番レジ。端にいけばいくほど人があまり来ないのを利用して経験を積ませようとしたわけか…。


たが、人があまり来ないレジということは少し雑に扱われている部分もある。


バーコードの下にコードを打ち込み、商品の金額を同じように数字を打ち込んでから入力した。


「これはお前のミスじゃないから。頼れる奴が近くにいなかったら俺を呼べ。いいな?」


バイトの返事を聞かずに持ち場に戻った。


とりあえず正社員が楽できるように成長してくれよ、と思った。後にしっかりとプログラムやバーコードの設定を報告しておいた。


時間が過ぎ、客の姿よりも清掃員がいるなぁと思う頃には退勤である。荷物を置いてあるロッカールームに向かっていると。


「あの、土田さん。ありがとうございました。お先失礼します」


着替えたバイトの子が頭を下げていた。制服を着ているあたり高校生だろう。


「あぁ。お疲れ様」


呑みに誘われたら行こうかと思っていたが高校生なら仕方ない。着替えて、カードを機械に通し、帰宅した。


帰りにコンビニに寄り、栄養ドリンクを買った。


もう無茶できる年ではない。三十にもなれば誰だって分かることだ。




はぁ。


いつからだろう。



こんなに虚しいのは。



夜のベランダで煙草に火を着けた。

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