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錻の心臓  作者: 半半人
土田純の夜
2/12

慣れと趣味

長らく忘れていた罪悪感。自分の記憶の奥底に眠っていたものが無理矢理引きずり出された。


「してはいけないことをしてしまった」「しなければいけないことをしなかった」の二つの後悔と罪悪感がある。だが、その二つに当てはまらない感情に戸惑い、恐怖していた。


必要最低限の家具と小綺麗な部屋が、その時に限って居心地が悪かった。お気に入りのソファに寝転がり、時が過ぎるのを待ってみる。しかし、そんなことをしても状況が良くなるわけではない。愚かな現実逃避である。

目を瞑るも眠れないまま時が流れる。耐えられなくなり時計に目を向けるが半刻も経ってはいなかった。


向き合わなければいけない。


落ち着けば大抵のことはなんとかなるし、なんとか出来る。この場合もそうだ。

自分のしていることに比べればこんなものはどうってことない。


罪悪感を開き直ることで紛らわし、むしろ進んでいこうという気持ちで立ち上がった。


◇◇◇◇◇


「土田さん。今日飯でもどうすか?」

「お先失礼します」


同僚の誘いを断り、早々と仕事を切り上げた。

機械に個人で渡されたバーコードを読み取らせ、退勤であることを選択し本日の仕事を完全に終わらせた。


定時で仕事を上がれるのは久し振りだ。


スーパーマーケットという大きな施設にも関わらず、人手が不足しているため毎日朝から晩まで働いていた。


マンションに帰り、適当にシャワーを浴び、適当に夕食を済ませ、ソファにもたれ掛かって一息着いた。



人間は暇であることを嫌う。



そこで普通の人は読書やゴルフなどの趣味を見付けそれに金や時間を費やす。悪いことではないし、自分もそうだ。

疲れてはいるが性分のようなものが頭の中で「やれ」と囁いている。こればかりはどうにも抗えない。自覚しているが直せないことに憤りを感じるが、それが仕方ないことだと諦めている自分がいた。

二重人格のような、正反対の自分がせめぎあっている。

「やれ」「やらない」と主張を続けるが疲れによる睡魔には到底敵わない。


目を閉じ、眠りに落ちるまで時間は掛からなかった。



目が覚めたのは深夜二時。中途半端に目が覚めてしまった。


だが、これも慣れたものだった。


ソファから立ち上がり、小銭入れを携えて外に出た。


向かった先は近くのコンビニエンスストアだ。特に買うものはなく、適当に店内を見て回った。

しばらくすると一人の女性が入ってきた。


「こんばんわ」

「あら、どうも」


彼女はマンションの近くに住む、白石佐智子さんだ。年齢は三十代後半のOLだと思われる。よく働いているスーパーマーケットに来るので顔を覚えて親しくなったのだ。


「どうしたの?こんな遅くに」

「眠れなくて気分転換の散歩中寄り道したところです。佐智子さんは?」

「娘が急に“明日お弁当持参”って言ったのよ。もう、ほとんどお店は閉まっちゃってるからコンビニの冷凍食品を買いに来たの」

「大変ですね」

「コンビニ弁当の中身をそのまま入れちゃおうかな、なんて」


少し世間話をして会計を済ませた。結局自分はペットボトルのお茶を一つだけ買った。


「家まで送りましょうか?」

「そんな申し訳ないわ」

「散歩のついでなんで、気にしなくていいです」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


深夜の道を街灯に照らされ、静かながらも会話が弾んだ。


「明日は朝早いんですか?」

「五時起きかな?」

「早いですね」

「起こしに来てもいいのよ?」

「またまた。起きたとしても二度寝してますよ」


堅苦しいイメージがあり人との関わりが苦手なため、佐智子さんのように気さくに話しかけてくれるとすごく嬉しい。年が近いのも親近感があってなお良い。


家の近くまで見送り、そのまま歩いて帰った。



そして、一睡もせず




朝五時。



佐智子さんの娘、知香(ちか)ちゃんが中学校に辿り着くの見届けた後仕事へ向かった。








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