失態
私は近くの少年の、ペンケースに百万円を押し込もうとした。だが、シャーペンや消しゴムのスペースが邪魔になったため、更に近くにあるバックに適当に放り込んだ。
バレてもいい。ただ、今だけはこれでなんとかなって!!
すぐに洸輝の元に戻ると、三倉と一緒にいた。
「あ。あの人です」
「ご協力感謝いたします」
あの野郎。確かに迷惑をかけたくはないがそんな簡単に、同業者を警察に売るかぁ!?
「久しぶり、ですかね?」
「…ええ。半年ぶりですね」
「いやいや。今日はついでですよ。ついで」
「私は本命じゃないと?」
「申し訳ない。前から目を付けていた、大峰了がここに来たと聞きまして」
あのデブの本名!!
もしかして、洸輝の仕業か!?
「おっと、怖い怖い。特に用事はないので帰りますよーっと」
食えないジジイだが、今回は助かったぁ…。って、誰が怖いだって!?
三倉の背を睨み付け、洸輝に歩み寄った。
「おい、てめぇ。殺すぞ」
襟に手を掛け、思い切り眉間に皺を寄せた。返答次第では殺す。
「ご、ごめんなさぁぃ…」
「なんであんなすんなり受け答えすんのよ!」
「いや、大峰さんがこっちを売ろうとしたから、その制裁で呼んだ人がたまたま、ってだけだよ」
「こっちは別の件で焦ってんのに…どうすんだよ?」
「もしかして、百万円のこと?」
は?
「いやぁ、あれさ。他の同業者が作った超そっくりな偽物なんだよ。人間には全く分からないけど、機械に通せば一発アウトって代物で…」
は?
「ドッキリ大成功ってことで返してもらうね」
…はぁ!?
「待て待て待て待て。つまり、あの百万円は偽札?てか、どこからがドッキリ??」
「三倉がここに来たのは予想外だけど、百万円をバックに仕掛けたところだけドッキリ」
あぁ!!少年は!?
時すでに遅し、閉館の数分前ということでほとんどの人が図書館を後にしていた。
私は何てことを…。
悪人に危ない薬を売るのはなんとも思わなかったが、無実の少年にとんでもない重荷を背負わせてしまった…。
「あれ?百万円は??」
わざとバックを忘れ、わざと偽ゴキブリを入れ、わざと百万円も入れて…。
殺す!
振り返り様に、洸輝の鼻っ柱を私の右ストレートでへし折ってやった。