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第十四話 冒険者ギルド

 翌朝目が覚めた時にはすっかり日が昇っていた。やはり昨日一日の出来事でかなり疲れていたようだ。

「おはようございます、ご主人様。」

 体を起こすと、ベッド横の椅子に座っていたリーナが挨拶をしてきた。

「おはよう。リーナは早いね。」

 そう返事をしながら、リーナが用意してくれたであろう手水盥ちょうずだらいの水で顔を洗い、身支度を整えた。


「今日はまず冒険者ギルドへ行こう。」

 朝食をとりながらそうリーナに告げる。

 何もない村だと聞いていたので昨日はギルドがないと思っていたのだが、宿の女将さんによるとこの村には正式な冒険者ギルド支部こそないが、王都の冒険者ギルド支部の出張所があるらしい。

 どうやら基本的に、街には冒険者ギルドの支部が、村には近くの支部の出張所があるが、あまりに小さい集落だと出張所すらないこともあるようだ。

 ちなみに朝食は、堅パン・塩漬け肉と野菜のスープ・エールというメニューで、問題なく楽しめた。

 軽く周りを見渡すと他の客はそれ以外にも、ポリッジ(おかゆ)やシチューをワインやエールと共に楽しんでいるようだ。


 食事を済ませるとギルドに行く前に馬の世話をする為にうまやに赴く。

 丁度昨日の少年が餌やりと馬房の掃除を終わらせ、裏掘りや肢の手入れをしていたところらしく、道具を貸してもらいブラッシングを任せてもらう事にした。

 毛並みに沿って、前から後ろ上から下へ、とブラッシングをしていくと馬が気持ちよさそうにいななく。

 それにしてもこの馬は本当に素晴らしい馬だ。体高は俺の身長ほどで、毛色は輝くような青毛。頸、肩、胸、腰、いずれもたくましくこちらの指示にも大人しく従順に従ってくれる。

 それでいて昨日グレーウルフに襲われていた際にも、パニックを起こさず落ち着いていたのは十分な訓練を積んでいるからだろう。

 間違っても行商の荷馬車曳きの為の馬ではないだろう。恐らくは普段は騎乗用の馬に、何らかの理由であの時だけ荷馬車を曳かせていたのだろう。

 そんな事を考えながら、小一時間ほどリーナとブラッシングをすると大分懐いてくれたくれたようだ。

 しばらくは宿に逗留する事になるだろうからと、改めて少年に曳き運動や世話を頼むと銀貨を差し出すと、少年は銀貨を見てびっくりしていたがそれでもとても嬉しそうに受け取って「頑張ります。」と言ってくれた。


 その後女将さんに3泊分の料金を先払いしておいてから、冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドは宿と同じで、村の中央にある広場の周りにあった。若干古びてはいるようだが2階建てで村ではあまり見かけない石造りの建物だ。

 建物の横手に馬車が停まっているのを横目に、扉を押し開いて入るとドアベルが鳴った。中では革鎧を身にまとった中年らしき男がカウンター越しに職員らしき女性と話しあっていた。

 二人からチラリと見られたが気にする事なくフロアを見渡すと、向かってフロア奥側の中央にある先ほどのカウンターの奥には書架と事務用らしき机があり、その右側には階段が、左側には個室らしき扉がある。

 手前側には机2卓と椅子がそれぞれに4脚置かれ、壁には結構な数の紙が貼りつけられていた。

 一通り見終わったのでカウンターに向かう。どうやら話は終わったようで先ほどの男は手前の机で荷物を整理しているようだった。


「少しいいですか?」

 俺はカウンターの女性にそう声を掛ける。

「はい、どういったご用件でしょうか?」

 栗毛の髪を腰辺りまで自然に垂らした女性は、なにやら下を見て作業していたが顔を上げて対応してくれた。

 昨日のグレーウルフの襲撃の件を話し、その時の護衛の冒険者の遺体を引き取ってくれるように頼んだ。

「おい、お前。それはどんな奴だ。」

 突然後ろから荒げた声がかけられた。

 振り返ると先ほどの男が椅子から立ち上がってこちらを睨み付けていた。

 男と俺の間ではリーナが、剣には手を掛けていないが警戒して立ち塞がっていた。

「貴方は誰ですか?」

 俺がそう誰何すると、

「王都の冒険者ギルド支部で各出張所への巡回担当をしているギルド専属冒険者のターハムだ。」

 男は語気の割にはきちんと名乗ってきた。巡回担当という事であれば王都へも頻繁に赴くのだろうし遺体を任せるのが良いだろう。

 そう判断した俺は、

「名前は知りませんが、遺体がありますので何か載せるものはありませんか?」

 そう尋ねるとターハムさんが戸板らしきものを持ってきた。

「これでいいか?」

「はい。では遺体を出しますね。」

 俺は多次元収納から遺体を取り出し、戸板の上に寝かせた。

「箱持ちか。」

 ターハムさんがポツリとそう呟いた。箱?ああ、多次元収納の事をここらじゃそう通称するんだな。

 取りあえず遺体を包んでいた布をはがすと、ターハムさんに顔を確認してもらう。

「こいつは王都のギルドで何回か見かけた顔だな。」

 そう言うと遺体の腰についていた革袋を探ってカードを取り出すと、カウンターの女性に手渡した。

 女性は手元でなにやら操作すると、

「確認が取れました。確かに昨日ボーデ様よりギルドに連絡があった護衛の冒険者です。」

 どうやらあのカードは身分証だったようだ。ボーデさんもあの後無事王都に辿り着けたみたいだな。


「それでは遺体はこちらで処置させていただきます。」

 ターハムさんが遺体を運び出すと女性がそう言ったので、俺は頷いて承諾した。恐らく遺族に引き渡すなり、埋葬するなりするのだろう。

「それで装備や所持品等は本当によろしかったでしょうか?」

 どうも、冒険者というのは魔物や盗賊等と戦う関係でそれなりに人知れずの死があるらしいのだが、そのまま放置されると依頼の状況等が不明になったり、アンデッドになったり、魔物や盗賊等の出没危険地帯の情報が遅れたり、とろくな事がないのだと。

 その為、冒険者ギルドに遺体や先ほどのカードを持ち込んで報告した人には、遺体の装備や所持品を引き取ることが公式に認められているし、報告者が冒険者ならギルドへの功績としても認められるらしい。

「ええ、辞退させていただきます。」

 だが俺はギルドに加盟していないので功績は関係ないし、装備等もグレーウルフと戦って死亡した関係で結構な傷物だったしで、もし遺族がいるなら遺品として渡した方が良いだろう。

 俺が取りあえず終わったと判断してギルドを出ようとすると、

「待ってくれ。」

 そう野太い声がかかった。

明けましておめでとうございます。

新年一回目の投稿です。

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