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第十三話 デルア村

 光が消えると俺に背を向けて立つリーナがいた。一見光る前と同じ光景だが少しだけ違うところがあった。右腕と右足がそこに確かにあるのだ。

「えっ?ええっ?あ、足がある?!う、腕もあります!!」

「ご、ご主人様!?」

 半ば呆然となりながらも再生した右腕と右足をペタペタと触って確認しつつ、リーナは俺の方に向き直るとそう声を出した。

「どこかおかしいところはないかな?」

 とにかく先ずはそれを確認する。少なくともリーナの声には治療前の様にしわがれた感じはなく綺麗なソプラノといった声だ。それだけではなく顔にあった火傷の跡も綺麗に無い。

「え、えと、はい。どこも痛くはないです。」

 良かった、どうやら問題はなさそうだな。それよりも、リーナって実は美人だったんだな。

 火災の影響か傷んで薄い灰色だった髪は絹のように艶やかな黒髪が腰まで伸び、焼けただれて半ば塞がっていた瞼も開き、美しい黒い瞳が程よい高さを持ちつつも切れ長の目の中で輝き、強い意志と高い知性を感じさせる。

 すっと筋の通った鼻梁の下には、小さいながらも薄すぎない紅い唇が確かな存在感を醸し出している。顔全体は小顔で、すっきりした輪郭だが酷薄な感じはなく寧ろ柔らかさを感じさせる頬が若干の丸みを帯びた顎まで続いている。

 初雪のように白い肌に包まれたその身は俺より僅かに高いが、女性らしい柔らかさと冒険者として鍛えられた肉体が絶妙なバランスでそのメリハリのきいた肢体を形作っている。

「と、とにかく服を着てくれ。」

 シャツ1枚の下で息づく豊かな双丘に気づいた俺は目のやり場に困ってそう言った。

「はい、ご主人様。」

 自分の服装を思い出したのかリーナが若干頬を赤らめつつそう返事をしたのを確認すると、俺は荷馬車から出て行った。


「お待たせいたしました。」

 しばらくするとそう挨拶しながらリーナも荷馬車から出てきた。髪はアップにして後ろで紐でくくったようだ。

「いや、大丈夫だ。本当に腕と足は問題ないか?」

 痛みや肉体的な問題はないだろうが、以前と同じように扱えるかは心配だからな。なので、

「これを試してみてくれ」

 そういうと俺は腰にいていた剣を鞘ごとリーナに渡した。

「はい。腕と足は特に問題はないと思います。ですが、よろしいのでしょうか?」

 剣を受け取ったリーナがそう聞いてきた。

「なにがだ?」

「これはご主人様の愛剣なのではありませんか?」

 愛剣か。手に入れてからまだ1日と経っていないが、この時代で最初の剣だし、愛剣ではあるかもな。

「そうだな。だから貸すだけだ。」

「はい。ではお借りいたします。」

 リーナそう述べると剣を鞘から抜剣し、綺麗な右半身での中段の構えを取り、唐竹・袈裟懸け・逆袈裟・薙ぎ・逆風・刺突と一通りの剣撃を確認していた。

 それはスキルの高さを十二分に感じさせる、流れるような美しさをもった剣筋だった。

「足も腕も全く問題ありません。剣を気持ちよく振る事が出来ました。これは本当に良い剣ですね。」

 どうやら本当に問題ないようだな。にしても剣か、あとで神眼で調べておこうかな。

「そうか。それじゃあ、新しい武器が手に入るまではそのままその剣を帯刀しておいてくれ。」

「かしこまりました。」

 そう答えるとリーナは改めて剣を押し頂いた。

「それでこの後の事だが、予定通りあそこに見えているデルア村に行って今日はそこに泊まる事にする。」

「デルア村は普通の何もない村ですが、よろしいでしょうか?」

「構わない。」

 恐らくだが、これだけ王都に近いデルア村が何もない村なのは、逆に王都に近すぎるからだろう。

 ボーデによると馬車で3時間ほどという事なので、馬車で移動する人はこの村には泊まらず素通りするのだろう。

 それでも流石に村に宿がないということはないだろう。


 今俺たちはデルア村の門の前にいた。村の周囲は俺の背丈より頭一つ分ほど高い土塁に囲まれ、その手前には空堀が掘られていた。

 村の門が村の規模からは大げさすぎる4頭立ての馬車が余裕をもって通れそうな大きさなのも、有事の際には王都直近の前線拠点としての機能が考慮されているのかもしれないな。

 門番という訳ではないだろうが、門の前にいた老人に身分証を見せつつ宿の場所を聞きだすと、俺たちは大分落ちてきた夕日を背に受けながら宿に向かう。


「いらっしゃい」

 宿に入るとかなり恰幅の良い女性が出迎えてくれた。見た目は完全に「おふくろさん」といった感じだ。どうやらこの人が女将さんのようだ。

「旅の者ですが今夜二人泊まれますか?」

 時間も遅いし若干心配してたのだが、

「ああ、泊まれるよ。別々の部屋の方が良いかね?」

 表で馬のくつわを取っているリーナに命じて首筋の奴隷紋を晒させ女将さんに見えるようにさせる。

「いえ、二人旅ですので同室でお願いします。」

 奴隷紋を確認し、二人旅と聞いて女将さんは納得してくれたようだ。

「ところで食事はどうするんだい?」

「明日の朝食だけ頼みます。」

 夕食はさきほど食べていたので、朝食だけで構わないだろう。

「二人で銀貨六枚になるよ。」

「あと表の馬の餌と世話を頼みます。」

「なら銀貨8枚だね。」

 女将さんの指示で一人の少年が、リーナから(くつわ)を引き受けるのを見ながら、俺は銀貨8枚と銅貨少々を取り出す。

「じゃあこれで。馬はよく面倒をみてやってください。」

「あいよ。部屋はこの奥の突き当りだよ。それと食事は隣の建物だからね。」

 女将さんの言葉と部屋の鍵を受け取ると、俺たちは部屋へと向かった。


 鍵を開けて入ると、ベッドが二つとテーブルに椅子が2脚あるだけの部屋だが、掃除が行き届いているようで気持ちのいい部屋だ。

 窓の板戸を開けると気持ちのいい風が入ってきたので、汗を拭いつつ椅子に腰かける。

「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」

 俺が椅子に座ったのを見てリーナが聞いてきたので、頷きをかえす。

「奴隷の私がご主人様と同室では、失礼にあたるのではないでしょうか?」

 なるほど。リーナはボーデによると初めて奴隷契約を結んだようだし、以前に奴隷を使っていた訳でもないのだろう。村や街中での奴隷の扱いしか知らないのだな。

「貴族や王族以外で少数の奴隷を連れての旅路ではこれが普通だよ。」

 これだけでは納得出来ないだろうから、理由も教えておこう。

「第一に身の回りの世話をさせるなら、主人の側にいないと咄嗟の時に役にたたない。」

「例えば主人が宿の部屋、奴隷が厩にいたりすると大声張り上げるか主人がわざわざ厩に出向かないといけなくなるだろ。そもそも宿で大声あげるとか他の客に迷惑だし、主人の品性を疑われるしな。」

 貴族だとハンドベルで呼んだりもするが、あれはベルが聞こえる範囲、例えばドアの前や隣の部屋に常時奴隷が待機しとかなければ意味がない。

 さらに言うと、良い宿になればなるほど防音もしっかりしてるし、王族や貴族が泊まるような宿は良い宿だから、ますます近くにいないと音が聞こえない。

「かといって宿屋で隣の部屋、つまり同ランクの部屋を奴隷の為だけにわざわざもう一つ確保させるのは、その方がかなり贅沢だろ。」

「第二に主人の安全の為だ。旅先では何があるか判らない。主人の安全を考えれば主人を一人にするより、奴隷に護衛させた方が良いのは判るな?」

「はい、ご主人様。」

「だが、仮に複数の奴隷を連れていて、交互に休憩しつつ一人がドアの前等で待機するにしても、奴隷が二人とかじゃやらない方がマシだ。」

 リーナが静かに続きの言葉を待っている。

「魔物もいれば賊も出る危険な旅路の中で休憩時間が主人の半分じゃ、奴隷の疲労がシャレにならないだろ。」

「疲労すれば当然歩みも遅くなる。歩みが遅くなればその危険な旅路に掛かる時間も増えて、結局主人も危険にさらされることになる。」

 奴隷は疲労しない、もしくは疲労しても足が鈍らないってご都合能力がある訳じゃないからな。

「だからこそ、二人旅って聞いて女将も主人と奴隷の同室泊を忌避しなかったんだよ。」

 まあ、だからこそ普通は徒歩での一人旅や二人旅はしない。俺たちは馬を連れてたから女将も訝しまなかったがな。

「という訳だから、宿屋暮らしの間は同室の生活になるから、早く慣れてくれ。」

「はい、ご主人様。」

 俺の言葉にリーナは深く頷く。


「では、今日はもう寝るとしよう。明日は朝から色々忙しいと思うがよろしく頼む。」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします、ご主人様。」


 こうして俺の長い長い転生一日目は終わりを告げた。

約半年ぶりの投稿です。

投稿期間があいてしまい申し訳ありませんでした。

それでは、御意見・ご感想お待ちしております。

なおポイント評価やブクマ等していただけると大変励みになりますのでよろしくお願いいたします。

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