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イチゴ

作者: 蒼乃碧

 甘酸っぱい かぐわしい香りに誘われ

 誘惑される

 花言葉には幸せな家庭 尊敬と愛

 小さな白い花に 赤い粒


 ここまで書いたところで私は手を止めた。

ふと、苺は私の好物だということを思い出したのだ。だがしかし、苦い思い出もある。

青春と呼ばれる高校時代の幼い頃の想い出だ。

 同級生に好きな子がいた。その子には恋人がいて、私が告白をしたところで所詮は相手にされないものだった。

しかし、告白をしてしまったのだ。

幼さと自己満足だけで行動した結果、学年中にその噂は響き渡り私はそれから開き直ったかのようにその子にアプローチを続けた。

 一年以上かかってその子のメールアドレスをもらい、メールをする仲になった。

結果的に、私は振られ続けることになっていた。

同窓会や集まりに行くたびに当時の私は幼かったと思う。

しかし、それを今後悔したところで何も変わらない。

今彼女は、当時から付き合っていた恋人と結婚をし、幸せな家庭を築いてると聞いた。

 私は当時からそれが分かっていたのだろう。

彼女の幸せな家庭に祝福をこめて私は苺の花飾りと共にリンゴのジャムを送った。

リンゴの花言葉には選ばれた恋というものがある。

知り合いに頼んで特別に果実だけでなく花も入れてもらったものだ。

果実には最も美しい人へという意味もある。

私は彼女の結婚を祝福するとともに今でも彼女を思い続けていることを暗に隠して渡した。

今では、彼女のことを女性としてではなく人として想っている。彼女の旦那は私の親友として私と仕事をしてくれている。とてもいい友人だ。

 彼らには今年第一子が生まれた。その子にはイチゴという名前を付けたそうだ。男の子だったが漢字は苺ではなく壱檎とつけたそうだ。

彼女はやはり賢い女性だった。

 私も彼らと同じように幸せな家庭を築けるようになりたいと思う。今はそんな女性はいないが、きっと、このわずかな人生の中で素晴らしい人に出会えるはずだ。

 あの苦い、恥ずかしい思いをしていなかったら今の私はないだろう。

そして、今のこの生活はないだろう。

 自分の想いを人に伝えると言うことはとても大切で相手にどう伝わるかなども考えなければならない。

一方的に自分の感情を押し付けるだけではいけない。

私は仕事柄伝えることに敏感だ。比喩的にでも、明にでも、言葉で伝えていくのはいいと思う。

言葉を話すことが当たり前ではない。話せるうちに、思えるうちに言わなければならないことがある。

 こんなことをふと思うのはやはり、私は年なのかと想い、笑いがこみあげてくる。まだ、二十八歳だがはたから見たらおじさんだ。

 だがしかし、私はあと少し一人でいようと思う。信頼できる友人に恵まれている。もしも、万が一のことが彼らに会った時に私が自由に動ける立場の方が何かと便利だと思う。

自己満足にしか過ぎない行動だが私は満足できるんだろう。一寸先は闇。一秒先なんてものは真っ暗で見えないのだ。

 高校時代を懐かしみ、これからを思い描く。

私はまたパソコンのキーボードに手を滑らせた。

先ほど書いた詩は保存して、新たにファイルを作る。そこには青春の題名を書いた。ゆっくりと文字を打って行く。


 イチゴは私の好物だ。リンゴも私の好物である。

これは、ある女性とその家族に向けて。愛をこめて。



ここまで書いたところでチャイムが鳴った。

きっと、彼が来たのだろう。私は椅子から立ち上がり、玄関まで迎えに行った。


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