聞いてしまった真実?
まだ続きます。
良は決して僕に接する態度を変えない。
確かに、フレンドリーに話すときもあるし、憎まれ口もたたく。
でも、ある一定ラインから中に入ってこようとはしないのだ。
「はぁ・・・」
僕がため息をつくと、今日のお世話役のメイドが心配そうに聞いてくる。
「いかがなさいました? 香月様」
「いいや、何でもない」
僕が言うとメイドは少し寂しそうな顔をした。
「私どもは良さんよりたよりになりませんが、何を言ってくださってもいいのですよ? 香月様の憂いがはれるように誠心誠意尽くさせていただきますから」
「それじゃダメなんだよ」
「え?」
どうやら僕のつぶやきは聞こえなかったらしい。
「何でもない。何かあったら呼ぶから、もう下がってくれ」
「かしこまりました」
メイドは頑丈な扉を開けて外に出て行った。
僕はその扉に鍵をかける。
これで入って来れるのは唯一合鍵を持つ良だけだ。
「まぁ、無断で入って来たりはしないだろうけど」
良は何をするのにもいちいち許可を取る。
これは使っていいのか
今日は外出していいか
少し部屋をあけるが大丈夫か
など、許可の申請は様々で、一度もう勝手にしろと言った事があった。
すると少し緩和して、許可を求める事も少なくなったが部屋に入るときだけはいつも何かしら言ってくる。
でも・・・確か許可を出さずに入った事が最近・・・
そうだ、あのときは
「良が出て行った時・・・」
僕は少しだけ良が扉を開けて入って来てくれないかなと思っていた事をひどく後悔した。
もしかしたら、またどこかに行ってしまうかもしれない。
永遠の誓いと言っても結局は口約束であるし、絶対にという保証はない。
一度不安になるといてもたってもいられなくて僕は部屋を飛び出した。
この時間なら使用人室にいるはずだ。
顔を見て早く安心したかった。
良はここにいる、と。
厨房の前を通りかかる時、ふと声が耳に入った。
「おい、知ってるか? 香月様付きの良は、何でも親方様と遊女の子なんだそうだ。最初は親方様も自分の子と思っていい扱いをしていたのだが、親戚たちからの視線が怖くて捨てちまったらしい」
「へぇ、じゃあ良も一様はこの家の子ってことか・・・香月様と聖様の異母兄弟という事だろう?」
僕は耳を疑った。
そんな話は今まで聞いた事もない。
「捨てられた良は孤児院に入ったそうだがそれでも体裁が悪くて、全く見ず知らずのガキを引き取った事にしたらしい。それで一応丸く収まったみたいだな」
「お前、それ誰から聞いたんだよ」
「親方様と誰かが話しているのを聞いたのさ。何でも遊女の方は良の行方を探しているらしいぜ? 遊女から脚を洗ってきれいさっぱりしたから良と一緒に暮らしたいってさ」
「じゃあ、良もそっちの方がいいよな。今の使用人暮らしよりずっといいもの食べられそうだし」
話していた男二人は僕に気づかずに厨房を出て行った。
僕はそこに立ち尽くしたまま、身動きが取れずにいた。
誤字脱字等はうんぬん・・・