第九話
「これが蒼くんの10日間の状況説明になる。そしてこれからいう事を落ち着いて聞いて欲しい。」
「なにをです?さっきの事以上の驚くような事ですか?先ほど以上にびっくりするような事はそうそうおきないですから・・・」
そうして先生の顔を見ると「大丈夫です。」という言葉が出てこなかった・・・
申し訳ない様な、言いたくない様なとても悲しそう顔をしていた。
「いいか。気をしっかり持つんだ。蒼くんの身体は・・・過程は説明しづらいので省くが、この10日間で・・・いや7日目の時か・・・男の身体から女の身体に完全に変わってしまった・・・声も変わったのはそのせいだ。」
自分の中ですべてが止まった。
何も考えられない・・・思考が止まり・・・呼吸も知らない間に止っていた・・・
時間にして点滴が十数滴落ちる程度の時間だった。
「・・・い・・・おい・・・。蒼くん!!」
先生に呼ばれ、止まっていた時間が動きだした。呼吸が止まっていた事に気がつき、軽く咳き込みながら身体の中に酸素をとりこんだ。それでも呆然と天井を見つめるのが精一杯だった。
「蒼くん・・・ショックなのはわかる。だけど、事実は変わらない。この事を受け入れるしかないんだ。」
「・・・」
言葉が出てこなかった。確かに中学に上がってすぐにこうなる可能性がある事を両親から告げられた。心の準備をしてきたつもりでいたけど・・・しかし実際にそれが起きると簡単に「はいそうですか。今日から女として生きて行きます。」と受け入れることはできない・・・
俺はなんとか言葉を絞り出し・・・
「・・・しばらく一人にしてもらえませんか?それと出来れば身体を動かせるようにしてもらいたいです。」
「わかった。考える時間も必要だろう。身体の方もそれだけ意識がはっきりしてれば暴れる事も無いだろう。点滴は外そう。点滴を外せばじきに動くようになる。」
そう言って先生は看護師に指示を出して看護師が点滴を外し針の刺さっていたところに小さな絆創膏を貼ってくれた。それを確認した先生がまた話を続けた。
「蒼くん、大丈夫だと思うが、前の事もあるから一人にする事は構わないが扉の外には人を立たせて置くからな。」
自分は覚えていないが暴れた前科があるからそれも仕方ないか・・・
兎に角今は一人になり静かに考えたかったそうしてもらえるならそれでもいい・・・
「・・・わかりました。ありがとうございます。」
「では、私たちはここを出るよ。」
そう言うと看護師を促し部屋を出て行こうと扉までいった先生が振り向き
「考えるのはいい事だ。だけど過去振り返っても何も始まらない。未来を信じてこれからの事を考えるようにな・・・それと何かあればナースコールをしてくれれ看護師がすぐ駆けつける。」
そう言うと先生は俺の返事を待たず部屋を出て行った。