第八話
「わかった。蒼くんが最初5日間で数回、心臓が止まりその都度蘇生措置で再び心臓が動きだした以降は命に関わる様なことはおきなかった。」
そう言われて最初の頃はかなり危険な状態だったようだった。かなり緊張して聴いていたためか生きていて良かったと肩の力が少し抜け息を吐き出した。
「しかし、別な問題が発生した・・・」
そう言われて再び緊張して行くのがわかった。
「何がおきたんですか?」
先生はちょっとためらいつつ
「6日目のお昼ぐらいだったのだか、看護師が蒼くんの検温に行った時に起きたんだが・・・、蒼くんが暴れ始めたのだよ。看護師が抑えようとしたけど一人では抑えきれず病室から飛び出してしまった。」
全く覚えていない・・・ここにきたのが昨日のように思っているのに、一体俺の身体何が起きたんだ???
暴れたってどうして・・・
「もしかしたら飲んだ薬のせいかもしれないし、心臓が止まったせいかもしれないが今のところなぜ暴れだしたかはわからないままだよ」
自分の心配を答えるかのように先生はさらに話を続けた。
「暴れて飛び出した時にたまたま、蒼くんのお母さんが病院に様子を見にロビーに入ってきたところでそこで飛び出した蒼くんと出くわした。」
もしかして俺は知らないうちに暴れて母さんを傷つけたりしてしまったのだろうか・・・
俺の悲痛の顔をしていたのがわかったのか先生が安心させるように答えた。
「大丈夫だよ。蒼くんはお母さんを傷つけたりはしていないよ。」
それを聞いてホッとした。俺が安心したのを確認すると話を続けた。
「出くわした時に蒼くんはお母さんに泣きながら抱きついたんだよ。そして不思議事を言ったんだよ。『わたしずっとこうしてママに抱きつきたかった。抱きしめて欲しかった。やっと思いがかなった。わたしはあおいよ。これからママとずっと一緒にいる』と言ってね。」
先生の言っている事は、俺がわたしと言った?知らない間に女性のように振る舞っていたのか・・・まさか・・・いよいよ染色体異常の影響が出てきたのか・・・
「それからその時は君のお母さんが落ち着かせてくれたおかげで病室に戻ってくれた。暴れたと言ってもまだ熱が40度前後あって安心できる状況ではなかったからね。それから何度か目を覚ますたびに『家に帰る』とか『ママに会うの』と言っては病室を飛び出してしまったのでやむなく筋肉弛緩薬を投与して病室から出れないようにしたんだよ。」
全くの無自覚のまま、そんな行動をとっていたなんて・・・
どうなってしまうんだ・・・
怖かった。自分が自分でなくなってしまうような感覚が全身を包み込んだ。
恐怖に負けそうになる。そんな俺に先生が「大丈夫だよ」優しくなだめてくれ話を続けた。
「それから2日間はわたしと言った蒼くんが何度と出てきた。その名札の落書きも蒼くん自身がやったんだよ。けれど8日目になると熱も下がり始めた。下がるのと同時にわたしと言うと蒼くんは現れる事なくなってここ2日は、ずっと寝たままでさっき蒼くんが目を覚ましたというわけさ。」
この10日間は俺の知らない間に・・・
どう受け止めていいかわからなかった。
しかし俺に待っていたのはそんな事よりもっと重大な事が先生から告げられた。