第二十一話
「さて、お腹も膨れたし今度は洋服ね。どこの店がいいかしらね。」
いつの間にか持っていたパンフレットを見ながらあれこれ悩んでいる。
「女の子の服なんて分からないからどこでもいいよ。」
服にあまり興味の無い俺はそう答えたけど母さんはそうじゃなかった。
「なにいっているのよ。女の子が服に気を使わないでどうするの!!最初は私がコーディネートしてあげるけど、自分でも雑誌やモデルがしている服装なんかを見て自分に似合う服を選んでいけるようにならないと駄目よ。女は日々勉強よ。特に蒼はかわいいのだから洋服には気を使って行かないと折角の容姿が台無しになっちゃうからね。」
母さんの迫力に押されて少し身体を後退りしながら答えた。
「う、うん。努力します。」
「よろしい。蒼行きましょうか。」
そうして立ち上がり、俺も母さんの後をついてフードコートを後にした。
それからは、俺は母さんの着せ替え人形と化した。行くお店お店で何着も試着しては「色が合わない」「形がダサい」「この色の上着に合わせるなら下はこの色。」などなど・・・言いながら試着室に持ってこられる服を着ては脱いでを繰り返していた。当然そんな中にはスカートも含まれており、最初はためらっていたが次から次へとくる洋服に後半はもうどうでも良くなってきた。
後々考えるとこれのおかげでスカートが平気になったのかもしれない。もしかして母さんの慣れさせる為の陰謀だったのじゃないかと思えてくる。
散々着せ替え人形にされて大量の洋服を購入した。母さんと俺の両手に物凄い量の服が紙袋にいっぱいになり持って歩くのも大変になった。
「思いのほか、買ったものが多くなっちゃったわね。後、靴と制服買わないと行けないのに困ったわね。」
そう言うと携帯を取り出して誰かに連絡をとっていた。
「あなた、近くにいるんでしょ?荷物を持って」
あれ?父さんに連絡?家で留守番しているはずでは?
疑問に思いつつ正面から歩いてくる人物が一人こちらに申し訳なさそうに近づいてきた。それは父さんであった。
「えっ?父さん、なんでここにいるの?」
「蒼、お父さんは最初からずっとストーカーの様についてきていたのよ。まったく・・・」
「父さん・・・そこまでしても一緒にいきたかったんだ・・・」
そう言うと、さらに申し訳なさそうに父さんは頭をポリポリかいていた。
「じゃ、これお願いね。蒼の持っているのもお父さんに渡しちゃっていいからね。次いくわよ。」
そうしてすべての買ったものを父さんに渡して、母さんはスタスタと歩いて行ってしまった。それに俺もついて行く。もちろん父さんも重そうに荷物を持ちながらついてきた。
なんかすっかり父さんのイメージが変わってしまった・・・もっと威厳ある感じだったのに今の父さんは、召使いの様でなんだか情けなくなった。
「ねぇ、母さん。」
「なに?」
「父さんって、もっと威厳ある感じだったのに何でこんなになっているの?」
「あぁ、蒼は知らないのね。あのね、お父さんは男には厳しいけど女性に対しては物凄く甘いのよ。今まで蒼の前では、亭主関白を演じていただけよ。蒼が女になったから、対応が変わったのね。そうそう、蒼これから気をつけなさい。お父さんは、女性対してやたらとスキンシップしてくるから抱きしめられたりするかもしれないからね。」
それを聞いて納得した。病院の退院の日にハグをしてきたその為か。
「えっと・・・もうすでに抱きしめられました・・・」
そう言うと母さんは眉間にシワを寄せて父さんを睨みつけながら俺に聞いてきた。
「いつ、抱きしめられたの?」
「昨日、病院を退院する時に病室にきていきなり抱きしめられました。」
父さんを睨んでいた母さんが父さんに近づき文句を言い始めた。
「あなた、私忠告したわよね。蒼は女になったばかりだから、そう言う事はしないで我慢しなさいってね。」
詰め寄る母さん、それに冷や汗垂らしながら後退りする父さん・・・これはまずいのでは、兎に角二人を止めないとと思い二人の間に入る。
「ちょっと、母さんも父さんもやめなよ。落ち着いてよ。俺は気にしてないからそれに抱きつかれた時、俺父さんをつき飛ばしてしまったからおあいこだよ。」
そう言うと父さんと母さんは、お互い一歩下がり、
「蒼がそう言うならいいけど、あなた今度蒼に抱きついたら一ヶ月のお小遣い半分にしますからね。」
「えぇ・・・わかった。もう抱きついたりしないよ。」
父さんは残念そうな顔をしながらそう答えた。そんな顔しなくてもいいのに、俺の中の父さんのイメージがボロボロだ・・・
それから靴屋に行き、スニーカーやらサンダル、ブーツ、学校指定の靴も買い、それもまた父さんが持つ事になった。重そうに持っている父さんがなんだか可哀想になってきて父さんのそばに行き話しかけた。
「父さん、荷物少し持つよ。そんなに持っていたら辛いでしょ。」
そう言って、父さんの持っている荷物を少し持とうと手を伸ばしたら・・・
「蒼、父さんは大丈夫だよ。女性に荷物を持たせては男が廃る。気にしなくていいから、買い物を楽しみなさい。」
あれ?父さんがちょっとカッコ良く見える。不思議だ。優しくされたから?女になったから異性に感じている?いやいや俺はノーマルだ。女性がいい・・・でもそれだと今の俺だとアブノーマルになってしまう。複雑だ・・・
最後に制服の置いてあるお店に行き、俺に合うサイズを出してもらい試着してみる。
女物の洋服を試着している時はそれほど感じなかったが、制服に袖を通すと物凄く違和感に襲われた。今まで2年半も平日はほぼ毎日眺めていた女子の制服を着ている自分がとても現実離れしている様で自分が着ていいのかと急に不安にかられ、心が冷めて行く感じがした。
試着室から顔を出して母さんに聞いてみた。
「母さん、制服は今まで通り男の制服じゃだめ?何だか急に不安になって・・・自分が女子の制服を着て学校に行ったら変態と思われたりしないかな・・・」
母さんは少し難しい顔をして考えているようだったかけど、少し息を吐いてから優しく答えてくれた。
「蒼、あなたは今、男?女?」
「・・・女です」
「そうよね。もしよ、蒼の同級生の女子が男子の制服きて学校に着たらどう思う?」
「おかしいと思うかな。」
「そうよね。蒼はもう女性なの。まだ心の整理や状況の受け入れはできないかもしれないけど、外見だけで言えばどこをどうみても女性なの、蒼が思っているように女性が男子の制服着るのはおかしいよね。わたしもそう思う。だったら今の蒼はどちらの制服を着るのがいいと思う?」
「・・・女子の制服」
「わかっているじゃない。それでいいのよ。最初は違和感あるかもしれないけど、それはしょうがないと思う。自信を持てとは言わないけど、そのままでいいのよ。だって男だろうと女だろうと蒼は蒼でしょ。あるがまま受け入れ行けばいいのよ。」
そう母さんに諭されて不安な気持ちが大分和らいだ。それがわかったのか母さんがにこやかに言ってきた。
「蒼、折角だから顔だけ試着室から出すんじゃなくて、制服姿を見せて欲しいな。」
そう言われて、照れながらカーテンを開けた。
「すごい似合っているじゃない。これならどこに出しても恥ずかしくない。蒼に自信が無くても母さんが自信をもって送り出してあげる。だから安心していいからね。」
「うん」
母さんがいてくれて良かった。こんなのきっと一人では抱えきれずに心が壊れていたかもしれない。
恥ずかしくて言葉にできなかったけど、心の中で「母さんありがとう」と言った。
こうして怒涛の買い物は終わり家路についた。
翌日、父さんが全身筋肉痛で身体のあちこちに湿布を貼りしばらく苦しんでいたのは御愛嬌。
まだ話は続きますが、今回で「入院編」は終了になります。
次回からは、「学校編」になります。
今回タイトル付けずにやってるから、いまさらながらに「入院編」と言ってもおかしな気がしますが、温かい目で見守ってください。
これからも宜しくお願いします。




