第十八話
病室の扉をノックする音がして扉が開き俺に声をかけてきた。
「蒼、お待たせ。迎えにきたぞ。」
そう言ってきたのは父さんだった。
「父さん、ありがとう。」
そういうと病室に先生や看護師さんがいることに気がついた父さんは、慌てて挨拶をした。
「あ!すいません。挨拶が遅れまして。このたびは大変お世話になりました。蒼がこうしてここにいられるのも先生や看護師さんのおかげてす。ありがとうございました。」
そう言って深々と頭を下げた。
「お父さん頭をあげて下さい。頑張ったのは蒼くんですよ。我々はその補助をしたにすぎないです。」
「そうですよ。お父さん、蒼くんの生きる力が強かったからこうして元気に退院できるんです。」
先生と看護師さんは父に俺が頑張ったからだと言ってくれてるが、目の前でこんな会話をされたらこれは恥ずかしい・・・
「そうか、そうだよな。蒼が頑張ったからここにいられるのだな。蒼・・・元気になってくれてありがとう。」
そう言って父さんが優しくハグをしてきた。しかし、ただでさえ恥ずかしい状況だったのに俺は今まで一度もそんなことされたことないハグをされて軽くパニックになってしまい意識が遠のいた感じがした時だった。
何といえばいいのか、突然身体のコントロールが効かなくなり自分の身体を別な何かが動かしているような感覚になった。
「ちょ、ちょっと、パパ!!や、やめてよ。人前で年頃の女の子に抱きつくなんて変態と思われちゃうでしょ!!」
俺の身体は意思とは無関係に父さんの身体を両腕で押し返しながらそう言葉を発した。
「・・・パパ?蒼、どうしたんだ急に」
突然の言葉使いの変化に驚いた父さんが俺を見ながら目を丸くしていた。しかし、自分の身体を動かすことも出来ない状況でどうする事も出来なかった。目を動かすことも出来ず自分の目が勝手に見る方向しか見る事が出来ない。まわりを確認する事も出来ない。そんな中俺の身体は勝手に動き続けた。
「パパ、信じられないかもしれないけどわたしは葵よ。やっと蒼の中から出てこれたの。」
葵?どういう事だ。俺の身体を動かしているのは葵と名乗る人物なのか?
まてまてこれは俺の身体だ。
『動けよ。動け!!』
そう意識を強く持った時だった。
「あ・・・駄目」
そう俺の身体が発したの最後に自分の身体が自由を取り戻した。
「よし。動くぞ」
思わず、身体が動く事を確認するように喋った。そうすると父さんが驚いたように話しかけてきた。
「蒼?どうしたんだ?葵って・・・どうしてお前が・・・」
父さんが混乱している所に先生が割って入ってきた。
「もしかしてあおいちゃんが出てきたのか?今の君はどっちだ?」
先生が慌てたように聞いてきた。
「・・・俺は蒼です。どういう事なんですか?」
「昏睡状態の時に病室を出たりして暴れた事は説明しただろ。その時君が名乗っていたのが葵という人物だ」
それを聞いてベッドの所の事を思い出した。
「そう言えば、そこのベッドの名札の落書きが葵でした。どういうことなんです?」
それに先生が答えてくれた。
「詳しく調べて見ないと分からないが考えられるのは、解離性同一性障害、いわゆる二重人格かもしれない。身体が急に女性化した為に、身体が作り上げた人格かもしれない。蒼くんが意識を取り戻してから現れなかったから大丈夫かと思ったんだが・・・もしかしたらこれからも現れるかもしれないな。」
二重人格?葵?訳がわからない俺の身体はどうなっているんだ。
「だが、怖がる必要はないよ。もし解離性同一性障害だとしてもそれはあくまでも君自身である事にはかわりがない。今の蒼くんの状態は、自分は男なのに体は女になり心のバランスが崩れている。男としての自分を守る為にもう一つの自分を作り上げてという事がおきたのかもしれない。だけど、解離性同一性障害だとすれは初期のだと思われるから、否定するのでなく肯定してあげるのだ。そうすれば二つの人格が徐々に統合されている事が多い。」
「そ、そうなんですか・・・」
なんて返事していいかわからず、そう答えるしかできなかった。俺の意識は確かにあるのに身体が全く動かせない、そして別のもう一人の俺が身体を動かし喋るという状態が二重人格なのか・・・そんな思考を止めるように父さんが話かけてきた。
「すまん。蒼。慣れない事をした俺がいけなかった。」
申し訳なさそうに父さんが話してきた。俺の態度が・・・いや、俺じゃないのだけど・・・だけど俺の体がやったことで、わけがわからなくなってきた。兎に角取り繕うように父さんに話しかけた。
「あ、大丈夫だよ。突然の事でパニックになっただけだから、気にしないで。」
そういうと、父さんは少し安心したように方の力を抜き、先生に質問をした。
「先生これは、このままでいいのでしょうか?」
先生は父さんの問いに少し考え込んでから答えた。
「解離性同一性障害となれば治療が必要になってきますが今はこのまま様子をみましょう。もしかしたら蒼くんが女性として成長して行く上で必要な事かもしれないですし、なにせ男性から女性に変わった前例がないので落ち着いて見守りましょう。もし問題行動などが起こるようであればその時に対応を考えましょう。」
先生に説明を受けた父さんは、とりあえず納得したように頷いた。
父さんと先生の間でなんとなく話がまとまってしまったようで俺の入りこむ余地がどこにもなくなってしまった。呆気に取られていると父さんが俺の肩を叩き、
「さあ、行こうか。何かあったらまた先生や看護師さんに相談しよう。今日は蒼の退院だ。喜んで行こう。」
「そうだね。やっと退院できるんだから喜んでいいよね。」
俺がそういうと先生と看護師さんは頷いてくれた。
「お世話になりました。これで失礼します。」
父さんが頭を下げたので、慌てて俺も「ありがとうございました。」と頭を下げた。
「いつでも心配になったらきて構わないぞ。それに定期検査は引き続きしばらくは続けて行くからその時でも構わないよ。」
「わかりました。」
そう返事をして改めて頭を下げて病室を出た。
そして母さんの待っている車に乗り込み、家に向かって父さんの運転で車走り出した。
少々の不安を抱えながら・・・




