第十一話
『やめて!!見ないで!!』
突然の叫びに驚き開きかけた寝間着を閉じ、人がいたのかと驚き周りを見回したが人の気配はない。カーテンの向こう側に息を潜めているのかもしれない・・・
「そこに隠れているのは誰だ!」
と強く叫んだ。そう言えば、隠れているやつがいても見つかったと思い出てくるかと思ったけど、しかし返事は無い・・・
幻聴?でも確かに聞こえたよ・・・
一体誰なんだ?そんな事を考えていると外にいた看護師が慌てて入ってきた。
「どうしました?大きな声が聞こえましたが・・・」
「すいません。誰かの声が聞こえたような気がしたのですがこの部屋は俺だけですか?」
「そうよ。ここはあなたしかいないわよ。」
「気のせいみたいです。お騒がせしました。」
そう言って頭を下げた。そうすると髪の毛が前に落ちてきた。
「髪の毛ずいぶん伸びたから驚いたでしょ?」
「はい」
「髪の毛伸ばした経験ある?」
「無いです。」
「そうよね。あ!そうだ。」
そう言うと看護師さんがポケットから何か取り出した。
「ちょっとわたしに背中に向けてくれる?」
なんだろうと思いながら看護師さんのいう通りに重い身体を動かして背中を向けた。
すると看護師さんは「櫛が無いから雑になっちゃうけど」といいながら俺の髪の毛を手櫛で整えて何やら髪の毛を編んでいるみたいだった。しばらくすると
「はい!出来上がり!!これならあまり邪魔にならないでしょ。後で櫛を持ってきてあげるね。そうすればちゃんとやってあげるから今はそれで我慢してね」
髪の毛を確認してみると三つ編みに編まれていた。先のところをピンクのリボンで結ばれていた。
ピンクのリボンは恥ずかしかったが、そのおかげで顔をどの方向に動かしても髪の毛が邪魔にならないので嬉しかった。
「ありがとうございます。十分ですよ。これなら邪魔になりません。」
「よかったわ。でもこれからは女の子なんだからこういうところもちゃんと整えられるようにしないとね。」
看護師さんに整えてもらった髪を触りながら、そうだよな。これこらは自分でもできるようにしていかないいけないだよな。とりあえずは、長い髪の毛がまとまって鬱陶しさが消えてホッとした。しかしこの髪どうしたものかな。女性として生きて行くなら髪は前みたいに短くって訳には行かないよな。後で母さんに相談してみよう。そんな事を考えていたら看護師さんが話しかけてきた。
「どう?あれから大分時間たったけど、落ち着いた?」
「はい。ショックですけど、諦めるしかないというか、覚悟していたというか・・・少しずつ受け入れて行こうと思います。」
「そうね。それがいいと思うよ。受け入れられるところから少しずつ受け入れて行けるよ。蒼くんなら大丈夫よ。」
そう言ってまだ不安な俺を看護師さんが励ましてくれた。嘘でも気休めでもそう言ってくれて嬉しかった。不安が少し軽くなる感じがした。そんな考えをしていた俺に看護師さんは髪の毛を褒めてくれた。
「綺麗な髪の毛よね。綺麗な赤毛で髪質もとってもいい。羨ましい髪よ。」
「そうなんですか?髪の毛って伸ばした事なくてよくわからないですよ。」
「こんな綺麗な髪質なかなかいないよ。きちっと手入れすればもっと綺麗になるよ。」
何か自分が褒められているようで、恥ずかしくなって照れてしまった。
「そんな風に照れてる姿・・・可愛いわね。もう、女の子の身体に順応しちゃった?」
俺は慌てて首を横に振った。
だけどそんな仕草も可愛いかったようで看護師さんは
「もう、可愛過ぎ!抱きしめたくなっちゃう。だけど、今の蒼くんを抱きしめたら骨折れちゃうから気をつけなきゃ。」
そう言って残念そうに俺を見ていた。俺は不思議に思い聞いてみた。
「折れちゃうって、どうしてです?」
ちょっと困った様な顔をしながら看護師さんは説明してくれた。
「あまり気持ちのいい話じゃないから・・・覚悟して聞いてね。一応先生にも聞かれたら教えて言いと言われてるから教えるね。」
何だろう。真剣な表情になった看護師さん。その表情をみながら俺は唾を飲み飲んだ。
 




