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24

作者: ぶどう

私は佇んでいる。


追い出されたときに持っていたお金も、もう少ない。年期の入った子供っぽいがまぐちを広げても、私が中を確認する束の間、小銭が幾つか、鈍く赤く寂しく、夕日に照らされるだけだ。


もう、どうしようもないことは心の奥底で分かっている。ただ何かを確認するために何度も何度もがまぐちを広げた。


どうやら家には私を養うお金がないらしかった。そこで私の父親は、多分誰が見ても自分勝手のクズと即断するであろう性格の父親は、あのがらんどうから私を追い出した。私の代わりに酒と女でも買うのだろうか。


背後でエンジン音が通り過ぎる。そう、私は道路を後ろに、川と夕日を前に佇んでいる。


いつか父親と銭湯に行くとき、こんな夕日の中を歩いた気がする。まだ私が男湯に入れるような昔だ。最後に父親と銭湯へ行ったのはいつだろうか。今日みたいな秋の夕方で、風が冷たくて、かじかんだ手を大きな固い父親の手と繋いだこと以外、思いだせない。今の父親の姿からは全く想像できない。


母は私より早く夫の腐敗に気付き、いつの間にかいなくなっていた。私も母のように自分から出ていくべきだったのだろうか。どうせもうあそこには何もないのだから。


側に佇む木が風に揺れた。木の葉が舞う。その風は次に私の髪を揺らす。それが少し清々しかったので、私は考えることをやめた。


夕日はそろそろ見えなくなりそうだ。背後の空は既に夜と混じり始めている。紫色の空が、段々と広がっていくのを、首が痛くなるのにも関わらず見上げていた。


寒い。耳が冷たい。鼻の先がニキビで少し痛い。手のこうが冷えてヒリヒリする。


私はがまぐちを握りしめていることを思いだした。かじかんだ指を強引に動かしてがまぐちを広げる。小銭はもう輝きを失っていた。


がまぐちを閉じると、大きく振りかぶり、真っ黒な川に向かって投げた。とぽん、と音がしたがどこに落ちたのかは分からない。拾うつもりはないから別にかまわなかった。


がまぐちのざらざらとした心地好い手触りの記憶を、冷たい風がさらっていく。心にも秋の風が容赦なく吹き付けた。


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