鳥の目
これは東北大震災と関わる点があります。抵抗のある方はご注意ください。
黒翼は身震いして、翼をたたみなおした。
背筋に走る、嫌な予感。野生の本能がここから逃げろと叫んでいる。
黒翼はカァと鳴いて飛び立った。
しばらく飛んでいると、四方八方から鳥の一団が現れた。
彼らも必死で逃げているようだ。黒翼は自分と同じカラスの一団から、情報を得てみようと考える。
その時、ドンという爆音と共に、体中に大きな振動が伝わった。
音の発信源に振り向くと、そこには灰色の見たことのない雲が地面から生えていた。
「なんだあの変な雲」
黒翼や鳥の一団は、音や雲への困惑と恐怖をおぼえる。彼らはスピードを上げて、あの場所から遠ざかっていった。
黒翼は故郷と違う、温かい気候の土地に落ちついていた。
そして恐ろしい事実を知る。
あの変な雲はホウシャノウという見えない化け物がまき散らされたことを示すものだと。
その化け物は種類によって、何百年もかからないと死なない。
そして化け物は生きているあいだ、自分たちを傷つけ続ける。
黒翼は生物として危険を感じ、ここまで逃げてきた。
この近くでは約六十年前にも同様の事例があり、死んでいった鳥たちやニンゲンがいるという。
この情報は、ここに住んでいたカラスたちから聞いた。
そして、さらに情報を集めるため、黒翼はニンゲンの家に通っていた。
窓から動く絵をのぞき込み、故郷の様子を見る。
黒翼には、そこが廃墟にしか見えなかった。
瓦礫だらけで、ホウシャノウをまき散らしたゲンパツは無惨な姿のまま外にさらしてある。
そして、その近くにニンゲンがいる。生きているニンゲンが。
黒翼には不思議でたまらなかった。
彼らは歩いている。
移動できる。
いたって普通のニンゲン。
それなのに、なぜ危険な土地にいる。死にたいのだろうか。
だが、ニンゲンはクスリとか刃物で簡単に自殺できるという。
黒翼には理解できなかった。
しかし、半年ほどすると動く絵に映ったのは瓦礫の街ではなく、新たな生活を手に入れたニンゲンだった。
「あれをもとに戻そうとしたのか、ニンゲン?」
動く絵をしばらく見ていると、故郷自体はまだ瓦礫ばかりだった。
「ニンゲン、変な生き物だ」
自分で自分に害のあるものをつくったり、逃げればいいのに逃げずに戦おうとする。
カラスやほかの生き物には無い、不思議な力だ。
ニンゲンならできるかもしれない。
ホウシャノウが生物に害を与えることは変わらない。
過ちをおかしたことも変わりはない。
政府はニンゲンが持てる、立ち向かう力を捨てて、自分だけ逃げようとした。
今力を持っているのは、一般市民の方ではないだろうか。
ただ、一歩間違えればまた化け物をつくることにもなる。
力は、恐ろしい。
でも、使えるはずだ。
ニンゲンなら。
復興に。
御一読、ありがとうございました。
このシリーズは、よく考えると人外視点が多いものです。これもその一つ、カラスが感じたことからニンゲンの行なう、復興という行動を描いたものです。
皆さんは、政府や科学者たちの行動に「ふざけるな」と思いませんでしたか?
彼らは重大な過失を認めずに逃げ、ただただ混乱していました。
これを見て、彼らの言うことを鵜呑みにするのは政府と一緒です。
ただ非難して絶望するのも、進展がないという点で上記と同じです。
復興には、立ち向かうことしかないでしょう。
それはどんな形でもいいのです。
真実を知る、というだけでも未来を救えるかもしれません。
募金やボランティアなんて、そうできない。
募金などは実際被災者の手に届くまでかなりの時間がかかりますしね。
確実に、何かの為になることは何か?
これは一人一人違うはずです。
まずは、考えてみてください。