第1話 幻想(ゲンジツ)は時に非常である
「ん……? 知らない天井? っていうか息苦しい?! 暗ッていうかここどこ?! 痛っ!! おでこ打ったぁ」
ふっと意識を取り戻したボクは薄暗く狭いどこかで寝転んでいた。
勢いよく頭を上げると硬い何かに額を打ちつけ悶絶すること数十秒。
どうやら自分は今箱か何かの中にいるらしい、と理解するのにさらに数秒。
そして自分の身体の大きさが小学生クラスのものになっていることに驚愕すること数分間。
額の痛みが治まった後ボクは改めて現状を打開するために漆黒の壁を両手で押し上げると、そこに広がっていたのはどこか大きな…まるでお城のような金や銀などで豪勢に装飾が施された高級感溢れる一室だった。
中々センスのいい絵画が飾ってあったりどこかの美術館でみたことがあるような石像が置かれていたり………
「こんな綺麗な部屋…なのになんで棺桶?」
空けてから気付いたものの、自分は棺桶の中で眠っていたらしいことが判明した。
いや、吸血鬼だから棺桶っていうのはあまりにもスタンダードすぎてちょっと……
「って、吸血鬼?!ボク吸血鬼になってる?!」
急いで棺桶から飛び出し背中に感じる違和感を確かめるため鏡を探す。しかし……
「ない……ない……ない!!鏡がないよ!!どういうこと?」
時折豪勢な窓から外の景色を見ることが出来たが、外は真っ暗で空には赤い血のような大きな月が浮かんでいた。
こんなところ知らない、こんな場所知らない!なんで?どうしてボクはここにいるの?!
誘拐? 拉致? 監禁? 調教?
「う…うわぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
「落ち着け…落ち着いて考えるんだ。ひとまず……なんでこんなところにいるんだろう?」
叫んでから数分後ようやく落ち着いたボクがしたことは何故こうなったかを考えることだった。
幸いにも気を失う前までの記憶は残ってる。焦らずゆっくり、1つ1つ思い出していこう。
確か、自分のPCにオンラインゲームのβ版テスター当選メールが届いて…
何となく面白そうだったからそのままゲームを始めることにして…
金髪ロンゲのロリ幼女吸血鬼を作成して…
ステータスやアビリティの設定をして…
知らない誰かの声が
「そう!声だよ声!誰かがボクの側に居たんだ!アイツがボクをここに連れてきたに違いないんだよ!」
薄らとしか見えなかったけれどまるで影のような黒い何かがボクの側に居たんだ。
きっとそいつがボクを誘拐したに違いない!
「でも、なんでボクがボクじゃなくなってるんだろう?」
改めて身体を調べてみてもそこにはどうみても自分の物とは思えないほど白くてキメ細やか、かつ弾力性のあるモチモチとした肌と小さい手足。
そして短かった髪の毛は今や腰元を越えるほど長くなっていて色は金色。
着ている服も何故か赤いネグリジュだし……ははっ……これじゃメイキングしたあのキャラと同じじゃ――――――
「…………?」
メイキングしたあのキャラと…同じ…?
まさか…まさかまさかまさか!!
ボクが……ゲームのキャラクターになっている…?
そう気付いた時、ボクはあまりの事態に驚愕し、絶望し、脱力して腰が抜けてしまった。
自嘲的な笑みを浮かべたボクはあまりの幻想に笑うことしか出来ない。
「は…はは…はははは…あははははははははははははあーっははははははははははは!!」
掠れた笑い声は次第に大きくなりこの静かなる屋敷を延々とこだましていく。
それがあまりにも静で、ボクは笑いを止めることが出来なかった。
「なんだ、なんだよ、なんですか?! この素敵に愉快なイベントはッ!!! 体験型MMO? ゲームの世界? ふざけるな!! ボクを帰せ! いますぐ帰せ!!!」
いくら泣き叫んでも意味が無い。
直感的にそう思ったけれど、それでもボクはそれを止めることなんて出来なかった。
「うっく……」
どれくらい泣き叫んだだろうか。
見れば真紅の月が照らす夜空は今はもう薄らと光を取り戻しつつある。
しかしその明かりに照らされる大地は決して自分が知るような大地ではなく、ボクの精神をガリガリと削り続ける。
ボクは……どうして、どうすれば……
「落ち着きましたでしょうか?」
「ッ?!」
突然背後から自分ではない、つまり他人の声が聞こえた。
慌てて振り向くとそこには今の自分よりも2、30cmは高い赤い髪の女性が立っていた。
一体いつから? どうしてここに?
様々な疑問が次から次へと沸き起こりまるで金魚のように口をパクパクさせるボクを見て、その女性はとても柔らかな笑みを浮かべた。
「誕生おめでとうございます。アイズ・サヴェンツィ様」
「……たん、じょう……?」
はい、と首を立てに振る女性にボクはどこか居心地の悪さを覚えた。
意味が解らない。理解出来ない。一体どういうことなのか。
けれど目の前のこの女性に聞けば答えてくれるのだろうか?
正直そこまで信頼していいものなのかも解らない。
このヒトは信頼してもいいヒトなんだろうか? こちらの名前を知っていたということはやはり何かしらの関係者であることは間違いないはず。
しかしこのヒトの持つ情報が正しいものなのかも解らないし、第一こんな不可解で理不尽で理解不能で意味不明な状況のボクに正直に全てを話すなんてありえるだろうか?
「………」
否。
ボクはキッとその女性を睨みつけながら現状の打開を思案することにした。
だというのに…だというのにこの女性は―――
「アイズ様が不可解に思われていることも存じております。そのこともお話したいと思いますので、ご案内いたしますから私の後についてきて頂けませんでしょうか?」
「イヤ。ここで話して」
罠かもしれない。
こんな状況で誰が他人を信じられるだろうか?
第一そこで話をしようがここで話をしようが何も変わったことはないはず。
「……ですがもうじき日が昇ります。生まれたばかりのアイズ様では日の光を浴びてしまうと…」
「っ…」
そ…そうだった。今のボクは吸血鬼なんだ。
そして今居る場所はこの大きな屋敷の廊下で、そして大きな窓からはもうじき直射日光が入るわけで…
「せめて、日の当たらないお部屋にご案内致しますので、どうかついてきては下さいませんでしょうか」
結局ボクはしぶしぶながらも頷くしかなかった。
いつだって現実は非常である。
「………解った」
「ではこちらへどうぞ」
ホッとした笑みを浮かべる女性に何故か少々罪悪感を感じたものの、決して警戒は怠らずボクは彼女の後に続く。
こうしてボクはそこでこの世界の現実と向き合うことになる。
番外編
妹「ねぇお母さん」モジモジ
母「何?」
妹「ちょっとトイレに行ってきたいんだけど」モジモジ
母「そう。じゃあ行ってきなさい」
妹「」ktkr
母「でもその抱えているノートパソコンはここに置いていきなさいよ?」
妹「」(´・ω・`)ショボーン
母「1分で戻ってこれなかったら……解ってるわね?」
妹「」。・゜・(ノД`)・゜・。ウエエェェン