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第3章 — 帝国アカデミー特別プログラム

初めまして、ヴァンガードです!新しく逆異世界ファンタジーの連載を始めました。毎日18時に更新予定ですので、よろしくお願いします!

レオが帝都に到着してから、三週間が過ぎていた。


その三週間のうちに、彼の生活はそれまでの子供時代全体よりも大きく変わっていた。


毎日、きちんとした食事を三度とった。


暖かいベッドで眠った。


新しい服を与えられた。


一か所にこれほど多くの本が存在しうるとは思わなかったほどの、膨大な書物に触れることができた。


指先で炎を操る学者や、魔力で動く機械を作る技術者、そしてまるで長年の知り合いであるかのように彼に接する精霊たちにも出会った。


だが、それらすべてがあったにもかかわらず……


レオはまだ、帝国アカデミーに入学してはいなかった。


ある晴れた秋の朝、状況が変わった。


レオが自室の鏡の前に立つと、使用人が新しい制服の襟を整えてくれた。


貴族が身にまとう豪華な衣装に比べれば、それは質素なものだった。


濃紺のジャケット。


銀色の縁取り。


白いシャツ。


黒いズボン。


そして、左胸に刺繍された小さな金の紋章。


その紋章は、帝国アカデミーを象徴するものだった。


レオは自分の姿を見つめた。


「……変に見えるかな?」


メイドは微笑んだ。


「とんでもございません、若様」


彼女は襟を正した。


「立派なアカデミーの生徒さんに見えますよ」


レオは改めて自分の姿を見下ろした。


「アカデミーの生徒……」


その言葉は不思議な響きを持っていた。


アッシュベールにいた頃、教育といえば、穀物袋の数を数えたり、畑を測量したり、簡単な掲示を読んだり、冬までにどれだけの食料が残るかを計算したりすることだった。


だが今は……


世界有数の魔法教育機関で学ぶことになっているのだ。


ドアをノックする音がした。


「レオ」


レイフォードの声だった。


レオは振り返った。


「入って」


その帝国将校は部屋に入ってきた。


彼は数秒間、レオを見つめた。


そして微笑んだ。


「準備はいいな」


レオは頷いた。


「うん」


レイフォードはベッドの脇に積み上げられた本に目をやった。


「もう三冊も本をまとめたのか」


レオはそれらを見た。


「……必要になるかもしれないから」


「学校へ行くんだぞ、レオ」


「わかってる」


「図書館ごと持っていく必要はない」


レオは少し考えた。 「……本は何冊まで持ち込めるんですか?」


レイフォードは笑った。


「その三冊だけでいい」


レオは真剣な面持ちで頷いた。


「わかりました」


レイフォードはドアの方を向いた。


「行こう」


「初日が待っている」


馬車は、明るい朝の空の下、帝都を進んでいった。


レオは窓際に座っていた。


いつものように……


彼はあらゆるものを観察していた。


今朝の帝都は、馬車から見ると違った表情を見せていた。


学園の制服を着た子供たちが通りを歩いている。


従者を連れている者もいれば、


小さなグループで歩いている者もいる。


魔力で車輪が淡く光る、魔導自転車に乗っている者も数人いた。


レオは通り過ぎていく一台を目で追った。


「……あれは便利そうですね」


レイフォードは外に目をやった。


「魔導の乗り物だ」


「子供でも使えるんですか?」


「許可があればな」


レオは頷いた。


やがて、彼の関心は別のものへと移った。


美しい刺繍が施された制服を着た子供たちの集団が、馬車の横を通り過ぎていったのだ。


彼らの服には、それぞれ異なる家紋があしらわれていた。


ある者は貴族の家の紋章を身につけ、


ある者は銀の竜の紋章をつけ、


またある者は小さな儀礼用の剣を帯びていた。


レオは彼らが遠ざかっていく姿を見送った。


「……彼らもみんな、生徒なんですか?」


「ああ」


「みんな魔法を学ぶんですか?」


「大半はな」


レオは頷いた。


そして、自分の制服に目を落とした。


そこには、帝国学園の校章があるだけだった。


家紋はない。


貴族の紋章もない。


レイフォードはそれに気づいた。


「違いが気になっているんだな」


レオは顔を上げた。


「……はい」


レイフォードは小さく微笑んだ。


「学園には、様々な背景を持つ生徒がいる」


「貴族」


「商人」


「軍人の家系」


「学者」


「そして平民だ」


レオは再び外を見た。


「彼らはみんな、一緒に学ぶんですか?」


「一緒に学ぶ者もいれば」


「そうでない者もいる」


「どうしてですか?」


「学園にはいくつかの課程があるからだ」


レイフォードは言葉を切った。


「お前が入るのは、かなり特殊な課程だよ」


レオの目が輝いた。


「どうしてですか?」


「機密扱いだからだ」


レオは瞬きをした。


「……機密?」


「表向きは、帝国の特別な教育計画の一環ということになっている」


「では、裏向きには?」


レイフォードは微笑んだ。 「帝国は、お前にあらゆるものへのアクセス権を与えたらどうなるか、それを見てみたいと思っている」


レオはその言葉を反芻した。


「……あらゆるもの、ですか?」


「ほぼすべて、だ」


レオは期待に目を輝かせた。


「それはいいですね」


レイフォードは笑った。


「そう言うと思ったよ」


やがて、馬車の速度が落ちた。


レオは窓の外に目を向けた。


彼は目を見開いた。


巨大な黄金の門の向こうに、帝国アカデミーがそびえ立っていた。


門そのものの高さは、優に二十メートルはあった。


その表面には、古代のルーン文字が刻まれている。


門の両脇には、二体の巨大な像が立っていた。


一体は、杖を手にした伝説の魔導師の姿。


もう一体は、精霊たちを従えた戦士の姿だった。


門の先には、広大なキャンパスが広がっていた。


緑豊かな中庭を見下ろすように、そびえ立つ校舎群が並ぶ。


魔導実験棟は、クリスタルのドームに覆われていた。


巨大な図書館が、一つの棟を丸ごと占めていた。


東側には訓練場が広がっている。


いくつかの塔は、空中に架けられた橋で結ばれていた。


そして、そのすべてを見下ろすように……


巨大な時計塔が、アカデミーの紋章を掲げていた。


レオは窓に顔を押し付けた。


「……村よりずっと大きいな」

レイフォードは微笑んだ。


「もっとずっと大きいよ」


馬車が止まった。


制服を着た学園の職員が近づいてくる。


「レイフォードさん」


レイフォードは馬車から降りた。


「アルドレン教授」


レオが以前教えを受けた、あの老学者が微笑んでいた。


「レオ君」


レオも馬車から降りる。


「おはようございます、教授」


アルドレンはくすりと笑った。


「相変わらず礼儀正しいね」


レオは頷いた。


「挨拶を教えてくれましたから」


「私が?」


「昨日」


「……ああ」


アルドレンは笑った。


「そうだったね」


教授は学園の方を向いた。


「さあ」


「新しいクラスメートたちが待っているよ」


レオは動きを止めた。


「……クラスメート?」


「ああ」


「何人ですか?」


「十四人だ」


レオは目を見開いた。


「……十四人?」


アルドレンは微笑んだ。


「心配はいらないよ」


「子供たちだからね」


レオは頷いた。


「わかっています」


「それなら、なぜ緊張しているんだい?」


レオは静かに、その巨大な学園を見上げた。


「……クラスメートなんて、今までいたことがないから」


アルドレンの表情が和らいだ。


「それなら、今日は初めての経験になるね」


特別プログラムの教室は、学園の中でも最も古い区画にあった。


一般の生徒が使う巨大な講義室とは違い、その部屋は驚くほど小さかった。


机は十五脚しかなかった。


大きな窓からは、魔力を帯びた木々が植えられた庭が見える。


壁一面には本棚が並んでいた。


正面には黒板がある。


教室内には、すでに十四人の生徒がいた。


ドアが開いた瞬間……


会話が途絶えた。


十四人の視線がレオに向けられる。


アルドレンが先に中へ入った。


「おはよう」


生徒たちが立ち上がる。


「おはようございます、教授」


「座りなさい」


全員が従った。


アルドレンは脇へ退いた。


「彼がレオ君だ」


何人かの生徒がすぐに囁き合った。


「あれが彼か?」


「『精霊の王』?」


「魔力測定用の水晶を暴走させたって聞いたぞ」


「父上は、皇帝陛下直々の命で教育を受けているって言ってた」


「アッシュベール出身なんだろ?」


「村?」


「本当に?」


レオには、その囁きがすべて聞こえていた。


だが、彼は反応しなかった。


アルドレンは話を続けた。 「レオは特別プログラムに参加することになった」


「彼も君たちと一緒に学ぶことになる」


「他の生徒と同じように接するように」


前の方に座っていた少年が手を挙げた。


「先生」


「なんだい、セドリック?」


「彼は貴族なんですか?」


教室が静まり返った。


レオはその少年に目を向けた。


アルドレンは落ち着いた様子で答えた。


「いや」


セドリックは瞬きをした。


「それなら……」


彼は困惑した表情を浮かべた。


「なぜここにいるんですか?」


アルドレンは微笑んだ。


「彼がその資格を勝ち取ったからだよ」


セドリックは眉をひそめた。


「彼は入学試験を受けていません」


「その通りだ」


「貴族向けの学校で学んだわけでもありません」


「その通りだ」


「農村の出身です」


「その通りだ」


少年の困惑は深まるばかりだった。


「それなのに、どうやって資格を得たんですか?」


アルドレンはレオの方に視線を向けた。


「それは……」


彼は微笑んだ。


「……君たち自身で確かめることだ」


レオは空いている机に向かって歩き出した。


他の生徒たちのそばを通る際、彼らの服装に目が留まった。


大半は家紋があしらわれた制服を着ていた。


高価な魔導具のアクセサリーを身につけている者もいた。


ある少女は、小さなサファイアの結晶が埋め込まれたブレスレットをしていた。


別の生徒は、家の紋章が刻まれた銀のペンを持っていた。


レオは席に着いた。


隣の少年がすぐに身を乗り出してきた。


「やあ」


レオは彼を見た。


「こんにちは」


「僕はトーマス」


「レオ」


「知ってるよ」


レオは瞬きをした。


トーマスは笑った。


「みんな知ってるさ」


レオはどう返事をしていいかわからなかった。


トーマスは声を潜めた。


「本当なの?」


「何が?」


「精霊がどこへでもついてくるって話」


レオは周囲を見回した。


確かに、窓の近くに小さな精霊が何体か浮かんでいた。


「……時々はね」


トーマスは目を丸くした。


「僕にも見えるかな?」


レオは指を差した。


「君の後ろに一匹いるよ」


トーマスはすぐに振り返った。


何もいなかった。


「……どこ?」


レオは微笑んだ。


「移動しちゃった」


トーマスは残念そうにした。


「みんなに対して隠れるの?」


「時々はね」


「どうして?」


レオは少し考えた。


「……恥ずかしがり屋なのかもね」


トーマスは微笑んだ。 「面白いな」


レオは頷いた。


「そうですね」


トーマスが手を差し出した。


「まあ……」


彼はにやりと笑った。


「俺たち、友達になれそうだな」


レオはその手を見つめた。


これほど率直に友情を求められたことなど、今までなかった。


ゆっくりと……


彼はその手を握り返した。


「そうですね」


トーマスは微笑んだ。


「いいな」


二人は、部屋の向こう側から自分たちをじっと見つめている少年のことに気づかなかった。


彼の名はセドリック・ヴァレモント。


帝都でも屈指の由緒ある貴族の出身だ。


父は帝国評議会の議員を務め、


母は高名な宮廷魔導師だった。


彼は生まれてこのかた、偉大な存在になる運命にあると言われ続けてきた。


それなのに……


入学試験さえ受けていない六歳の村の少年が、教室に足を踏み入れてきたのだ。


セドリックは視線を逸らした。


「……ふん」


最初の授業は、魔法の基礎理論から始まった。


アルドレン教授が黒板にいくつもの数式を書き連ねる。


「マナとは、あらゆる魔法現象の根源となるエネルギーである」


彼は教室内を見渡した。


「マナを操作する三つの主要な方法について、説明できる者はいるか?」


何人かが手を挙げた。


セドリックが真っ先に答えた。


「体内循環、外部成形、そして属性変換です」


「正解だ」


アルドレンは微笑んだ。


「素晴らしい」


彼は授業を続けた。


レオは熱心に耳を傾けた。


内容はすでに大半を知っていた。


だが、彼は口を挟まなかった。


ただ静かに、ノートを取っていた。

続いて、アルドレンはより複雑な課題を提示した。


「この式は、標準的な属性魔法のマナ効率を表している」


彼はいくつかの数式を書き込んだ。


「予想されるエネルギー損失を計算しなさい」


生徒たちは作業に取り掛かった。


セドリックはすぐに書き始めた。


トーマスは自分の答案を見つめていた。


「……2段階目の手順がわからない」


レオがちらりと視線を向けた。


「最初の循環ループのバランスが取れていないんだ」


トーマスはまばたきをした。


「え?」


レオが指差した。


「ここだよ」


トーマスはそこを見た。


「……ああ」


彼は眉をひそめた。


「どうしてそれがわかったんだ?」


レオは肩をすくめた。


「間違っているように見えたから」


トーマスは彼をじっと見た。


「それじゃあ、何の役にも立たないよ」


レオは微笑んだ。


「悪いね」


10分後……


アルドレンは答案を回収した。


彼は一枚ずつ答案に目を通した。


大半は正解だった。


セドリックの答案はほぼ完璧だった。


そして、レオの答案にたどり着いた。


彼は手を止めた。


眉を上げた。


答えは合っていた。


だが、レオは式そのものを書き換えていたのだ。


アルドレンは彼を見た。


「レオ」


「はい?」


「なぜ式を変えたんだ?」


「非効率だったからです」


教室が静まり返った。


セドリックの表情が険しくなった。


またか?


アルドレンはその式をじっと見つめた。


そして……


彼は微笑んだ。


「気づいたんだな」


レオは頷いた。


「3番目の循環ノードが、不要なマナの損失を引き起こしています」


アルドレンは教室の方を向いた。


「皆」


生徒たちが顔を上げた。


「レオの解答を見てごらん」


数人の生徒が身を乗り出した。


セドリックも渋々目を向けた。


アルドレンはその修正点について説明した。


説明が終わる頃には……


何人もの生徒が感心した様子を見せていた。


トーマスがにやりと笑った。


「すごいな」


ある女子生徒がささやいた。


「セドリックより早く解いたんだわ」


セドリックはその言葉を耳にした。


彼の表情が曇った。


レオは気づいていなかった。


式を見つめるのに夢中だったからだ。


「教授……」


「うん?」


「これ、さらに改良できるでしょうか?」


アルドレンは目を丸くした。


「……さらに、だと?」


レオは頷いた。


「循環の角度を調整すれば……」


彼は黒板を指差した。


「……損失をあと3パーセントほど減らせるはずです」教室は静まり返った。


アルドレンはゆっくりと微笑んだ。


「それなら……」


彼はレオにチョークを渡した。


「見せてくれ」


レオは立ち上がった。


そして、書き始めた。


教室の外では……


二人の上級教官が、ドアの近くで足を止めた。


一人が中を覗き込んだ。


「何の授業だ?」


「特別プログラムだよ」


「あの村出身の子供か?」


「ああ」


「何をしているんだ?」


教官は、レオが数式を書き直す様子を見つめた。


「……教授に教えているんだ」


もう一人が笑った。


「もうか?」


「どうやらな」


二人は歩き出した。


廊下からその様子をうかがう貴族の生徒たちには、誰も気づかなかった。


学院はレオを受け入れた。


だが、彼がいることを快く思わない者もいた。


そしてレオは、人と人との間に生じる最大の隔たりが、必ずしも魔法によって生まれるわけではないことを知ることになる。


時には……


その家が背負う「名」によって。


そして時には……


生まれながらに持たなかった「名」によって。


最初の授業は、さらに一時間続いた。


アルドレン教授がようやくチョークを置いた頃には、黒板は数式で埋め尽くされていた。


何人かの生徒は疲れ切った様子だった。


レオは……


夢中になっていた。


彼はノートのページをほぼ丸ごと、独自の計算式で埋めていたのだ。


アルドレン教授が彼に視線を向けた。


「レオ」


「はい?」


「君が六歳だという自覚はあるかね?」


レオはまばたきをした。


「……はい」


「それなら、なぜ高度な魔力方程式を解いているんだ?」


レオは手元のノートに目を落とした。


「理解したかったから」


アルドレンはため息をついた。


「だろうね」


何人かの生徒が笑った。


セドリックでさえ、思わず微かに笑みを浮かべた。


一瞬、室内の緊張が解けた。


やがて、鐘の音が響いた。


澄んだ魔法の音が、学院中に響き渡る。


アルドレンは本を閉じた。


「今日の授業はこれで終わりだ」


生徒たちはすぐに荷物をまとめ始めた。


レオは丁寧にノートを鞄にしまった。


トーマスが彼の隣に立った。


「行こう」


「どこへ?」


「昼食に」


レオは動きを止めた。


「……もう?」


トーマスは目を丸くした。


「ああ」


レオは時計の方を見た。


授業に集中しすぎていて、どれだけ時間が経ったのか気づかなかったのだ。


「……ああ」


トーマスは笑った。


「本当に勉強が好きなんだな」


レオは少し考えてから言った。


「……うん」


「見てればわかるよ」


食堂は巨大だった。


広いホールには長いテーブルがずらりと並んでいる。


天井の下には、魔法のシャンデリアが浮かんでいた。


様々な課程の何百人もの生徒で、部屋は埋め尽くされていた。


レオは入り口のところで立ち止まった。


「……すごい人だね」


トーマスは微笑んだ。


「学校の食堂で食事をしたことはないのか?」


「ない」


「前はどうしてたんだ?」


レオは正直に答えた。


「自分で料理してた」


トーマスは目を大きく見開いた。


「料理を?」


「うん」


「毎日?」


「だいたいね」


トーマスは心底驚いた様子だった。


「六歳で料理を?」


レオは頷いた。


「時々はね」


トーマスは言葉を失った。


レオは料理が並ぶカウンターの方に目を向けた。何十種類もの料理が並んでいた。


ご飯。


パン。


野菜。


肉。


スープ。


果物。


デザート。


レオは目を丸くした。


「……選んでいいの?」


トーマスは笑った。


「もちろんさ」


レオはカウンターに近づいた。


料理人が微笑んだ。


「何にする?」


レオは料理をじっくりと眺めた。


「……どれくらい取っていいの?」


料理人は少し間を置いた。


「食べられるだけ、好きなだけだよ」


レオは真剣に考えた。


そして、適度な量を盛り付けた。


トーマスは目を丸くした。


「それだけ?」


レオは頷いた。


「食べ物を無駄にしたくないから」


料理人は微笑んだ。


「いい子だね」


レオはトレイを運んでテーブルに向かった。


トーマスも続いた。


二人は窓際の空いているテーブルを見つけた。


レオは席に着いた。


トーマスはすぐに食べ始めた。


レオも同じようにした。


数分間、二人は何も話さなかった。


やがて、テーブルに影が落ちた。


レオは顔を上げた。


そこにはセドリックが立っていた。


彼の背後には、他の二人の貴族の生徒が立っていた。


レオは教室で彼らを見かけたことを思い出した。


セドリックは腕を組んだ。


「お前がレオだな」


レオは頷いた。


「うん」


「聞きたいことがある」


「いいよ」


セドリックは言葉をためらった。


「なぜお前が特別プログラムにいるんだ?」


トーマスは眉をひそめた。


「アルドレン教授がもう説明しただろ」


セドリックは彼を無視した。


「つまり……」


彼はレオをまっすぐに見つめた。


「なぜお前なんだ?」


レオは少し考えた。


「学院が僕を受け入れたからだよ」


セドリックの眉がピクリと動いた。


「そういうことじゃない」


レオは首をかしげた。


「じゃあ、どういうこと?」


その問いかけは、全くの純粋なものだった。


セドリックは突然、答えに詰まってしまった。


連れの一人が前に出た。


「俺の父さんは、特別プログラムは帝国で最も将来有望な若き才能のためのものだと言っている」


レオは頷いた。


「なるほど」


「それに、俺たちのほとんどは家柄や実績が認められて入学したんだ」


レオは彼を見た。


「それはすごいね」


その少年は眉をひそめた。


「わかってないな」


レオは続きを待った。 「お前には家族なんていないだろ」


トーマスはすぐに眉をひそめた。


「おい」


レオは黙ったままだった。


少年は続けた。


「村の子供なんだろ」


セドリックは居心地が悪そうな表情を浮かべた。


友人がそんなふうに、あけすけに言うとは思っていなかったのだ。


レオは静かに視線を落とし、食事を続けた。


「……家族はいるよ」


少年は笑った。


「親父にお前、売られたんだろ」


食卓が静まり返った。


トーマスが椅子を引いた。


「そこまでだ」


レオはそっとトーマスの腕に手を置いた。


「大丈夫だよ」


トーマスは彼を見た。


「大丈夫じゃない」


レオは首を振った。


「彼の言う通りだ」


誰もが動きを止めた。


レオは静かに食事を続けた。


「父さんは僕を売ったんだ」


トーマスは彼をじっと見つめた。


レオは怒りのない口調で言った。


「理由はわからない」


「お金が必要だったのかもしれない」


「ここで暮らすほうがいい人生を送れると思ったのかもしれない」


「もう僕がいらなくなったのかもしれない」


彼は言葉を切った。


「わからないんだ」


セドリックは居心地が悪そうだった。


レオ自身の口から語られると、その話が全く違って聞こえることに、彼は初めて気づいた。


そこには恨みも、


怒りもなかった。


ただ、確信のなさが漂っていただけだ。


レオは再び少年の方を見た。


「でも……」


彼はかすかに微笑んだ。


「今はここに、僕の人がいる」


トーマスは瞬きをした。


レオは彼を見た。


「レイフォードがいる」


「アルドレン先生も」


「学者たちも」


「使用人たちも」


「そして……」


彼は言葉を区切った。


「……君がいる」


トーマスは彼を見つめた。


そして、微笑んだ。


「ああ」

「俺は君の友達だ」


レオは頷いた。


「ありがとう」


セドリックは何も言わなかった。


ただ背を向けただけだった。


「行こう」


三人の少年たちは立ち去った。


トーマスは彼らを見送った。


そしてレオに目を向けた。


「大丈夫?」


レオは頷いた。


「うん」


「本当に?」


「うん」


彼は食堂の方に目をやった。


「それに……」


「何?」


レオは微笑んだ。


「スープ、美味しいしね」


トーマスは笑った。


その日の午後……


生徒たちの間の違いが、より一層はっきりと見て取れるようになった。


魔法をかけられた馬車で到着する生徒もいれば、


歩いてくる生徒もいた。


専属の家庭教師がついている者もいれば、


独学で学ぶ者もいた。


家族から希少な魔法の結晶を贈られる生徒もいれば、


学園の備品に全面的に頼る者もいた。


レオはそのすべてに気づいていた。


だが、誰かを値踏みしたりはしなかった。


ただ観察していただけだ。


次の授業で、アルドレン教授は生徒たちをペアに分けた。


「今日の課題は、属性の同調シンクロナイゼーションについてだ」


「二人一組で取り組んでもらう」


「課題は、共有のマナ・フィールドを安定させることだ」


生徒たちはすぐにパートナーを選び始めた。


トーマスがレオに歩み寄った。


「一緒にやらないか?」


レオは頷いた。


「いいよ」


二人は練習用魔法陣の一つへと移動した。


セドリックは数メートル離れた場所に立っていた。


いつもの取り巻きたちが、すぐに彼の周りに集まった。


その代わり、一人の少女がレオに近づいてきた。


「一緒に入ってもいい?」


レオは顔を上げた。


「もちろん」


彼女は微笑んだ。


「リディア・エバーハートよ」


「レオ」


「知ってるわ」


レオは微笑んだ。


トーマスが笑った。


「みんな知ってるよ」


リディアはくすりと笑った。


「そうね」


彼らは練習用魔法陣を起動させた。


青い光が浮かび上がった。


トーマスがマナの流れを安定させようとした。


だが、すぐに流れが乱れた。


「おっと!」


レオが手を伸ばした。


「待って」


彼が流れを調整した。


フィールドが安定した。


トーマスは目を丸くした。


「どうやったの?」


「力を込めすぎていたんだ」


「ああ」


次はリディアが試した。


彼女のマナの制御はより丁寧だった。


だが、やはりミスをしてしまった。


レオがそれを修正した。


数分もしないうちに……


彼らの魔法陣は、教室の中で最も安定したものの一つとなっていた。アルドレン教授は離れた場所からその様子を見守っていた。


「見事な連携だ」


トーマスがにやりと笑う。


「俺たち、最高だな!」


レオが笑う。


リディアも微笑む。


初めてのことだった……。


レオは、アッシュベールでは決して味わえなかった経験をしていた。


ただ一緒に過ごしたいと思ってくれる仲間たち。


雑用も、


恐怖も、


責任も、何もない。


ただの友情。


部屋の向こう側では……


セドリックがその様子を見ていた。


彼のグループは苦戦していた。


仲間のひとりがミスをした。


セドリックは即座にそれを正す。


「違う」


「魔力の循環が速すぎる」


もう一人の少年が顔をしかめる。


「わかってるよ」


「なら、やめろ」


「わかってるって言っただろ!」


セドリックはため息をつく。


練習用の魔法陣が不安定になった。


鋭い破裂音が部屋に響き渡る。


何人かの生徒がびくりと身をすくめた。


アルドレン教授がすぐに介入する。


「皆、落ち着きなさい」


魔法は無害な形で霧散した。


セドリックは拳を握りしめる。


彼はミスを何よりも嫌っていた。


父親はいつもこう言っていたからだ。


「ヴァレモント家に失敗は許されない」


それなのに、今の彼は……


村出身の少年が軽々と成功するのを目の当たりにしている。


しかも、どういうわけか……


レオは競おうとさえしていない。


それが、なおさら彼を苛立たせた。


授業後、セドリックは教室に残った。


教室から人がまばらになっていく。


レオは本を片付けていた。


トーマスとリディアがドアの近くで待っている。


「行くか?」


「あと少しで」


レオはセドリックの方に目を向けた。


彼は一人で座り込んでいた。


レオが彼に歩み寄る。


「大丈夫?」


セドリックが鋭く顔を上げた。


「なんで気にするんだ?」


レオは肩をすくめる。


「落ち込んでいるように見えたから」


「平気だ」


レオは頷く。


「わかった」


歩き出そうとして、


ふと立ち止まる。


「さっきの、正しかったよ」


セドリックが眉をひそめる。


「何の話だ?」


「俺たちが違うってこと」


セドリックがじっと見つめる。


レオは続けた。


「君はこの場所で育った」


「俺はアッシュベールで育った」


「君は俺の知らないことを知っているだろうし」


「俺も、君の知らないことを知っているかもしれない」


セドリックは答えなかった。


レオは微笑んだ。 「だから……」


「お互いに教え合えるかもしれない」


セドリックは心底不思議そうな顔をした。


「どうしてそんなことを?」


レオは少し考えた。


「だって……」


彼は微笑んだ。


「学ぶのが好きだから」


そう言って、彼は立ち去った。


セドリックは一人残された。


初めて……


レオのことをどう思えばいいのか、わからなくなった。


その日の夕方、レオは自室に戻った。


窓辺に座り、膝の上に本を置く。


小さな火の精霊が、彼のそばに浮かんでいた。


レオはそれを見つめた。


「……今日は面白かったな」


精霊は首をかしげた。


「友達ができたんだ」


精霊は嬉しそうにくるくると回った。


レオは微笑んだ。


「でも……」


彼は窓の外に広がる街に目を向けた。


「……僕を嫌う人もいる」


精霊がふわりと近づいてきた。


レオはその小さな頭にそっと触れた。


「大丈夫だよ」


「僕は彼らのことを嫌いじゃないから」


彼は言葉を切った。


「……人は善か悪かで分けられるものじゃないと思うんだ」


精霊は彼をじっと見つめた。


レオは思案深げな表情を浮かべた。


「人は複雑だからね」


彼はアッシュベールのことを思い出した。


父のこと。


村人たち。


川へ誘ってくれた子供たち。


学者たち。


貴族たち。


自分を嫌った生徒たち。


自分を歓迎してくれた人々。


誰もが違っていた。


親切な人もいれば、


残酷な人もいた。


その両面を持つ人もいた。


レオは静かに本を閉じた。


「もしかすると……」


「人は善と悪に分けられるものじゃないのかもしれない」


彼は小さな精霊を見た。


「ただ、選択をしているだけなのかも」


精霊は彼の手のひらに身を寄せた。


レオは微笑んだ。


それは単純な考えだった。

それは、子供ならではの思考だった。


だが、その思いは彼の心に生涯残り続けることになる。


なぜなら、何年も経ってレオが帝国の最も暗い秘密を暴くとき、彼はこの教訓を思い出すことになるからだ。


帝国は、単なる「悪」ではなかった。


そこに住む人々も、単なる「善」ではなかった。


帝国の中には、心優しい人々がいた。


残酷な人々もいた。


誰かを守ろうとする人々がいれば、


権力を乱用する人々もいた。


自らの行いが正しいと信じる人々がいれば、


あえて過ちを選ぶ人々もいた。


レオは、多くの大人が受け入れるのに苦労するある真実を、理解し始めていた。


世界は「英雄」と「悪役」に分かれているわけではない。


世界を分かつのは、人々の「選択」なのだ。


そしていつか――


レオ自身もまた、自らの選択を下さねばならない時が来るだろう。


翌朝、レオは誰よりも早く学園に到着した。


東の塔から太陽がようやく顔を出し始めた頃、彼は通学鞄を片方の肩にかけ、黄金の門をくぐった。


学園の敷地内は、ひっそりと静まり返っていた。


何百人もの生徒で賑わう中庭がないと、その巨大な施設は全く別の場所のように感じられた。


レオは庭園の一つで足を止めた。


木の陰から、小さな風の精霊がふわりと姿を現した。


「おはよう」


精霊は嬉しそうにくるくると回った。


レオは微笑んだ。


「君も早いんだね」


花の間から、もう一匹の小さな精霊が現れた。


さらに、もう一匹。


あっという間に、数匹の精霊が彼の周りに集まってきた。


レオは花壇のそばにしゃがみ込んだ。


「何をしているの?」


小さな土の精霊が、地面を指さした。


レオは目を凝らした。


「……種?」


精霊は頷いた。


「植えたいの?」


精霊は勢いよく頷いた。


レオは指を使って、慎重に小さな穴を掘った。


「ここ?」


精霊は頷いた。


レオは種を入れ、土をかぶせた。


土の精霊はすぐに興奮した様子を見せた。


小さな緑の芽が顔を出した。


レオは目を見開いた。


「……早いな」


精霊はくすりと笑った。


レオは微笑んだ。


「あまり急いで育っちゃだめだよ」


「自分を傷つけちゃうかもしれないから」


小さな精霊は首をかしげた。


そして、優しくその植物に触れた。


葉の動きが落ち着いた。


レオは立ち上がった。


「行こうか」


彼は教室へと向かった。


数メートル離れたアーチの下に立っている生徒には気づかなかった。


セドリックもまた、早く到着していたのだ。


そして、彼はその光景をすべて見ていた。


レオは勉強でもしているだろうと思っていた。


だが実際には……


学園で最も才能ある魔法の生徒が、精霊と一緒に花を植えていたのだ。


セドリックは眉をひそめた。


「……奇妙だな」


レオが教室に入ると、トーマスはすでにそこにいた。


「レオ!」


レオは顔を上げた。


「おはよう」


トーマスが駆け寄ってきた。


「早いね」


「君もね」


「眠れなくてさ」


「どうして?」


トーマスはにやりと笑った。


「だって今日は魔法の実技があるから」


レオの目が輝いた。


「……本当?」 「うん」


「実技の授業は、これまで受けたことがないんだ」


トーマスは目を丸くした。


「一度も?」


レオは首を横に振った。


「アッシュベールには、魔法を教える先生がいなかったから」


トーマスは急に気まずそうな顔をした。


「ああ」


レオは微笑んだ。


「大丈夫だよ」


「今日が初めてなんだ」


「それなら、僕が全部教えてあげるよ」


「ありがとう」


トーマスは誇らしげに胸を張った。


「僕はあらゆる魔法を知ってるからね」


レオは微笑んだ。


「本当?」


「まあ……」


トーマスは言葉を区切った。


「……いくつか、だけどね」


レオは笑った。


教室に少しずつ人が集まってきた。


やがてリディアがやってきた。


「おはよう」


「おはよう」とレオは返した。


トーマスは手を振った。


「今日は伝説の魔術師になるんだ」


リディアは笑った。


「何かを爆発させないようにね」


「それは約束できないな」


他の生徒たちも次々と入ってきた。


最後にセドリックが到着した。


彼はちらりとレオの方を見た。


レオは微笑んだ。


「おはよう、セドリック」


セドリックは一瞬立ち止まった。


「……おはよう」


ささいなことだった。


だが、セドリックが挨拶を返したのは初めてのことだった。


レオは何も言わなかった。


ただ微笑んだだけだった。


実技の授業は、学院の東にある訓練場で行われた。


教室とは違い、訓練場は広大だった。


一帯は石の台座で覆われていた。


周囲は魔法の結界で囲まれていた。


何百もの小さな標的が、フィールドの上空に浮かんでいた。


アルドレン教授が前に立った。


「今日から、属性操作の実技を始める」


彼は片手を上げた。


手のひらの上に小さな炎が現れた。


「魔法とは、単なる力のことではない」


炎は水に変わった。


続いて風に。


そして小さな石に変わった。


「重要なのは制御だ」


生徒たちは食い入るように見つめた。


「君たち一人ひとりが、異なる強みを持っている」


「魔力の総量が多い者もいれば」


「制御に長けた者もいる」


「生まれつき特定の属性との親和性が高い者もいる」


「そして中には……」


彼の視線が、一瞬レオに向けられた。


「……我々にもまだ理解できていない能力を持つ者もいる」


何人かの生徒がレオの方を見た。


レオは静かにしていた。


アルドレンは続けた。 「課題は単純だ」


「『元素の具現化』を一つ行い、それを維持すること」


「自分の能力を超えたことには挑まないように」


「わかったか?」


生徒たちは声を揃えて答えた。


「はい、教授」


最初の生徒たちが取り掛かった。


セドリックが前に出た。


彼は手を掲げた。


鮮やかな青い炎が現れた。


それは安定して燃え続けた。


何人かの生徒が感嘆の声を漏らした。


セドリックは難なく、その炎を1分近く維持してみせた。


アルドレン教授が頷いた。


「見事な制御だ」


セドリックは元の位置に戻った。


次にトーマスが前に出た。


彼は精神を集中させた。


額に皺が寄る。


「……頼むぞ……」


小さな炎が現れた。


それは揺らめき……


やがて消えた。


トーマスは何もなくなった自分の手を見つめた。


「……やったぞ」


レオが微笑んだ。


「やったな」


トーマスは誇らしげな様子だった。


「見たか?」


「ああ」


「火を出せたんだ」


「そうだな」


「俺は正式に『力ある者』になったってことだ」


リディアが笑った。


「ロウソクの火を作っただけじゃない」


トーマスは不服そうな顔をした。


「魔法のロウソクさ」


レオは笑った。


そして、レオの番が来た。


訓練場が静まり返った。


レオは練習用の円の中へと足を踏み入れた。


アルドレン教授が歩み寄ってきた。


「レオ」


「はい?」


「意識的にマナを操ったことはあるか?」

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レオは首を横に振った。


「いいえ」


「なら、大規模な現象を起こそうなどとは考えなくていい」


「ただ、マナを感じるんだ」


レオは頷いた。


目を閉じる。


世界が静まり返った。


自分の中に、何かを感じる。


温かいもの。


流れるようなもの。


まるで川のように。


以前にも感じたことがあった。


だが、意識して感じたことはなかった。


彼はそれに手を伸ばした。


指を動かした、その瞬間……


周囲の空気が変わった。


訓練場にいたすべての精霊が、彼の方を向いた。


小さな炎が現れた。


続いて水。


そして風。


さらに土。


四つの元素の現象が、同時に現れたのだ。


生徒たちは呆気にとられた。


アルドレン教授は動きを止めた。


レオは目を開けた。


「……これでいいんですか?」


誰も答えなかった。


四つの元素が、彼の周囲を穏やかに漂っている。


そして……


さらに奇妙なことが起きた。


精霊たちが集まり始めたのだ。


何十体も。


やがて何百体もの精霊が。


周囲の庭園、木々、噴水、そして石の中から姿を現した。


火の精霊が空を漂う。


水の精霊が近くの噴水から湧き上がる。


土の精霊が地面から現れる。


風の精霊が空から舞い降りる。


ほんの数秒のうちに……


レオは精霊たちに囲まれていた。


トーマスは口をあんぐりと開けた。


「……普通じゃないな」


リディアは驚きに目を見開いた。


「全くだわ」


セドリックでさえ、衝撃を隠せなかった。


アルドレン教授はゆっくりと手を下ろした。


「みんな……」


彼は静かに言った。


「動くな」


生徒たちは従った。


レオは不安げに周囲を見回した。


「……何か、しちゃいましたか?」


アルドレンは首を横に振った。


「いや」


彼は微笑んだ。


「思うに……」


精霊たちに目を向ける。


「……彼らはただ、君に会いたかっただけなんだろう」


精霊の一体が、セドリックの方へ漂っていった。


セドリックは反射的に手を上げた。


精霊はそこで止まった。


彼をじっと見つめる。


セドリックは待った。


ゆっくりと……


彼は微笑んだ。


「やあ」


精霊は首を傾げた。


そして、どこかへ飛んでいった。


セドリックは手を下ろした。


「……もう少しで、仲良くなれそうだったのに」


トーマスが笑った。


「惜しかったな」


セドリックは彼を睨みつけた。


「少なくとも、俺はロウソクの火なんて作らなかったぞ」


「おい!」レオは笑った。


張り詰めていた空気が和らいだ。


セドリックでさえも微笑んだ。


ほんの数分間……


彼らはただの子供だった。


貴族でもなく。


平民でもなく。


神童でもなく。


空を舞う精霊たちを眺める、ただの生徒たちだった。


その日の午後遅く、生徒たちは昼食をとるために大きな木の下に集まった。


トーマスはレオの隣に座った。


リディアは二人の向かいに座った。


セドリックがトレイを運んでやってきた。


彼はためらった。


トーマスはそれに気づいた。


「ここに座っていいよ」


セドリックは驚いた様子だった。


「……本当に?」


トーマスは肩をすくめた。


「いいだろ?」


セドリックは腰を下ろした。


数分間、彼らは静かに食事をした。


やがて、セドリックが口を開いた。


「レオ」


「うん?」


「一つ聞いてもいいか?」


「もちろん」


「自分の能力の仕組みを、本当に理解しているのか?」


レオは首を横に振った。


「ううん」


「少しも?」


「うん」


セドリックは眉をひそめた。


「でも、君は複数の属性を操れるじゃないか」


「操っているのかどうかは、わからないんだ」


レオは近くの庭で遊ぶ精霊たちの方に目を向けた。


「ただ手伝ってくれているだけかもしれない」


セドリックは目を丸くした。


「自分自身でやったとは思わないのか?」


レオは首を横に振った。


「彼らが自ら来てくれたんだ」


セドリックは考え込むような表情を浮かべた。


「本当に彼らを信頼しているんだな」


「うん」


「どうして?」


レオは微笑んだ。


「彼らは一度も僕を傷つけたことがないから」


セドリックはゆっくりと頷いた。


そして、別の質問をした。


「誰のことも信頼しているのか?」


レオは少し間を置いた。


「ううん」


セドリックは驚いたようだった。


「どうして?」


レオは少し考えた。


「信頼っていうのは、勝ち取るものだから」


セドリックは数秒間、彼を見つめた。


「……六歳にしては変わった答えだな」


レオは微笑んだ。


「母さんが教えてくれたんだ」


セドリックは黙り込んだ。


レオは食事を続けた。


しばらくして、セドリックが静かに言った。


「ごめん」


レオは彼を見た。


「何について?」


「昨日言ったことについて」


レオは少し考えた。


そして微笑んだ。


「いいよ」


セドリックは驚いた様子だった。 「怒ってないの?」


「うん」


「どうして?」


レオは肩をすくめた。


「謝ってくれたから」


セドリックはかすかに微笑んだ。


「変わってるね」


「よく言われるよ」


トーマスが笑った。


「確かに変わってるな」


リディアも微笑んだ。


「いい意味で変わってると思うわ」


レオは笑った。


初めて……


四人の子供たちは、友人として一緒に食事をした。


だが、学院の全員がそれを喜んでいたわけではない。


何人かの年上の生徒たちの耳に、ある噂が届き始めていた。


あの奇妙な村の子供。


精霊を従える者。


皇帝のお気に入りの天才児。


訓練された魔術師を見捨てさせ、精霊を自分の方へ引き寄せてしまう少年。


感心する者もいれば、


嫉妬する者もいた。


ある日の午後、レオが何冊もの本を抱えて図書室を歩いていると、背後から声が聞こえてきた。


「あれだ」


「あの村のガキ」


「なんでみんな、あいつを気にかけるんだ?」


「皇帝が目をかけてるからさ」


レオは歩き続けた。


反応はしなかった。


一人の生徒が彼の前に立ちはだかった。


「おい」


レオは立ち止まった。


相手は年上の少年だった。


十歳か十一歳くらいだろうか。


その背後には二人の友人が立っていた。


「お前、レオだろ?」


「うん」


「結構有名なんだな」


レオは頷いた。


「そうなんだ」


少年は眉をひそめた。


「……それだけ?」


「なんて言えばいいの?」


生徒たちは笑った。


「変なやつ」


年上の少年は苛立たしげな様子だった。


「いいか」


「精霊がついてくるからって、自分が特別だとでも思ってんのか?」


レオは首を横に振った。


「ううん」


「じゃあ、なんであいつらは周りにいるんだ?」


「わからない」


「嘘だろ」


レオはわずかに眉をひそめた。

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「違うよ」


少年は一歩近づいた。


「証明してみろよ」


レオは彼を見た。


「どうやって?」


「一匹、呼んでみろ」


「できない」


「なんで?」


「あいつらは、気が向いた時にしか来ないから」


少年は笑った。


「じゃあ、お前は役立たずだな」


レオは落ち着いたままだった。


彼は少年を見つめた。


「僕を好きになる必要はないよ」


少年は言葉を止めた。


「でも……」


レオは続けた。


「……意地悪をする必要もない」


少年は目を凝らした。


一瞬、誰も動かなかった。


やがて、小さな風の精霊がレオの背後から現れた。


それは二人の間に浮かんだ。


年上の少年は反射的に後ずさりした。


精霊は彼を見た。


それからレオを見た。


そして、優しくレオの袖を引いた。


レオは微笑んだ。


「行こう」


彼は歩き出した。


年上の生徒たちは黙ったままだった。


一人が囁いた。


「……怒りもしなかったな」


もう一人が答えた。


「気味が悪いよ」


だが、レオに詰め寄った少年は……


何も言わなかった。


ただ、銀髪の子供が図書室へと消えていくのを見つめていた。


その日の夕方、レオは学園の庭にある木の下に座っていた。


膝の上には本が開かれていた。


トーマスが近づいてきた。


「ここにいたのか」


レオは顔を上げた。


「やあ」


トーマスは彼の隣に座った。


「何があったか聞いたよ」


レオはまばたきをした。


「ああ」


「大丈夫?」


「うん」


トーマスは眉をひそめた。


「いつもそう言うよね」


「だって、大丈夫だから」


トーマスは納得がいかない様子だった。


レオは微笑んだ。


「トーマス」


「ん?」


「僕を好きになる必要はないんだ」


トーマスは黙っていた。


「でも……」


レオは夕日の方を見た。


「……理解できないものを恐れるあまり、誰かに意地悪をするような人にはなってほしくないな」


トーマスは彼を見た。


「君は本当に変わってるね」


レオは微笑んだ。


「そうかもね」


小さな精霊が彼の肩に降り立った。


夕日がその半透明な体に反射していた。


レオは優しくそれに触れた。


彼は学園で、ある大切なことを学び始めていた。


力は、憧れを生むのだと。 「違い」は疑念を生んだ。


「身分」は距離を生んだ。


だが、友情は……


そうしたこととは何の関係もなかった。


そしてレオの心の奥底で、もう一つの気づきが静かに形を成しつつあった。


帝国とは、単一の存在ではない。


数百万もの人々から成るものだ。


親切な者もいれば、


傲慢な者もいる。


怯える者もいれば、


寛大な者もいる。


利己的な者もいれば、


変わろうとする者も、


変わろうとしない者もいる。


それは「学院」についても同じことだった。


そしておそらく……


この世界全体についても、同じことが言えるのだろう。


数週間が過ぎた。


レオの帝国学院での生活は、次第に決まった日課へと落ち着いていった。


午前の授業。


魔法の実技。


トーマスやリディアとの昼食。


午後の学習。


図書室通い。


そして、空き時間があれば、どこへでもついてくる精霊たちを連れて学院の庭園を散策すること。


他の生徒たちもまた、彼の存在に馴染み始めていた。


最初は、多くの者がレオを「よそ者」として扱っていた。


やがて、好奇の目で見られるようになった。


そして今では……


彼はただの「レオ」だった。


いつも抱えきれないほどの本を持ち歩く、奇妙な銀髪の子供。


木の下に座って眠り込んでいても、新しい魔法理論の話題が出た途端に目を覚ます少年。


なぜ人々が「家名」を気にするのか、どうしても理解できない様子の生徒。


そして、庭園に入るといつの間にか精霊たちに囲まれてしまう子供。


だが、生徒たちがどうしても慣れずにいることが一つだけあった。


レオの学習スピードだ。


それは常軌を逸していた。


「次の質問だ」


アルドレン教授が教壇に立った。


「『第四次帝国マナ改革』が失敗した理由を説明できる者は?」


何人かが手を挙げた。


セドリックが答えた。


「その改革は、地域ごとのマナ課税を帝国による一括徴収に切り替えようとしましたが、増大する需要に輸送インフラが追いつきませんでした」


「正解だ」


アルドレンは頷いた。


「他に理由は?」


レオが手を挙げた。


アルドレンは微笑んだ。


「レオ」


「改革では、地域ごとのマナ濃度の差も過小評価されていました」


何人かの生徒が彼の方を向いた。


レオは続けた。


「帝国政府はマナの分布が比較的均一だと想定していましたが、自然のマナ濃度が低い地域では、割り当てられたノルマを達成できなかったのです」


アルドレンは頷いた。


「素晴らしい」


レオは手を下ろした。


後ろの方にいた少女が囁いた。


「どうしてそんなこと知ってるの?」


別の生徒が答えた。


「経済史の本を全部読んだんだって」


「全部?」


「二回も」


トーマスがレオの方に身を乗り出した。


「本当にあれを全部読んだのか?」


レオは頷いた。


「うん」


「どうして?」


レオは心底不思議そうな顔をした。


「そこにあったから」


トーマスは笑った。


「それ、答えになってないよ」 「私にとっては、そうなんです」


アカデミーの教官たちは、彼のある「変わった」特徴に気づき始めていた。


レオは単に情報を暗記するだけではなかった。


彼は情報を結びつけていたのだ。


経済について学べば、それを歴史と比較する。


魔力理論を学べば、工学と比較する。


軍事戦略を学べば、その政治的影響を考察する。


精霊について読めば、古代神話との共通点を探る。


彼の思考は、疑問をそのままにしておくことができないようだった。


ある日の午後、アルドレン教授は、図書室で本に囲まれて座っているレオを見つけた。


「レオ」


レオは顔を上げた。


「はい?」


「何冊の本を読んでいるんだ?」


レオは周囲を見渡した。


「……8冊です」


アルドレンは目を丸くした。


「同時に?」


「はい」


「なぜだ?」


レオは開かれた数冊の本を指差した。


「つながっているんです」


アルドレンは歩み寄った。


「何を調べているんだ?」


「古代の精霊の移動についてです」


アルドレンの表情が変わった。


「なぜ?」


レオは地図を指差した。


「これらの記録によると、精霊は600年ほど前に北の王国から姿を消したそうです」


「ああ」


「しかし、こちらの本には、同じ時期に北の王国で魔力が著しく減少したと書かれています」


「そうだな」


レオは別の書物を指差した。


「そして、その後に森が拡大したとも書かれています」


アルドレンは彼を見つめた。


「それで?」


レオは眉をひそめた。


「理由がわからないんです」


アルドレンは微笑んだ。


「それは、ほとんどの学者にもわからんことだよ」


レオは本に目を向けた。


「なら、私が解明してみます」


教授は静かに笑った。


「君ならそう言うだろうね」


その頃……


アカデミーのはるか上空……


皇帝の宮殿内では……


数人の高官たちが巨大なテーブルの前に立っていた。


広間の中心には、皇帝アウレリウスが座っていた。


彼は、黒髪に銀色が混じり始めた中年の男だった。


その表情は穏やかだった。


だが、その瞳は鋭かった。


一人の学者が彼の前に立っていた。


「陛下」


アウレリウスは顔を上げた。


「続けよ」


「あの少年の再評価が完了いたしました」


「『天性の精霊の主』のことか?」


「はい」


皇帝は背もたれに身を預けた。 「それで?」


学者は唾を飲み込んだ。


「以前の測定結果は正確でした」


「あの少年の適性は本物です」


アウレリウスは黙ったままだった。


学者は言葉を続けた。


「それ以上に……」


彼は言い淀んだ。


「精霊たちは、単に彼の魔力に反応しているだけではないのです」


アウレリウスは片方の眉を上げた。


「説明せよ」


「彼が魔力を発していない時でさえ、精霊たちは彼に近づいてくるのです」


皇帝の表情が、より険しいものになった。


「数は?」


「直近の観測では、およそ百八十体もの下級精霊が彼の周囲に集まりました」


「召喚陣なしでか?」


「はい」


「契約なしでか?」


「はい」


「術の行使なしでか?」


「はい」


アウレリウスはゆっくりと指で肘掛けを叩いた。


「それで、その子供は?」


「彼は、精霊たちがそこにいることをごく当たり前のことと捉えているようです」


皇帝はかすかに微笑んだ。


「興味深いな」


別の役人が口を開いた。


「陛下、他にも報告がございます」


アウレリウスはそちらに視線を向けた。

「彼の学業成績についてですが」


「それがどうした?」


「彼はすでに、自分より年上の生徒たちを何人も追い抜いています」


「どれほどだ?」


役人は数枚の報告書を机の上に置いた。


「アルドレン教授によれば、その少年の論理的思考力は並外れているとのことです」


アウレリウスは最初の報告書を手に取った。


彼は黙読した。


そして、もう一枚。


さらに、もう一枚。


彼の表情が次第に変わっていく。


「いくつだ?」


「六つです」


皇帝は顔を上げた。


「六つだと?」


「はい、陛下」


アウレリウスは報告書を見つめた。


そして、静かに笑った。


「六歳の村の子供か」


彼は書類を置いた。


「それで、すでに学院の課題を書き直しているというわけか」


「はい」


アウレリウスは背もたれに身を預けた。


「詳細な報告書を持ってこい」


役人は躊躇した。


「陛下?」


「すべてだ」


「幼少期のこと」


「家族のこと」


「教育のこと」


「魔力の適性」


「学院での成績」


「すべてだ」


役人は一礼した。


「承知いたしました、陛下」


アウレリウスは、帝都を見下ろす巨大な窓の方へ目を向けた。


「なんと並外れたことか」


翌朝……


レオが学院の図書室で勉強していると、宮廷からの使者がやってきた。


図書室全体が静まり返った。


白と金の宮廷の制服をまとった男が、レオに歩み寄る。


「アッシュヴェールのレオか?」


レオは顔を上げた。


「はい?」


「公式な召喚状をお持ちしました」


レオはまばたきをした。


「僕に?」


「はい」


近くに座っていたトーマスは、本を落としそうになった。


「宮廷から?」


レオは戸惑った様子だった。


「どうして?」


使者は丁寧に微笑んだ。


「皇帝陛下が、君にお会いになりたいと仰っています」


図書室が静まり返った。


レオは呆然と見つめた。


「……皇帝陛下が?」


「はい」


レオはゆっくりと本を閉じた。


「わかりました」


トーマスは信じられないといった様子で彼を見た。


「皇帝陛下に会いに行くのか?」


レオは頷いた。


「そうみたいだね」


「緊張してる?」


レオは少し考えた。


「少しだけ」


トーマスは微笑んだ。


「よかった」


「どうして?」 「だって、それは君が普通だってことだからね」


レオは笑った。


数時間後……


レオは皇居の前に立っていた。


王都に着いたばかりの頃、遠くからその姿を見たことはあった。


だが、間近で見ると……


圧倒される光景だった。


巨大な大理石の塔が空へとそびえ立っている。


黄金の魔法障壁が内壁を囲んでいた。


大通りには歴代皇帝の像が並んでいる。


あらゆる入り口に近衛兵が立っていた。


レオは周囲を見渡した。


「……警備が多いな」


同行していたレイフォードが微笑んだ。


「皇帝陛下にお会いするんだからね」


「わかってるよ」


「もっと少ないと思っていたのかい?」


レオは肩をすくめた。


「十人くらいかなって」


レイフォードは笑った。


「十人どころじゃないよ」


レオは再び宮殿を見上げた。


「皇帝陛下は本当にここに住んでるの?」


「ああ」


「ここで食事もするの?」


「ああ」


「寝るのも?」


「ああ」


「勉強も?」


「たぶんね」


レオは頷いた。


「じゃあ、すごく大きな家みたいなものだね」


レイフォードは彼をじっと見つめた。


「……皇居を『大きな家』だと思っているなんてことは、皇帝陛下には言わないでくれよ」


レオは瞬きをした。


「どうして?」


レイフォードはため息をついた。


「とにかく……」


「やめておけ」


宮殿の扉が開いた。


レオは中へと足を踏み入れた。


内部は学院よりもさらに壮麗だった。


巨大な天井の下に、クリスタルのシャンデリアが浮かんでいる。


魔法の絵画が、額縁の中でかすかに動いていた。


使用人たちが音もなく廊下を行き交う。


騎士たちが直立不動の姿勢で立っていた。


レオの視線は絶えず動き回っていた。


彼は壁に施された魔法に気づいた。


防御のルーン文字。


建築の構造。


衛兵の配置。


出口。


窓。


魔法の探知装置。


レイフォードはそれに気づいた。


「レオ」


「うん?」


「宮殿を分析するのはやめてくれ」


レオは瞬きをした。


「してないよ」


「してたじゃないか」


「……たぶんね」


レイフォードはため息をついた。


やがて、二人は皇帝の私室である書斎にたどり着いた。


扉が開いた。


レオは中に入った。


皇帝アウレリウスが、大きな木製の机の向こうに座っていた。


彼は顔を上げた。数秒間……


二人は何も言わなかった。


レオは、威圧的な人物を想像していた。


だが……


皇帝の姿は、ごくありふれたものに見えた。


弱々しいわけではない。


無害なわけでもない。


だが、ひとりの人間だった。


アウレリウスは微笑んだ。


「それで……」


「『自然精霊のソブリン』か」


レオはぎこちなく頭を下げた。


「陛下」


アウレリウスは片方の眉を上げた。


「宮廷の作法を教わったのだな」


「はい」


「誰に教わった?」


「アルドレン教授です」


「ああ」


アウレリウスは微笑んだ。


「なるほど」


彼は椅子を指し示した。


「座りなさい」


レオは座った。


レイフォードはドアのそばに留まった。


アウレリウスはその子供をじっくりと観察した。


「学院はどうだ?」


レオは考えた。


「いいところです」


「『いい』だけか?」


「とてもいいところです」


皇帝は微笑んだ。


「なぜだ?」


レオの目が輝いた。


「本がたくさんあるからです」


アウレリウスは笑った。


「それが興味の対象か?」


「それから、実験室も」


「なるほど」


「あと、魔法の庭園も」


アウレリウスは頷いた。


「そして、精霊たちも」


レオは微笑んだ。


「はい」


皇帝は身を乗り出した。


「彼らについて話してくれ」


レオは驚いたような顔をした。


「何を知りたいのですか?」


「すべてだ」


レオはその問いについて考えた。


「みんな違います」


「どう違う?」


「遊び好きなのもいれば」


「恥ずかしがり屋のもいる」


「食べ物が好きなのもいれば」


「音楽が好きなのもいる」


アウレリウスは耳を傾けた。


「では、なぜ彼らは君についてくると思う?」


レオは首を振った。


「わかりません」


「君が彼らに命じているのか?」


「いいえ」


「無理やり従わせることはできるのか?」


「いいえ」


「誰か他の人が、君を介して彼らに命じることはできるのか?」


レオは考えた。

「そうは思いません」


アウレリウスは微笑んだ。


「なぜだ?」


レオは簡潔に答えた。


「彼らは僕の友人だからです」


皇帝は言葉を切った。


その答えに、何か興味を惹かれたようだ。


「友人、か」


レオは頷いた。


「はい」


アウレリウスは背もたれに身を預けた。


「ならば、おそらく……」


彼は微笑んだ。


「……彼らが君を信頼しているのは、そのせいなのだろう」


会話は一時間近く続いた。


アウレリウスはレオにアッシュベイルについて尋ねた。


母親のこと。


勉学のこと。


得意な科目。


友人たち。


さらには、学院に対する意見まで。


レオは正直に答えた。


誇張はしなかった。


おべっかも使わなかった。


ただ、ありのままを語った。


やがて、アウレリウスが尋ねた。


「レオ」


「はい?」


「この帝国を、どう思う?」


レオは黙り込んだ。


レイフォードが彼の方をちらりと見た。


アウレリウスは待った。


レオは窓の外に目を向けた。


眼下には、果てしなく広がる帝都の姿があった。


彼はアッシュベイルを思い出した。


貧しさ。


父の飲酒。


村人たち。


学院。


学者たち。


食事。


本。


助けてくれた人々。


冷たく当たった人々。


そして……


レオは答えた。


「まだ、わかりません」


アウレリウスは微笑んだ。


「なぜだ?」


「ほんの一部しか、見ていないからです」


皇帝の笑みがわずかに薄れた。


レオは続けた。


「親切な人もいれば」


「そうでない人もいる」


「美しいものもあれば」


「そうでないものもある」


彼はアウレリウスをまっすぐに見つめた。


「だから……」


「もっと知る必要があると思います」


沈黙が流れた。


レイフォードの表情が強張った。


だが、アウレリウスは……


ゆっくりと微笑んだ。


「素晴らしい答えだ」


レオは瞬きをした。


「本当ですか?」


「ああ」


皇帝は立ち上がった。


「一部の人間の行いだけで、国全体を決めつけてはならない」


レオは頷いた。


「だが、同時に……」


アウレリウスは続けた。


「一部の人間が良いからといって、国全体が良いと思い込んでもいけない」


レオは熱心に耳を傾けた。 「目にしたものを自ら判断せよ」


「耳にしたことを疑ってみよ」


「そして、決断を下す前に学ぶのだ」


レオは頷いた。


「そうします」


アウレリウスは微笑んだ。


「君ならそうするだろう」


レオが書斎を後にすると……


アウレリウスは窓辺に残った。


レイフォードがレオを伴って廊下を進む。


皇帝の側近が部屋に入ってきた。


「陛下」


アウレリウスは振り返らなかった。


「何だ?」


「あの子供は、陛下のお考え通りでしたか?」


皇帝はかすかに微笑んだ。


「いや」


「それ以上だったと?」


アウレリウスは、レオが消えていった扉の方に目を向けた。


「はるかに興味深い」


側近は言葉をためらった。


「彼を危険な存在とお考えですか?」


アウレリウスは少し考えた。


「いや」


「まだな」


側近は驚いた様子を見せた。


アウレリウスは続けた。


「力そのものが、人を危険にするわけではない」


「では、何がそうさせるのですか?」


アウレリウスの目がわずかに細められた。


「他者が何に値するかを決める権利が自分にあると信じることだ」


彼は再び窓の方を向いた。


「あの子供は、そうは考えていない」


「少なくとも……」


「今はまだな」


一方、レオはレイフォードの隣を歩きながら宮殿の廊下を進んでいた。


彼は静かだった。


やがてレイフォードが尋ねた。


「どうだった?」


レオは顔を上げた。


「興味深い人だ」


レイフォードは微笑んだ。


「皇帝陛下に会ったばかりだぞ」


「わかってる」


「どう思った?」


レオは少し考えた。


「……孤独な人だ」


レイフォードは足を止めた。


「何だって?」


レオは続けた。


「至る所に衛兵がいる」


「通り過ぎるたびに、人々は頭を下げる」


「言葉を発すれば、誰もが耳を傾ける」


「でも……」


彼は書斎の方を振り返った。


「……孤独なんだと思う」


レイフォードは彼をじっと見つめた。


「たった一度の会話で、そこまで気づいたのか?」


レオは肩をすくめた。


「ずっと窓の外を見ていたから」


レイフォードはかすかに微笑んだ。


「観察眼が鋭いな」


レオは頷いた。


「人を観察するのは好きだから」


「知っているよ」


二人は歩き続けた。


その会見がどれほど重要な意味を持つことになるのか、二人はまだ知らなかった。皇帝は、ある子供と出会った。


レオは、ある統治者と出会った。


そして二人はまだ、自分たちの道がいずれ帝国の命運と結びつくことになるなどとは、知る由もなかった。


レオが戻ったとき、帝国アカデミーの様子は違って見えた。


建物は変わっていないかもしれない。


庭園も変わっていないかもしれない。


中庭を歩く生徒たちでさえ、以前と全く同じかもしれない。


それでも、レオ自身の感覚は違っていた。


彼はたった今、レキシムス帝国で最も権力のある人物に会ってきたばかりだったのだ。


皇帝アウレリウスに。


そして不思議なことに……


その会話は、決して恐ろしいものではなかった。


まるで、ある種の「授業」を受けているような感覚だった。


人間についての、授業だ。


レイフォードの隣を歩きながらアカデミーの門をくぐり、レオはそびえ立つ巨大な塔を見上げた。


「レイフォード」


「はい?」


「ちょっと聞いてもいい?」


「もちろんだよ」


「皇帝陛下は、誰にでもあんなふうに話すの?」


レイフォードは笑った。


「いや」


「じゃあ、どうして僕と話したんだろう?」


レイフォードは少し考えてから言った。


「君が、変わっているからさ」


レオは頷いた。


「精霊のせい?」


「それもあるね」


「魔法のせい?」


「それも」


「成績のせい?」


「間違いなく」


レオは考えた。


「陛下は、僕のことが好きなのかな?」


レイフォードは微笑んだ。


「皇帝陛下は、君に『興味』を持っているんだと思うよ」


レオは眉をひそめた。


「それは違うことだね」


「大違いだ」


「どっちがいいんだろう?」


レイフォードは笑った。


「難しいことを聞くね」


レオも微笑んだ。


「そうだね」


教室に戻ると、レオはすぐに異変に気づいた。


誰もが彼をじっと見ていたのだ。


真っ先に反応したのはトーマスだった。


「レオ!」


彼は駆け寄ってきた。


「戻ってきたんだね!」


「うん」


「何があったの?」


レオはまばたきをした。


「別に何も」


トーマスは目を丸くした。


「皇帝陛下に会ったんだろ!」


「うん」


「何て言われたの?」


レオは考えた。


「質問をされたよ」


「それだけ?」


「だいたいね」


トーマスはがっかりした様子だった。


「何かくれた?」


「ううん」


「玉座の間を見せてくれた?」


「ううん」


「皇帝の冠は見た?」


「ううん」


トーマスはため息をついた。


「君って、話をするのが下手だね」


リディアが歩み寄ってきた。


「放っておいてあげなさいよ」彼女はレオに微笑みかけた。


「お帰りなさい」


「ありがとう」


セドリックがゆっくりと近づいてきた。


「レオ」


レオは彼の方を向いた。


「うん?」


セドリックは言葉をためらった。


「……皇帝陛下は、どんな方なんだ?」


レオはその問いについて少し考えた。


「優しい方だよ」


セドリックは眉を上げた。


「優しい?」


「そう思うよ」


「一度会っただけだろ」


「わかってる」


「どうしてそう言えるんだ?」


レオは微笑んだ。


「話を聞いてくれたから」


セドリックは黙り込んだ。


その答えが、彼の心に残ったようだった。


午後の授業はいつも通り始まった。


だが、生徒たちの間には何かが変わっていた。


ひそひそ話の内容が変わったのだ。


以前は、レオが変わった生徒だからという理由で噂されていた。


今は、皇帝陛下自身が彼に興味を持ったという理由で噂されていた。


感心する生徒もいれば、


嫉妬する生徒もいた。


さらに距離を置く者もいた。


だが、レオは気にする様子もなかった。


ただ黙々と勉強を続けた。


実技の授業で、アルドレン教授は全員をグループに分けた。


今回は、セドリックがレオに歩み寄った。


「一緒にやらないか?」


トーマスはひっくり返りそうになった。


「お前が?」


セドリックは眉をひそめた。


「何だ?」


「レオを誘ったんだな」


「ああ」


「自分から?」


セドリックはため息をついた。


「気が変わったほうがいいか?」


「いや!」


トーマスはすぐにレオの腕を掴んだ。


「お前は俺たちと組むんだ」


セドリックはため息をついた。


「じゃあ、俺も加わるよ」


リディアが笑った。


「これでグループの出来上がりね」


レオは微笑んだ。


「うん」


4人の生徒は練習用の魔法陣の周りに集まった。


今回の課題は、前回よりも難しいものだった。


各グループは、異なる4つの属性のマナの流れを同時に維持しなければならなかった。


生徒たちはすぐに、この課題には個人の技術以上のものが必要だと気づいた。


互いに連携しなければならなかったのだ。


トーマスは火の扱いに苦戦していた。


リディアは水を担当した。


セドリックは風を担った。


レオは土を扱った。


最初はすべて順調に進んだ。


だが、トーマスの集中力が途切れた。


彼の操る炎が急激に膨れ上がった。


「待て!」


セドリックは即座に風の流れを安定させた。


「リディア!」


「任せて!」


水が魔法陣の上を流れていった。レオは地面に手を当てた。


大地の魔力が落ち着きを見せる。


四つの元素が互いに巡り始めた。


アルドレン教授がその様子を離れた場所から見守っていた。


「素晴らしい」


生徒たちは笑みを浮かべた。


トーマスが笑った。


「やったぞ!」


セドリックは安定した魔法陣を見つめた。


「本当に、やり遂げたな」


リディアも微笑んだ。


レオは三人全員に目を向けた。


温かいものが胸に満ちていく。


その感情に名前はなかった。


だが、彼はその感覚を気に入っていた。


その日の夕方、レオは自室に戻った。


机の上に鞄を置く。


そして、部屋を見渡した。


部屋は相変わらず広大だった。


ベッドは変わらず柔らかい。


棚には本がぎっしりと並んでいる。


外の庭も美しいままだ。


だが、今は……。


初めてこの部屋で過ごした夜のような、あの空虚さは感じられなかった。


ここには思い出がある。


数式を訂正してくれたアルドレン教授。


昼食時に笑い合うトーマス。


学園の慣習を教えてくれたリディア。


レオが問題を正解した際、渋々それを認めたセドリック。


庭で遊ぶ精霊たち。


皇帝との会話でさえも。


レオはベッドの端に腰を下ろした。


「……ここは、俺の『家』になりつつあるんだな」


彼は言葉を止めた。


その言葉が、どこか不思議に響いた。


家。


長年、その言葉はアッシュベイルを意味していた。


あの古い木造の家。


母の記憶。


父の存在。


畑。


村の井戸。


だが今は……。


それとは別の意味も持つようになっていた。


この学園もまた、家なのだと。

彼が出会った人々。


精霊たち。


本。


帝都。


レオは窓の方に目を向けた。


小さな風の精霊がふわりと入ってきた。


それは彼の肩に降り立った。


レオは微笑んだ。


「故郷って、単なる『場所』のことじゃないのかもしれないな」


精霊は首をかしげた。


「もしかすると……」


彼はその小さな手にそっと触れた。


「……誰かが待っていてくれる場所、のことなのかも」


精霊は嬉しそうに彼の周りをくるくると回った。


数日後、思いがけない出来事が起きた。


レオが学院の中庭を歩いていると、何冊もの本を抱えるのに苦労している年下の生徒たちの姿が目に入った。


そのうちの一人が、本の束を落としてしまった。


レオはすぐに手を貸した。


「はい、これ」


「ありがとう」


その子はレオの制服に目を留めた。


「特別課程の人?」


「うん」


その子は目を丸くした。


「レオだ!」


レオは照れくさそうに笑った。


「そうだよ」


「精霊を見せてくれる?」


レオはあたりを見回した。


噴水の近くに、小さな水の精霊が浮かんでいた。


「あそこだよ」


その子は息を呑んだ。


「わあ!」


他の子供たちも集まってきた。


やがて、小さな人だかりができた。


精霊は注目されるのを楽しんでいるようだった。


レオは笑った。


「気をつけてね」


「怖がらせないように」


子供たちは興奮気味に頷いた。


やがて教師がやってきた。


「ここで何をしているんだ?」


一人の子供がレオを指差した。


「精霊を見せてくれたんだ!」


教師はレオを見た。


そして微笑んだ。


「彼なら、そうするだろうね」


レオの噂は学院中に広まった。


だが、広まったのはそれだけではなかった。


彼の評判も変わっていったのだ。


彼はもう、単なる「風変わりな村の子供」ではなかった。


困っている人を助ける人物として知られるようになっていた。


魔力の方程式が理解できない生徒がいれば、レオが説明した。


実技で苦戦している者がいれば、助言をした。


精霊を怖がる年下の生徒がいれば、レオは根気強く彼らを引き合わせた。


彼は決して称賛を求めなかった。


決して偉そうな態度もとらなかった。


そして、少しずつ……


生徒たちは彼を受け入れ始めた。


かつて彼を嫌っていた者たちでさえ、彼に歩み寄るようになった。


全員ではない。


彼の立場を快く思わない生徒も、まだいた。平民が自分たちの仲間に加わるべきではないと考える貴族は、依然として存在した。


皇帝とのつながりゆえに彼を危険視する人々も、まだいた。


だが、レオはあることを学んでいた。


誰からも好かれる必要はない。


ただ、自分らしくありさえすればいいのだと。


ある日の午後、セドリックとレオは学院で一番古い木の下に座っていた。


セドリックは戦史の本を読んでいた。


レオは三冊の本を同時に読んでいた。


セドリックが彼に視線を向けた。


「本を読むのをやめることってあるのか?」


レオは顔を上げた。


「何をやめるって?」


「読書だよ」


「時々はね」


「いつ?」


「寝ている時かな」


セドリックは笑った。


「そういう意味じゃないよ」


レオも微笑んだ。


セドリックは本を閉じた。


「レオ」


「うん?」


「帝国騎士になりたいか?」


レオは少し考えた。


「ううん」


セドリックは驚いた様子だった。


「どうして?」


「わからないな」


「帝国に仕えたくないのか?」


レオは彼を見た。


「まだ決めてないんだ」


セドリックは頷いた。


「じゃあ、何がしたいんだ?」


レオは空を見上げた。


「それも、わからない」


しばらくの間、二人は何も言わなかった。


やがて、レオは微笑んだ。


「でも、それを見つける時間はまだあるから」


セドリックも微笑んだ。


「確かにそうだね」


レオの第一学期の最後の数週間は、穏やかに過ぎていった。


学業の成績は傑出したものだった。


ほぼすべての科目で首席だった。


魔力に関する成長については測定が困難だった。精霊とのつながりを適切に評価できる試験方法が、従来のものにはなかったからだ。


友人との絆も深まっていった。


そして学院は、レオがただの子供として過ごせる場所へと少しずつ変わっていった。


だが、教室の外では……


皇宮には報告が届き続けていた。


アルドレン教授は毎週のように評価報告書を提出していた。


学業の進捗:極めて優秀。


魔力の理解度:並外れている。


精霊との親和性:前例がないほど高い。


素行:落ち着いている。


対人関係の成長:急速に改善中。


帝国への忠誠心:未定。


その最後の項目が、繰り返し記されていた。


レオが敵意を見せたからではない。


彼はそんなことはしていなかった。だが、レオは決して帝国を盲信しなかった。


彼は問いかけ、


耳を傾け、


観察し、


そして自らの結論を導き出した。


皇帝はそれに気づいていた。


ある日の夕刻、アウレリウスは書斎でレオの最新の報告書に目を通していた。


皇帝は最後のページにたどり着き、


そこで手を止め、


やがて微笑んだ。


「興味深いな」


傍らに控えていた側近が尋ねる。


「何事でございましょうか、陛下」


アウレリウスは報告書を置いた。


「彼は帝国を崇拝してはいない」


側近は眉をひそめた。


「それは懸念すべきことでしょうか?」


「いや」


アウレリウスは窓の外に目を向けた。


「むしろ逆だ」


彼は微笑んだ。


「あれほどの力を持つ者を育てるのであれば……」


「……自らの頭で考えられるようになってほしいものだ」


側近は一礼した。


「仰せのままに」


アウレリウスは沈黙を守った。


宮殿の窓の向こうでは、夜空の下、帝都が煌めいていた。


帝国は、並外れた魔法の神童を見出したと信じていた。


天性の精霊王。


才気あふれる学者。


あるいは、将来の帝国の至宝となるべき存在。


だが、レオは別の何かになろうとしていた。


帝国が想定していなかった何かへ。


力とは弱き者を守るためにあるのだと理解する子供へと。

教えられたことをそのまま受け入れず、疑問を抱く子供。


人々を「善」と「悪」という単純な枠組みで分けることを拒む子供。


そして何よりも……


自分の未来は自分自身のものであると、理解し始めていた子供。


その夜、レオは自室のバルコニーに立っていた。


眼下には帝都が広がっている。


月の光の下で、無数の灯りがきらめいていた。


小さな精霊たちが、彼の周りを漂っている。


彼は遠くの地平線に目を向けた。


あの山々の向こうに、アッシュベールがある。


母は今も、そこに眠っている。


忘れてなどいない。


決して忘れることはないだろう。


だが、もう彼は一人ではない。


レオは微笑んだ。


「明日は、どんなことを教えてくれるんだろう」


小さな火の精霊が、彼の肩に舞い降りた。


風の精霊が、頭上で輪を描く。


水の精霊が、手元に浮かぶ。


そして、小さな土の精霊が、足元に佇んでいた。


レオは彼らを見つめた。


「おやすみ」


精霊たちが、温かく彼を包み込んだ。


母の死以来、初めて……


その夜、レオは孤独を感じることなく眠りについた。


彼は、捨てられた村の子供として帝国アカデミーに入学した。


思い出と、ある並外れた才能以外、何ひとつ持たずにやってきたのだ。


だが今や……


彼には知識がある。


友人たちがいる。


師がいる。


自ら選んでそばにいてくれる精霊たちがいる。


そして、アッシュベールの外にある複雑な世界を理解し始めていた。


帝国は、完全な善でもなければ、完全な悪でもない。


そこに住む人々も、単なる英雄や悪党ではない。


下すべき選択がある。


解き明かすべき真実がある。


そして、容易には答えの出ない問いがある。


レオはまだ、わずか六歳の子供にすぎない。


それらの問いが、やがて彼をどこへ導くことになるのか、知る由もなかった。


自分に居場所を与えてくれた帝国が、いつの日か彼に「最強の兵器」となるよう求めることになるとは、知る由もなかった。


帝国の書庫でやがて見つけ出す知識が、世界のすべてに対する彼の認識を一変させることになるとは、知る由もなかった。


今はただ……


彼は一人の子供だった。


銀色の髪を持つ子供。


精霊たちに囲まれた子供。


本を愛する子供。


そして、ついに友人を見つけた子供。そして、生まれて初めて……


自分には居場所があるのだと感じ始めた、ひとりの子供。

第1話をお読みいただき、ありがとうございました!もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマーク登録】や、評価の【星★★★★★】をぽちっと押して応援していただけると、今後の執筆の凄まじい励みになります!ヴァンガードより、どうぞよろしくお願いいたします!

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