表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青二才のアズル  作者: 紫煌 みこと
第3章「お菓子な国の支配者」
34/37

第34話「侵入開始」

「ねぇ、マグス」

「……いかがなさいましたか」

「まだ……見つからないの?」





 城の中にある、幼稚な装飾が施された部屋はホーティの自室だ。

 ベッドに座り込んだホーティは、日が沈んでゆく窓の外を眺めていた。


 マグスは彼女の背中を見つめながら、静かに俯く。


「……申し訳ございませんが、未だに見つかっておりません」

「……そう」


 ホーティは小さく返事をした。

 マグスは自身のタキシードを整える。一瞬だけ、彼は言葉を口にすることを躊躇した。


「お嬢様。あなた様がどれほど、ぼっちゃまの身を案じておられるのかは、わたくしも深く心得ております。ですが……ぼっちゃまはもう……」

「やめて、マグス! 私は信じてるもん!」


 突然、ホーティが振り返り、大きな声を出した。


「あんなことをされたって……兄さまは大丈夫だわ。兄さまは強いから。必ず生きているもの」

「……」

「お願い、マグス。スイーツパラダイスをもっと進めないと」


 彼女は上目遣いでマグスを見上げる。

 彼は少しの間、無言でホーティを見つめたが――やがて、頷いた。


「……先ほどの無礼な発言、深くお詫び致します」

「いいわ、大丈夫……。それより、侵入者がこないか、ちゃんと見てて。もし来たら捕まえて、地下の労働者に含めちゃっていいわ」

「承知いたしました」


 マグスは深く一礼をすると、部屋からそっと出ていく。




 廊下を歩いている途中、マグスは一人のメイドに話しかけられた。


「王女様とは普段、何を話しているのですか?」

「……」


 マグスは堅い表情を崩さなかった。

 スイーツパラダイスの真相も。本当の目的も。ぼっちゃまのことも。

 すべて、お嬢様とだけの秘密である。


「……くだらない雑談を繰り返しておりますよ」

「そうなんですね……」


 メイドは手に持ったお菓子を見つめながら、小さな声でつぶやく。


「私、心配なんです。ホーティ様のことが……。お菓子を持って行っても、元気がないから。心に負担をかけすぎだと思います」

「……何故にそう思われるのですか」

「だって、ホーティ様は家族を全員なくしているじゃないですか。王様も女王様も、病気で……。唯一の兄妹である王子様だって……」

「それはわたくしも十分理解しております」


 マグスは耐えかねたのか、遮るように言った。


「でも……仕方ないのです。王族は今、お嬢様だけです」

「ホーティ様は可哀そうだけど、そんなホーティ様がめちゃくちゃしすぎるから、民たちも大変ですよ! 絶対王政の法律だとか、スイーツパラダイスによる負担だとか……!」

「それらはすべて、ホーティ様のお考えによるものです。あなたたちは、本当の目的など知りえないでしょう」


 マグスは冷淡に言い放つ。

 彼と王女以外は知らないはずだ。誰がお菓子を作っているのかを。スイーツパラダイスを行う、その真の理由を。


「私は、古くから国王様に仕えた執事として、お嬢様を守り抜かなくてはなりません。……たとえそれが、国を裏切る行為であるとしても」


 そうはっきりと告げると、メイドはもはや何も言い返せなくなっていた。

 マグスは険しい表情のまま、メイドの傍らをすれ違い、廊下を歩いて行った。





「んまっ。これうまっ!」

「すげぇ、マートさんって料理うまいんだな!」

「私は世界中の食事を追求してきたのですよ? この程度、私にかかれば朝飯前です」



 小屋の中にあるテーブルに並べられたのは、肉や野菜が存分に使われた数々の料理。

 カラフルで美味しそうに見える反面、栄養素にもこだわりを感じる食材のチョイスだ。だが、マートが買ってきた食材はそこまで多くはない。少ない材料で美味しいものを作る、まさに調理のテクニックである。


 ウェリーは料理を前にすると、表情をケロッと変化させ、机にかじりつく勢いでやってきた。彼に犬の尾があれば、目障りなほど左右に揺れていただろう。

 あながちアズルより酷い食欲である。サラピは3人トリオを見渡し、ため息をついた。


「……なんか、こんなに食いしん坊3人が揃うことって、すごいっぴね」

「サラピ、そいつは違うぜ。3人と1匹だ。お前も十分食い意地張ってるだろうが」

「はぁー!? 黙れっぴオイラは魔物としての本能的な食欲を――」


 くだらない喧嘩が始まろうとしたところを、マートが止めた。


「見苦しいのでやめなさい。さ、今夜はよく動きますから、ちゃんと食べておいてくださいよ。緊張するでしょうし」

「……」


 彼が言うことはもっともだ。

 城の中に忍び込むだなんて、冷静に考えてみれば無謀すぎる。

 アズルとウェリーは顔を見合した後、静かに残りの食事を食べ始めた。





 そして、太陽が完全に沈んだ真夜中。



「ねぇやっぱりデカいってこの城! どっから入るの!」

「うるせぇ黙れ! 入る場所がねぇならぶっ壊す!」

「2人とも、声が大きい!」


 3人と1匹は、ホーティが暮らす城の庭に隠れながら、忍び込む場所を探していた。

 アズルは初めて見る巨大な城に圧倒され、今更ながら震えている。ウェリーは真正面からホーティを殴り倒す気満々で、マートがそれをたしなめていた。


 普段なら警戒心の強い兵士たちは、城外の見回りへ向かったので、今は警備が手薄である。


 マートはアズルの胸ポケにいるサラピへ笑いかける。


「サラピさん、さっき買い物に行ったとき、ついでに城へ忍び込める場所、調べてきてくれましたよね」

「もちろんだっぴーっ!」

「えっ、サラピ、いつの間にそんなことをしてたのか?」

「オイラだって、何もしない小鳥じゃないっぴよっ!!」


 サラピは跳ねたような声を上げ、パタパタと羽を小刻みに羽ばたかせた。

 赤い鳥は、夜の空でもよく目立つ。アズルたちはなるべく目立たないよう気を付けながら、サラピについていった。



「ここだっぴ」


 サラピが示したのは、高い花壇の奥にあった小さな扉。

 アズルは扉を見つめ、首を傾げた。


「なにここ?」

「これは城の非常口の一つらしいですよ。サラピさんが発見してくれました」


 開けてみようとドアノブを回したが、当然ながら鍵が掛かっている。


「閉まってるけど、どうやって中に入るんだよ?」

「どけぇ! アズル!」

「うわっ!」


 突然、アズルを押しのけてウェリーが顔を出した。

 ドアノブを掴むと、強引に捻ろうとする。

 彼の馬鹿力では、鍵穴がねじ曲がって開かなくなることもあり得る。マートが慌ててウェリーを引きはがそうとした。


「やめてください、ウェリー! 鍵は丁寧に――」


 しかし次の瞬間、ウェリーが片足で扉を強く蹴り、脆い木材の扉を割ってしまった。


「うぉっ。ぶっ壊れたぜ」

「……」

「行くぞおめぇら! ホーティをぶっ潰せー!」

「違います! ホーティ様には会いません! こっそり行くんですよ、あ、こら!」


 なりふり構わず走り出したウェリーを追いかけるマート。


「はは……俺らって今、王女様の城に侵入してるんだよな?」

「そうっぴよ」

「全然やってる実感ねぇ……」


 いざ死ぬかもしれない場で茶番を見せられると、様子がおかしくなりそうだ。

 アズルはサラピを胸ポケに戻し、静かに2人の後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ