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青二才のアズル  作者: 紫煌 みこと
第3章「お菓子な国の支配者」
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第33話「少年の生き様」

「正面突破! 正面突破!」

「3人で正面突破など行えば、3人ともあの世行きです。作戦は真面目に考えましょう」

「はぁ~? めんどくさっ!」





 フェアリーキングダム内にあった小さな小屋を借り、アズル、マート、ウェリーはそれぞれの活動をしていた。

 マートは住民からもらった城内の地図と睨み合いを繰り返し、城の構造を脳に叩き込もうとしている。


「城の地下について、あまり詳しく表示されていないですね。これは怪しいですよ……」

「……マートさんって、なんか頭いいよな。もう美食家じゃなくてさ、敵の場所に侵入する仕事すれば? 戦う時も強いしさ」

「嫌ですよ、私は世界中を気ままに旅したいんだから。単なるインテリ美食家くらいに思っておいてください」


 マートは微笑し、地図を見つめながらつぶやいた。


「さきほどピクシーたちに、城にいる兵士の定位置は聞いておきました。どうやら今日の夜、兵士たちが外の見回りに行く予定があり、僅かながら城の警備が手薄になるようですよ」

「よっしゃ! じゃあ今日の夜に正面からカチコミ――」

「ちょっとウェリーは黙っててください。アズル君。今夜、城の地下へそっと侵入し、何か決定的な証拠となるものを持ち帰りましょう。そして残りの判断はピクシーたちに任せます。どうでしょうか?」

「……いいんじゃない? でも……」


 アズルは少し不安げな声で尋ねた。


「ちょっと気になってるんだよな。俺は別にいいんだけど……マートさんは大丈夫なのかって。ほら、やろうとしていることは、俺たち死ぬかもしれないんだから」


 アズルに関しては動機がある。ホーティの悪事を暴けば、国の英雄として理解され、フェアリーキングダム内で動きやすくなるのも事実だ。

 ウェリーも、マートと再戦したいからとか、ホーティがムカついたからだとか、彼なりの意見と望みがある。

 そんな中、マートだけは、自分に対しての見返りがない。彼はシーマンの美食家。この件に関わる必要はなかったはずだ。


 いつも思っていた。マートは、アズルのためにお金を払ったり、ウェリーと戦ったり……自分の損得を考えていない。


「いいの? マートさん」

「……」


 マートは少し目を伏せて考え込んだが――やがて、笑顔で頷いた。


「大丈夫ですよ。結局は私が判断したことなんで。ウェリーも言ってたじゃないですか。私がやりたいからやる。駄目ですか?」

「……いいと思う。俺もたぶん、そうやってきた」


 ノアと協力したときだってそうだった。アズルは納得したように頷いた。


「そういえばアズルさん、貸したリボンをどこにやったんですか? あれは大事なので、返してくださいね」

「あぁ、髪につけてたこれね? はい、返す」

「オイラも話に混ぜろっぴー! 暇なんだっぴー!」


 アズルの胸ポケからサラピが飛び出し、地図の上に乗った。

 その瞬間、ウェリーが目をキラキラさせてサラピに顔を近づける。


「うぉっ! うまそうな小鳥じゃねぇか! アズル、こいつはてめぇがとってきた夕食だな!? よくやった!」

「ちげぇよ馬鹿!」

「はぁ……だいたい、小さなサラマンダーバード1匹じゃ、1人分の腹ごしらえもならないでしょう? でもそろそろ、夕食を考えないとですね……」


 窓から外を見れば、朱色を帯びた太陽が沈み始めている。

 マートは立ち上がり、自分のバッグをあさり始めた。

 すると、調理器具や少量の調味料が出てくる。彼はお金の入った袋だけを持つと、玄関へ向かう。


「食材は私が買ってきますから、あなたたちはこの小屋で待っていてください」

「えぇ、いいの!? マートさん」

「だって他に財布を持ってる人、いないでしょ? それに、食材選びは私の得意分野なんで」


 彼は小さくウィンクをすると、小屋から出て行ってしまった。

 すると突然、サラピがアズルの正面を横切り、マートを追いかける。


「あぁっ、待つっぴ! オイラも暇だから行きたいっぴ! アズル、いいっぴか?」

「別にいいけど……」


 アズルが頷くと、サラピも小屋を飛び出し、扉がゆっくりと閉まった。





 マートが去っていった後――

 アズルたちは、机の上で他愛もない雑談を交わしていた。


「魚野郎、本当に料理ができるのかよ? オレは不味いもんは食わねーからな!」

「……食事はあるだけありがたいと思ったほうがいいと思うぞ。俺は知ってるからな。空腹の絶頂を何度も体験してるんだ」

「あぁ? んなことオレが知るかよ。オレが店に入りゃ、誰かがメシ持ってくんのが当然だからなぁ」


 ウェリーは机の上に足を乗せ、手を頭の後ろで組んだ。

 リラックスしている様子のウェリーを見つめ、アズルは考える。


 この少年は、今までどんな暮らしをしてきて、何を目的に生きているのか――


「ウェリーってさ……森の外で暮らしてるんだよな」

「おぅ。どこで知ったんだ」

「ピクシーの人が教えてくれたんだ。それに……お前さ、俺が森の傍で休んでいた時、急にうしろから話しかけてきただろ」


 あの感覚を、アズルは今でも覚えている。

 不自然な悪寒が身体を襲い、背後から囁かれた脅しの声。


 するとウェリーは、顎に手を添えてつぶやいた。


「あ――……そうだな、シンプルにてめぇが縄張りに長居してんのはムカついたし」

「ちょっとムカついた程度があれはヤバすぎるだろ」

「森はオレの家がある大事な場所なんだよ! 生まれたころからあそこで住んでいるんだから」


 その言葉を聞き、アズルは顔をしかめる。


「生まれたときから??」

「いや、正確には、オレの記憶があるときからだ。いつからだったかな、10年くれぇ前からか? ちっせぇガキの頃、気が付いたら、森の近くの浜辺に倒れてたんだ」

「へぇ……どうして?」

「だから、記憶がねぇからわかんねぇって……。たぶん、クソな親に捨てられたんじゃねーの」


 ウェリーの語り方は淡々としている。

 ……親に捨てられて悲しいとは、思わないのだろうか。


「とりあえずオレは、森の中で何とか生き延びようとしてたんだよ。そうしているうちに、知恵ってやつを覚えて、オレなりの生き方をしてた」


 アズルは何も言わず、静かにウェリーを見つめた。


「結構面白いもんだぜ? 森の中暴れまわって、クマを投げられるくれーになったんだ。そうしたら、他の人間とかピクシーだなんて屁でもねぇ。前に兵士みてーのが来たけど、鼻づら折って帰らせてやったぜ」

「さすがにそれはやべぇだろ……」

「んでな、強いってわかったから、適当な店に行ってメシを作らせた。その方が、森で取る雑草よりはうまかったからな。これがオレの生き様よ」


 ウェリーは自慢するかのように、胸を張って己を親指で指した。

 ――だが突然、不機嫌そうな顔になる。みるみる表情を変えると、机を大きく叩いて頭をかいた。


「あ~!! でも今日、魚野郎はムカついたぜ! 金がねぇと食っちゃ駄目なのかよ!? でもあいつが強ぇから逆らえねぇ。くっそー、ぜってぇ今度こそオレが勝つからな」

「いや、お前は勝てないだろ。だってマートさん、水になるんだぜ」

「は? うるせーな。生意気言うならてめぇもオレと勝負しろ」

「いや、ムリムリムリ。俺は本当に戦えないから」

「ハッ! だったら黙ってろよな」


 アズルが慌てて首を振ると、ウェリーが馬鹿にしたように笑う。

 だが、その笑顔には、一片の曇りもなかった。

 もしかしたらウェリーは、粗野で乱暴なように見えて、誰よりも純粋な心を持っているのかもしれない。


(こいつ……いろいろおかしい奴だけど、性格がカラッとしてていいな)


 思わず笑みが漏れてしまう。

 するとウェリーは、再び不満げな顔をした。


「あ? オレの何がおかしい」

「いや、何もおかしくはないさ」

「いいか、アズルもオレを見習え。オレはこう見えても、案外ピクシーの女どもからは支持が厚い。要するに、モテモテなんだよ! かっけぇからな! てめぇとは違って!」

「はぁー!? お、俺だってお前よりはマシだし!」

「何がだ!」

「何もかもがだ!」


 額から火花が出るほど、激しく顔を近づけて睨み合う2人。

 そこへ――





「はいはーい。どんな美男美女も、所詮はお腹に大便持ってる生物ですよー」

「はっ……?」

「醜い喧嘩をしないでください」

「美味しそうなお肉があったから、マートと一緒に買ってきたっぴよー」


 バスケットを抱え、肩にサラピを乗せたマートが立っていた。

 まだ料理は何もしていないというのに、バスケットの中から、香ばしい食材の匂いが漏れ出している。


 マートはものすごい極論を口に出した後、左手で自分を指さす。


「それに……あなたたちより、私が断然美男子ですから☆」

「黙れっ!!」


 ウェリーは怒りをわかりやすく顔に出し、マートに掴みかかる。

 慌ててアズルが仲裁に入ったが――小屋の中はいつの間にか、個性豊かな男トリオが大騒ぎする空間と化していた。

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