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青二才のアズル  作者: 紫煌 みこと
第3章「お菓子な国の支配者」
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第32話「支配に抗い始める者たち」

 去っていったホーティの背を見つめ、アズルはただ静かに見つめていた。

 王女の佇まいは、小さいながらも有無を言わせぬ威厳が宿っている。何も言い返せなかったことを思い出すと――恐怖の後に、少しずつ悔しさが滲み出てきた。


「お前、さっきの質問すげぇな! 少しは度胸あんじゃねぇか?」

「……いや……マジで違う……なんで俺、あんなこと……」


 横から話しかけてくるウェリーは満足げだ。アズルは顔を手で押さえてうつむく。

 サラピは呆れたような息を吐いた。


「アズル、どうするっぴ? 王女にあんな風に言われたら……いつの間にか、フェアリーキングダム出禁になっているかもしれないっぴよ」

「うわっ、追い出されるかな? 俺のやるべきこと、何もできていないんだけど」


 アズルが焦ったような表情をすると、ウェリーがグイと顔を寄せてきた。


「だったら決まりだな。あのムカつく王女をぶっ飛ばす!」

「意味わかんねぇよ! 俺の目的と王女は関係ないから! あと……ホーティさんに歯向かったら、余計にやばいことになるだろ。他のピクシーたちにも恨まれるかもしれないし」

「なーに言ってんだよ。あんなクソ王女、誰が敬うっての。絶対王政? ってやつで、逆らったら罰を受ける法律があんのが悪いんだよ。だからみんな、王女やスイーツパラダイスのことを持ち上げてんだぜ」


 ウェリーは肩をすくめて嘲笑した。

だが、彼の言うことも一理正しいものでもある。ホーティへの文句を言う者は見かけなかったが、それは表面上の姿であって、裏ではどんなことが起こっているのかわからない。


「ホーティの奴の悪事を暴けば、むしろ他のピクシーたちから好かれるかもしれないぜ?」

「そっか。それは確かにうれしいけど、俺がそんなことできるわけ……」

「誰もてめぇだけでやれなんて行ってねぇだろ?」


 アズルは顔を上げた。

 ウェリーの歯を見せて笑った表情は、太陽に照らされて輝いていた。


「オレもやるぜ! 新しい王になってから、オレもイライラしていたんだ。景気がよくねぇ。オレはお菓子が大好きだが、家がお菓子になる、こいつはちと気持ちわりぃな」

「……」

「そうだ、あの魚野郎も巻き込もう。他の奴らも、使える奴はじゃんじゃん使うんだ。相手はたかが妖精のガキだぜ? オレたち舐めんなよってはなし!」


 彼の言うことはむちゃくちゃだ。王女をぶっ飛ばすと言っているだけで、計画性の欠片も見えてこない。

 だが――彼の言葉には、自然と誰かを励ますような意思が込められている。不思議だった。彼が何を言っても、きっとうまくいくという希望を錯覚するのだろう。


 なら、それを錯覚で終わらせないように……


「……わかった。マートさんに相談してみよう」


 アズルはやっと了承し、頷いた。サラピは「また面倒ごとを起こすっぴか~?」とあきれた声を出す。

 ウェリーはアズルに合わせて頷き、立ち上がってばんざいをした。


「うっひょぉー! これで決定だぜ! ところでてめぇ、名前は何なんだ?」

「……アズル。あと、魚野郎じゃなくてマートさんだよ」

「へー。ちなみにオレ、みんなにウェリーって呼ばせてるけどな……実際、本当の名前はわかんねぇんだ」

「え?」

「オレ、ガキの頃の記憶ねぇから」


 ウェリーの口調は軽々しい。だが今の言葉は……アズルが知ってよかったのだろうか。

 鼻歌交じりにマートのもとへ戻るウェリー。


「あいつ……急に現れたけど、なんなんだろうな」

「さぁ? オイラも知らないっぴ。あとでいろいろ聞いてみたら?」


 ただの天涯孤独の野生児……なのだろうか?

 強すぎるから、兵士でさえも彼を保護できない。誰も味方につけず、森で暮らしているという彼には、謎が多すぎる。


そんな彼を背後から静かに見つめ、アズルもついていった。





「ホーティ様の城を正面突破……? ちょっと何言ってるのかわからないのですが」

「だから、言葉の通りだ! てめぇとオレがいれば、兵士なんて全滅させられるだろ」

「頭の中、お花畑なんですか? 城の中に兵士が何人いるかわかってます? 私は自分から処刑されるつもりはないので、行きたいなら1人でどうぞ」




 アズルたちがマートのもとへ戻った後――

 ウェリーが食いかかるようにマートの前へ立つと、突然、城を襲撃するとかいう発言を強調し始めたのだ。

 マートは冷めた目でウェリーを淡々と論破していたが、その様子を見ていたアズルが横から介入した。


「でも聞いてくれよ、マート。俺、さっきホーティさんと会ったんだよ」

「えっ、そうなんですか!?」


 マートが目を見開いてアズルを見る。周囲に集まっていたボランティアのピクシーたちも、一斉にアズルの方を振り向いた。


「そうか、今はホーティ様が外を迂回するタイミングか」

「それで、アズル君は何を話したんです?」

「それが……」





 アズルの話を聞いた直後――

 当然ながら、マートは目を丸くした。


「はい?? え、なんでそんな単刀直入に聞いたんです? お菓子を労働者に作らせていないか」

「本当にわざとじゃないんだって!」

「……まぁ、仕方ないですね。でも、ホーティ様がその話題に嫌悪感を出したということは、おそらくビンゴでしょうね。ホーティ様には重大な隠し事がある」


 それを聞いて、周囲のピクシーたちは顔を見合し、困惑し始めた。


「嘘でしょ、ホーティ様が……?」

「でもありえるよな。あんな法律を作る王女様だぜ?」


 マートの話を疑っているわけではなく、信じているからこそ、王女に失望しているのだ。

 するとマートが彼らの前に立ち、そっと両手を上げた。


「まだ信じるには早すぎますよ。前にも言いましたが、まだ証拠がありませんから」

「マートさん、さっきウェリーと話したんだけど……」


 アズルは少し口をつぐむ。

だが顔を上げ、まっすぐな視線を向けて言った。


「俺はウェリーに賛成だよ。さすがに正面突破はやばいけど……何とかしてホーティさんを止めよう。知ったまま放っておくのは、駄目だと思う。俺はそうする。マートさんは……どうするんだ?」


 マートはアズルに顔を向けたまま、少しだけ口を開けて考え込んだ。


「……意外ですね。アズル君って、そういうこと言う人だったんですか」

「そ、そりゃ怖いよ!? でもだって俺はもう、この3日間くらいで3~4回くらい死にかけてるからな!? もはや命を懸けるって何だっけってなっちまう」

「アズルは悪運だけは強いっぴからね~。思ったより死なないっぴよ」


 サラピがからかうように付け加え、アズルが怒って胸ポケを叩いた。

 その様子を見たマートはクスリと笑い、頷く。


「わかりました。私も行きますよ」

「えっ、本当に!?」

「だって私も、王女の陰謀を見て見ぬふりをしながら食事を楽しむのは気分が悪いですから。それに……あなただけに任せたら心配ですよ」


小さくウィンクをするマート。そしてすぐにウェリーの方を振り返ると、今度は目を少しだけ開いて睨んだ。


「でも、なんで君まで一緒に来るのかはよくわかりませんけど……。ウェリーでしたっけ? 君は急に現れて戦って仲間になるって、なんなんですか?」

「オレは暇なんだ。オレが何をしようが自由だろ! てめぇが気に入らねぇから戦った。ホーティの奴が気に入らねぇからてめぇらに手貸すだけだ!」

「……君が自分から提案しただけで、誰も君に手伝えなんて言っていませんよね。まぁいいですけど」


 マートは落ち着き払った様子で言い、周囲を見渡した。

 ――会話を聞いていたピクシーたちは、呆然とした顔で3人を見つめている。


「……今の会話、聞かなかったことにできませんか?」


 マートはそうつぶやいたが、いくら何でも無理があった。

 王女がたとえ悪事を働いていたとはいえ、王女に何かあれば、ピクシーたち全体に損害がある可能性が生まれる。彼らは、アズルたちを止めようとしてくるかもしれない。





 だが――彼らの反応は、まるっきり予想外のものだった。


「……マジで!? ホーティ様の悪事を暴いてくれる!?」

「最高! 私も手伝うわ!」

「みんなでフェアリーキングダムを良くするんだ! なんでホーティ様に全部決められなきゃ駄目なんだよ!」


 わいわいと騒ぎ出す彼ら。

 マートとアズルが戸惑っていると、婦人が笑顔で話しかけてきた。


「実を言うと、ホーティ様のわがままにはピクシーたちもこりごりしてんだよ。観光客を呼ぶのは大事だけど、私たちも声を上げないとね。今までホーティ様に逆らう勇気が出なくて、みんな動かなかったんだから」

「……みなさん、いいんですか?」

「当然さ! ほらみんな、城に詳しいのは私たちだろ?」

「はいはい! 僕、城の兵士の場所知ってる!」

「私もよ!」


 みんなが意気投合し、声を上げ始める。アズルは初めて、味方が多いことの安心感を知った。

 今までの長い人生、自分に味方してくれる者など、ほとんどいなかった。それがサラピを始め、ノア、ライミー、村の人々、マート、ウェリー、そしてピクシーたち。

 彼らの存在は、たった1人の青年の人生を転々とさせている。その行きつく先はわからないが、わかる必要はない。

アズルは段々と自信が込み上げてきた。


「よし……マートさん、俺、魔法と剣はそんなに強くないから……それだけは頼んだ」


 彼の表情は真剣だ。

マートはアズルを見つめ、優しく微笑み返した。


「承知しました。ホーティ様を追い詰める方法、みんなで考えてみましょうか」







 その頃――

 菓子のデザインで彩られたカラフルな城の一室では、王女ホーティが、ベッドの上に座って不機嫌そうな顔をしていた。

 ふくれっ面をし、静かに窓の外を眺めている。


 そこへ扉が開き、紳士的な身なりをしたピクシーの老人が入ってきた。


「お嬢様、どうなされましたか」

「……」


 彼女は振り返ると、まるで子が親に甘えるような、わがままな声を出した。


「ねぇ聞いてちょうだいマグス。今日、外でさ、嫌な男がいたの」

「そうでしたか。その男性とは、何者でしょうか?」

「わかんない。どっかで見たことあるような気がしなくもなくも……とにかくね、そいつ、城の地下のことわかってるの! どこから情報が漏れたのかしら!?」

「……それは実に不吉な予兆ですな。その件は、わたくしとお嬢様しか知りえないはずなのに。わたくしが対処しますので、お嬢様は気になさる必要はございません」

「ありがとう、マグス。愛してる」


 ホーティはそっけなくつぶやく。

 老人はスラリと細い体を曲げて一礼をし、無言で部屋から出て行った。

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