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青二才のアズル  作者: 紫煌 みこと
第3章「お菓子な国の支配者」
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第29話「街中の攻防戦」

「オレに文句があるなら、とことん言ってみろやボケがぁ!」





 ピクシーの少年は、腕を組みながらアズルたちの席へ近づいてきた。

 店の外を窓から見れば、他のピクシーの住民たちが、不安そうな表情で中を見つめてきている。少年はそれなりの知名度があるのだろうか。




 すると最初に立ち上がったのがマートだ。

 アズルが驚いたような目で見上げたが、マートは清々しい笑みを浮かべたまま、少年に近づいた。


「マートさん? 近づいたらやばくない?」

「大丈夫ですよ。彼のような性格は、私が最もよく理解しているので」


 意味深な視線をアズルに向けたあと、彼は少年と向き直った。

 ピクシーの少年は、怪訝そうな表情でマートを睨み付ける。


「あぁん? てめぇ誰だよ。頭の上に、気持ちわりぃヒラヒラしたもんついてやがるな」

「これはヒレですよ。私はシーマンですから」

「はーん。よくわかんねぇけど、だせー見た目だな!」


 何がそんなにおかしいのか、ケラケラと笑う少年。

 マートは少しも表情を変えず、挑発的な声でつぶやいた。


「失礼ですが、お金は持ち合わせていますか?」

「は? かね……?」

「マネーのことですよ。対価すら払わず、強引に店員を脅す様子。食事への感謝が微塵も感じられませんね。失礼ですが、邪魔です。今すぐ出て行ってください」


 彼は声に少し力を込めた。顔を少年のギリギリまで近づける。

 「お金を払わない」というワードが聞こえ、アズルは耳が強烈に痛くなった。


 少年は、マートを睨み返して鬼のような形相を浮かべた。


「あぁ? てめぇ、今なんつったか?」

「出て行ってください。君のお母さんが泣いてしまいます」

「親なんていねぇよばーか! てめぇもうるせぇな。オレに指図なんかいらねぇ、腹減ってんなら自分のヒレでもしゃぶってろ」

「あんまり大人を怒らせようとしないほうがよろしいですよ」


 いつの間にか火花バチバチな雰囲気になっている2名。

 マートの背後でその様子を見つめていたアズルは、困惑した表情を浮かべた。


「うわぁ、最悪だよサラピ」

「暴動起こさないといいっぴけど……」




 すると少年が突然、マートの胸ぐらを掴み上げる。

 マートは微動だにしない。少年はニヤリと笑った。


「てめぇ、オレと戦えよ。オレに完敗と言わせてみろ。強さは正義だからな、てめぇが勝ったらオレは二度とここに来ない。オレが勝ったら……てめぇはその面下げて謝って、そうだな、そのマネーってやつを全部寄こしやがれ」

「ええっ、勝負!?」


 アズルは跳ね上がるような声を出してしまった。規模がどうなるのかは勝負の内容によるが、ろくなことになる気がしない。仮にマートが負けてしまったら、無一文が増えてしまうのも問題だ。

 マートはしばらく黙っていたが……やがて、少年のチョッキの胸元をグイと掴み返した。


「え……ちょっと? マートさん?」

「アズル君。私を止めないでください」

「なんで? 何するんだよ?」

「彼の出自は知りませんが……少々、態度が頂けない。私が鎮めてやります」

「は!? ちょ、落ち着けよ!」


 マートはフォークを取り出すと、船の時と同様、水を形成して槍を生み出した。

 それを見た少年はポカンと口を開けたが――やがて笑みを浮かべ、マートから手を放し、拳を構えた姿勢を取る。


「やるんだな? 武器持ってかっこつけやがって」

「建物の中を荒らしたくはありません。外へ出てください」

「上等だぜ。お前のヘラヘラ笑いに一撃入れて、壁にめり込ませてやるよ」


 そして2人は、カフェから出て行ってしまった。





 外の少し開けた場所で、マートと少年による攻防戦が繰り広げられていた。

 離れたところから見守っているピクシーや野次馬たちは、ざわめきを生んでいる。アズルは泣きそうな表情で「なんでこうなるんだよ~!」と嘆いていた。


 街道に沿って並ぶお菓子の家をかいくぐり、マートと少年は距離を図っていた。

 少年は透明な翅を震わせ、全速力でマートに接近してくる。


「好戦的な人ですね!」

「てめぇもだろうが! ひゃっはぁ! 食らえ、俺の攻撃ぃ!」


 やがて、少年がマートの目前まで飛び掛かった。

 少年が放った拳は、マートの腹に向かって垂直に入り込み――

 水に変化した腹へ、ドプリと沈んだ。


「!!」


 手ごたえを感じられず、少年は慌てて手を引っ込める。

 一瞬だけ自分の拳を見つめたが――やがて、楽しそうに笑った。


「今、何をした? 水になったよな? 暴力は効かねぇっていうのかよ!」

「その通りです」

「面白れぇ! だったらな……」


 少年はマートの全身を視界に収める。

 すると突然、懐へと飛び込んできた。マートはダメージ軽減のために腹を水に変えたが、少年の狙いはそこじゃない。


「うりゃあっ!」

「うぅっ!?」


 少年はマートの細長い尻尾を、容赦なく引っ張った。

 尻尾を水に変える暇もなく、激しい痛みが体を伝い、マートは思わず目を開ける。


「うらぁっ! 吹っ飛べゴラァ!」


 次の瞬間、ひるんでいるマートの胸元に、少年が全力で蹴りを入れた。

 マートは受け身を取れずに蹴り飛ばされ、菓子で出来た家に激突した。

 家から出てきた主婦のような女性が悲鳴を上げる。


「ひゃはははははっ! 水になる前に攻撃しちまえばいいってことよ!」


 地面に降り立った少年は、大口を開けて愉快そうに笑う。

 人に暴力をふるってなお笑うその狂気を恐れると同時に、アズルはマートの安否を心配した。


「マートさん大丈夫かよ……?」


 彼は崩壊したお菓子の家を見つめた。

 やがてその中から、マートがゆっくりと立ち上がる。


「すみません。必ず弁償しますので」


 震えて動けずにいる主婦に向かい、マートは頭を下げた。

 そして少年に向き直ると、微笑しながら叫んだ。


「随分とまぁ良い気になっていますね。まだ私は実力の半分も出していないのに」


 マートは少しもかすり傷を負っていない。

 乱れた服装を手で叩き、ほこりを落として整えた。再び槍を構え、少年の前に立つ。


「では今度こそ君を倒す気で行きましょうか」


 マートは大きく息を吸うと、今度は自ら地を蹴り上げて少年に近づいた。

 少年はマートの動きをかわして空を飛ぶ。マートは家の屋根に飛び乗ったが、それでも届かなかった。


「うぉっ、そうかてめぇは空を飛べねぇんだな?」


 少年は勝ち誇ったように笑うと、指でマートを誘う。

 だがマートは挑発に乗ることはなく――突然、屋根から降りて、家と家の間に姿を消した。


「……んあ? どこ行った?」


 少年は周囲を見回したが、マートの姿は見当たらない。

 いつまで経っても現れないので、少年は段々と焦りを覚える。

 低い場所まで降り、家の隙間を捜し始めた。


「……おい、どこ行ったんだよ! まさか逃げたのか!? あぁん!?」

「逃げるわけがないでしょう」

「はっ……?」


 声が聞こえたのは、背後から。


「君が下へ降りてきてくれるのを、隠れて待ってたんですよ!」

「てめぇっ、オレをはめやがっ……」


 少年が振り返ったが、もう攻撃をよける余裕はない。

 いつの間にかそこにいたマートが、槍を振り回す。横から叩きつけるように少年の腹へ攻撃を入れ、今度は少年の体が吹っ飛んだ。

 少年は先ほどのマートと同じように、違うお菓子の家へと激突してしまった。


「おぉーっ!!」


 息を詰めて見守っていた人々は、少年がやられた瞬間、大きな叫び声をあげた。


「あのシーマンの人、ウェリーの野郎をぶっ飛ばしたぜ!」

「今までそんなことできる人いなかったわよね!?」

「ウェ……ウェリー??」


 アズルとサラピは、聞いたことのない名前に首を傾げる。

 すると傍にいたピクシーの男性が、興奮した様子で語ってくる。


「ウェリーはフェアリーキングダムの外にある森に住みついてる厄介者だよ。あいつの親は誰かわからないし、どこから現れたのか不明な奴なんだ。前に兵士があいつを取り押さえに行ったはずなんだけど、全員顔面ボコボコで帰ってきたぜ」

「えぇ……やばい奴じゃん」

「平和を愛するピクシーたちの中では、あいつは異例だよ、まったく」


 アズルは怯えた目つきで少年を見つめた。

 吹っ飛ばされた少年――ウェリーは、クッキーまみれの瓦礫に体を埋もれさせたまま、近づいてくるマートを見上げる。

 マートは槍を左手で振り回し、静かに構えた。


「これで終わりにしましょうか」


 そう勝ち誇った笑みでつぶやき、槍を高らかに上げたとき――





 突然、背筋が凍り付くような悪寒を覚えた。

 マートは驚いたような目でウェリーを見下ろす。

 ウェリーは何もしていない。早く攻撃をしないのかと、マートの槍を睨んでいるだけだ。

 だったら、このはっきりとした嫌な寒気は、何なのか――


 シーマンであるマートは、体を水に変化させられる代わり、明確な弱点を持っていた。

 それは――寒すぎる環境にいると、徐々に身体が凍り付いてしまうことである。


「……っ」


 マートはとどめの一撃をやめ、即座に一歩下がった。

 ウェリーはゆっくりと起き上がる。体に付着してしまったクリームを払い落とし、マートに強い眼光を向けた。


「……なんでやらなかった?」

「ちょっと悪寒を感じまして。私、寒いのが得意じゃないんですよ。動けなくなってしまうので」

「寒い……? こんな晴れの日に何を言ってるんだてめぇは」


 ウェリーは鼻で笑う。立ち上がると、彼はこれ以上攻撃を加えようとしなかった。

 周囲の視線に気づき、突然、恥ずかしそうに赤面する。


「な……なんか最後、手加減されたみてぇじゃねぇか! 気分わりぃ、こんなもん引き分けだ!」


 彼は機嫌が悪そうに叫んだ。

 踵を返すと、家と家の間へ走っていき、姿を消してしまう。





 マートとウェリーの勝負は、非常に中途半端な形で終了してしまった。

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