表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青二才のアズル  作者: 紫煌 みこと
第3章「お菓子な国の支配者」
28/37

第28話「最悪な常連」

 アズルはどこかへ消えたサラピとマートを捜しながら、フェアリーキングダムの中を歩いていた。

 どこを歩いても、漂うのは甘いお菓子の香り。ピクシーたちが陽気に踊り、観光客が楽しんでいる。


「なんか、ライトシティとは全然違うんだな~。それにしても、どうやって家とかをお菓子にしてるんだろう」


 家の壁に使われているのは、とても人の手では作れないような巨大なクッキーなどだ。製造の秘密が気になって仕方がない。腐らないのも不思議である。

 それぞれの街や王国にある雰囲気の違いを感じながら、アズルは悠々と歩いていた。





「ねぇ、そこのおねぇさん、初めて来たの?」


 おねぇさんと呼ばれたせいか、アズルは自分を呼ばれたのだと気づかず、素通りしそうになった。

 アズルに声をかけたのは、建物の前にある椅子に座っている、優し気なピクシーの青年だった。


「ちょっと、無視はひどいじゃんか」

「……えっ? 俺を呼んだの?」

「はい? 俺……?」

「えっ、えっとその」


 アズルは混乱してしまい、手をあわあわと動かす。

 うっかり女装していた事実を忘れてしまっていた。こんな場所で捕まったら、マートとサラピだってもはや呆れるほかないだろう。

 仕方ない……アズルは覚悟を決め、なるべく体をマントで覆って縮こまった。


「そ……そうよ。観光しに来たの。ここの場所は楽しいわね」


 なるべく高い声で、それっぽい話し方をしてみる。

 あまりに下手すぎると思ったが――運が良いことに、青年は一切疑っていない様子だった。


「だろぉ~? 楽しいんだぜここ! なぁなぁ、僕の魔法も見てくれよ」

(なんかみんな、自分の魔法を見せびらかしたがるな……)


 さっきからピクシーは、やってきた観光客に何度も魔法を披露している。観光客を呼ぶ営業なのか、単にピクシーたちがエンターテイナーなのか。

 青年はその後、アズルのフードに花柄模様を入れた。恥ずかしそうに赤面するアズルを見て、愉快に笑う青年だった。





「……お前さん、ちょいと待ちな」

「何ですか?」

「あんた、指名手配されているね。見りゃわかるよ、男だろ」

「いっ!?」


 突然、アズルが最も隠さなくてはならない事実をサラッと言われ、彼は心臓を押さえながら横を見た。

 変な石や宝石に彩られた怪しげな店の中に、小柄なピクシーの老婆がいる。

 アズルが口を魚みたくパクパクさせていると、老婆は鼻で笑った。


「別に怖がるこたぁないよ。他人に言ったところで、そいつがお前さんを捕まえたら、あたしには何の利益もないしね。ヒヒッ」

「……」

「でも気をつけな。あたしの魔法を使った占いはよく当たるんだ。お前さん、城に近づくのはやめたほうがいい」

「城?」


 アズルが首をかしげると、老婆は持っていた杖で遠くを指した。

 王国の中心辺りに、ほかの建物と同じくお菓子で作られた巨大な城がある。


「あそこでホーティ様が王国を治めておる。あぁ、彼女は王国のすべてをお菓子に変えるというのか」


 老婆は独り言のようにつぶやき、身震いした。





「うわっ、ここにいたのかよ!!」

「やっと来ましたね」

「遅すぎて待ちくたびれたっぴ」

「遅すぎる……じゃねーだろぉぉ!! ふざけんなお前らぁ!!!」


 アズルがマートとサラピを発見したのは、小さなカフェの中だった。

 他の客はいない様子で、貸し切りのような状態である。

 マートたちはアズルが来るのがごく自然というように、格別驚きもしない。勝手にカフェで食事を楽しんでいるマートたちを見ていると、アズル段々と腹が立ってきた。


「マートの財布は底がないっぴ! いくらでも食べられるっぴ!」

「サラピ君、底はありますよ? 持ち合わせはあと金貨70枚しかないですからね? 私が過去、どれだけ苦労してお金を貯めたと思ってるんですか」

「70000マネーもあるんなら、多少散財したって問題ないよな。じゃあ俺もメニュー頼んじゃお。うわ、たっか」

「アズル君??」


 当たり前かのようにおごってもらおうとするアズル。

 いつの間にか互いに親密になっており、マートは苦笑してしまった。


「……どうぞ、勝手に食べてください」

「サラピ、こいつが金払えなくなるまで食ってやろうぜ」

「マートが? 金を払えない?」

「無銭飲食の恐ろしさを教えてやるんだよ。前の俺みたいに!」


 かつての自分を誇らしげに言うアズルだが、無銭飲食など、ただの恥でしかない。

 楽しそうなアズルとサラピを見つめ、マートはにこやかに笑っていた。


(アズル君は優しい青年ですね……)


 そして一瞬、彼は表情を曇らせる。

 少しだけ開いた瞳の中で、青色の光が微かな愁いを帯びていた。


「マートさん、ちょっとこれ、思ったより量が多いよ。お前も食べて」

「はい?」

「ほら、チョコレートあげる」


 皿の上に、アズルが食べているパフェの一部が雑に乗せられた。


「あんまっ! なにこれ、未知の食べ物だろっ! 牛乳と砂糖の力ってすげぇな」

「オイラは天才的な発明を思いついたっぴ! このクッキーを、オイラの炎で焼いて美味しくするっぴ! それぇっ!」

「ちょ、何やってんだ馬鹿、燃えてるって!」


 アズルが慌てて出した水魔法により、燃え盛るクッキーが消火された。


「……真っ黒になったけど……」

「いいや。これもマートにあげるっぴ。オイラはもう一枚試すっぴよ」


 皿の上のチョコパフェに、焦げたクッキーが追加される。

 とんでもない茶番を見つめているうちに、マートは笑いをこらえ切れなくなった。


「……ぷはぁっ! アハハハハッ! アハハッ、フフ……」

「何笑ってんだよ?」

「ごめんなさい、だって君たち、愉快すぎませんか?」


 マートは気が付けば、涙があふれていることに気づく。

 これは笑いすぎて出てしまった涙なのか、それとも――



「失礼しました。じゃあ私も、もらったものを食べますかね」


 目元をハンカチで拭いたマートは、皿にあったクッキーを適当に摘み上げ――


「……んぐっ!?」

「は?」

「ゲホッ、ゲホッ、なんですかこれ! 焦げすぎでしょ!」

「あぁそれ、サラピがミスったやつ。美食家のマートなら、汚物処理できるかなーって」

「食べ物に汚物って言わないでください! それと、私は焦げたもの処理係じゃありません!」


 頬を膨らませるマートを無視して、アズルとサラピは食事を楽しんでいる。

 やがてクッキーを焼いていたサラピが、急に声を上げた。


「そういえばアズル……なんでフェアリーキングダムに来たんだっけ?」

「……そうじゃん、忘れそうになってたよ! 村長さんと話しただろ。フェアリーキングダムで、夢をどうにかできる人とか、翠勇を知っている人を探すって」


 すると横から、マートが会話に口を挟んできた。


「夢? すいゆう? 初耳ですね。なんですかそれ?」

「えーと、だからその……うーわ説明面倒くさい! 何度目だよ!」

「私が手伝えることがあれば、やってやらなくもないですけど」

「……なんだよその偉そうな言い方。ともかく、夢っていうのは――」


 アズルが嘆息を吐きながら説明しようとした瞬間――





 突然、扉を勢いよく開ける音がした。

 アズルたちが思わず振り返ると、扉の前に、誰かが立っているのが見える。




「腹減ったから、いつもの食いに来たぜ」


 そう言い放ったのは――粗野な雰囲気を持つ、ピクシーの少年だった。





 少年の年齢は、おそらく十代後半くらい。

 銀に近い白髪は、うっすらと青系統の光を帯びている。だが、まともに手入れされた様子はなく、無駄に長いサイドの髪を、顎の下あたりで一つに括っていた。

 顔立ちは整っており、はっきり言えば美男子だ。高貴な印象を醸し出す容貌なのだが――それを台無しにするほど、服装と格好の乱れが酷すぎる。

 引き締まった体の上から直に着ているのは、腕がすべて露出するチョッキ一枚。ぶかぶかなズボンの上にブーツを履き、肩には申し訳程度の防寒着なのか、汚い布を巻いていた。


 そんなピクシーの少年は、挑戦的な笑みを浮かべたまま、遠慮なく店へと入ってきた。

 突然の出来事に、アズルたちは少しも動けずに固まる。

 少年はアズルたちに少しも注意を払わず、店のカウンターへと向かった。


 カウンターにいた男性の店員は、少年を見た途端、青ざめた様子で叫ぶ。


「まっ、また来たのかよ、化け物め!」

「今すぐいつもの寄こせってんだ!! 出せ早く! じゃねぇと……」


 少年はテーブルと大きな音で叩くと……獣のような、格別に低い声を出した。




「てめぇの鼻づらへし折ってぶち殺すぞ?」

「……わ、わかった。待ってろ、シェフに頼んでくる」


 店員はすっかり怯えあがった様子で、店の裏へと入っていった。




「ふぅ~」


 少年は急に上機嫌になったのか、近くの座席へ適当に座る。

 そんな彼を見つめ、アズルは気が付けば冷や汗が止まらなくなっていた。

 ――少年の声が、聞き覚えのあるものだったからだ。


(フェアリーキングダムに入る前……森で聞いた声だ!)


 森でマートが来るのを待機していた時。

 その場が急に寒くなり、確かに聞いたのだ。

 あの恐ろしい、威圧感がこもった脅しの声を。


 すると急に、少年が振り返ってきた。美しい顔立ちに嫌悪感を露わにしている。


「……てめぇら、何ジロジロ見てやがる!」


 少年は眉をひそめながら立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ