表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青二才のアズル  作者: 紫煌 みこと
第3章「お菓子な国の支配者」
24/37

第24話「来襲」

「おやぁ! 奇遇ですね、あなたは私に会いたくて食堂に来たのですか?」

「……」

「正面失礼します」


 誰も「いいよ」とは返していないが、無遠慮な美食家は堂々と青年の前に座った。





 アズルが船の外でマートと会話を終えた後——

 彼もまた、お腹が空き始めていた。

 だが、すぐに行くと再びマートに会ってしまう予感がする。もう一度ダル絡みをされると嫌だったので、2時間ずらして食堂へ向かうことに決めていた。

さすがに2時間も経てばいなくなっているだろうと、油断しながら食堂へ向かったアズルたちだが——




 食堂にいたのは、最後まで残って雑談をしている冒険者たちだけ。

 そして配膳場所では、マートが嬉しそうにおかわりを受け取っていた。


「……」


 アズルはマートに存在が気づかれないよう動こうと試みる。せっかく美味しそうな料理を、気分を害して台無しにしたくなかったからだ。

こっそりと食事を貰って、部屋の隅で食べようとしたが……


 案の定、秒でバレた。





「もう2時間もいるよな……? ずっと食べてるのか?」


 アズルはジトっとした目をしながら質問する。

 まさかこんな長い時間、滞在しているとは思わないだろう。周囲の客も少ないためか、殆ど誰もいない部屋にマートと直面という、最悪な状況になってしまった。

 マートは紙を取り出し、何かを書きながら答える。


「いますよ、2時間。ずっとおかわりしていただけです。せっかくなら、全種類の総菜を食べようと思いまして」

「……何書いてるんだ?」

「食べる前に、食事の映え度をメモしているだけですよ」


 そう言いながら、目の前に盛られた食事をあちこちから見回して、嬉しそうな様子のマート。純粋な笑顔を一切隠さない。

アズルにはこの瞬間、彼が心から幸せであるように見えた。


(いや……んなわけないか。ただの変人食事マニアだ)


 楽しそうなのは何よりだが、同じ世界にはまり込んでは危険な気がする。


 アズルはマートを無視して、フォークを手にした。


「ちょっと! いただきますを言いなさいよ」

「……」


 急にマートが書く手を止め、アズルを注意してきた。

 唐突な切り替えが少し神経に障ったが、確かに挨拶なしで食べるのはマナーが悪い。アズルは不機嫌な様子で手を合わせた。


「……いただきます」

「はい、よくできました。おや、サラピ君も挨拶しなきゃ駄目ですよ?」

「ぴぎゃーっ! バレたっぴーっ!」


 マートに文句を言われたくなかったのか、サラピは身を縮めてこっそり食事をしていたが……この美食家の異常な観察眼は騙せない。



 するとマートが腰下げバッグから、鉄製のスプーンとフォークを取り出した。

 その様子を見た時は、さすがのアズルもギョッとする。


「……えっ?」

「どうしました?」

「フォークとスプーン……船のやつ使わないのか?」


 自分用のものを持参している人など見たことがない。

 するとマートは、しばらく無表情で黙り込み——


「えぇ。これ、お気に入りのやつですから」


 子どものように握り、微笑んだ。





「ここのシェフも素晴らしいですね。私は満足しました」


 食事を終えた後、船内の細長い椅子にマートとアズルは腰掛けていた。

 アズルはこの男から逃げることを諦める。現地に着いたら、目的も違うしどうせ離れるのだから。




「私たちは食事を通じて幸せを共に感じることができます」



 突然、マートが少し神妙な様子で話し出した。


「多くの人が気づかないほど些細な、それでも当たり前じゃない大きな幸福を……皆さんには感じてほしいと願っています」

「……?」

「それに、誰にも不幸にはならないでほしい」


 今までの軽快な様子とはまるで違う言葉だった。

 何か特別な意味でもあるのかと、アズルが真面目に思考し始めた時——



「なーんて、真に受けました? これは、どっかの病んでるおばさんがぼやいていた独り言ですよ」

「なんだよ! 意味がないなら言うな!」


 頭を押さえるアズルを見て、マートはケラケラと笑う。

 何がしたいのだろう、この男は。掴みどころのないマートという存在に、もどかしさを感じる。

 こういう不思議な人物が世の中にはいるのだと、そう思った時——





 ガラスの割れる音が、外から聞こえた。

 同時に船が大きく揺れる。


「わっ!」

「きゃっ!?」


 近くの客たちは悲鳴を上げて、柱や扉にしがみついた。

 アズルたちも思わずバランスを崩し、床に倒れそうになる。


「な、なんだよ今の!?」

「アズル! 外を見ろっぴ!」

「外ぉ……? って、うわああああっ!?」


 アズルが大声で叫ぶのも、無理はなかった。

 船の甲板には——武装した男たちが何人も、船に乗り込んできていたのだ。





「金を出せ!!」

「じゃないと全員海へぶち落すぞ!!」

「武器を持つ奴は全員殺せ!!」


 男たちは手にナイフなどを持つと、走って船内へと侵入してくる。



 投げられた武器が宙を舞うように飛び、壁に突き刺さる。

 乗客たちは悲鳴を上げながら逃げるが、攻撃を避けきれず、少しずつ怪我人が出てきた。


「あっ!」

「痛っ……!」


 逃げていた乗客やシェフが、傷ついた体を押さえ始める。


 アズルは驚いて逃げ出す。騒ぎの中で、マートの姿はわからなくなってしまった。

 しかし今優先すべきは自分の命だ。逃げていると、船を運航していた乗組員が走っていた。


「ふ、船の背後からこっそり、賊が侵入していたみたいです! 戦える冒険者さん、いませんか!?」

「任せろ!!」


 騒ぎをかき消すような声を出して走って来たのは、大柄な体で巨大な武器を持った者たちだ。

 彼らは人々を襲う賊の前に立つと、各自持っていた武器を使ったり、魔法を放ったりして、賊たちに対抗し始めた。


「す……すげぇ」


 アズルはもはや介入する場を見つけられず、離れたところからポカンとした様子で戦いを見つめていた。ベテランの冒険者たちは、このようなハプニングにも慣れているのだろうか。


 だが、そんな余裕を持っている暇はない。アズルが気づいていない左側から、賊の1人が襲い掛かろうとしていた。

 そのことに気づいたサラピが、慌てた様子で大声を上げる。


「アズル! 左!!」

「え? なに?」

「右じゃなくて左だっぴ!」

「はぁ!? わぁっ!!」


 間一髪、アズルは前のめりにかわして、男のナイフを喰らわずに済んだ。あと少し遅れていたら、彼の胸にナイフが突き刺さっていたはずだ。


「死ね!!」

「ヤバい、待って……ふざけんなこいつ!!」


 アズルは背中から剣を抜くと、男のナイフと交差させる。

 単純な力勝負だ。だが、アズルはナイフよりは大きい片手剣であるうえ、力のかけ方も上から。圧倒的に有利である。

 そのまま力を込め続けると、男のナイフが地面に叩きつけられた。


「!!」


 男は目を丸くすると、アズルの攻撃を喰らう前に一歩下がる。

 舌打ちをすると、船内から出て行ってしまった。


 いくらなんでも、人と全力で対面をしたのは初めてだ。気を抜くと殺されるかもしれない。

 大きく深呼吸を繰り返していると、サラピが笑顔で言った。


「アズル、ナイスだっぴ!」

「危ねぇ~……ていうか、マートさんは? あいつどこ行った?」


 賊の男たちは、冒険者が返り討ちに遭わせているので、数が段々と減ってきた。

 周囲も落ち着きだしているのに、マートの姿はどこにも見当たらない。


 気にかけるほどでもないが……もしものことがあれば、誰であろうと一大事だ。



「俺、ちょっと外を見てくる」

「おい、ちょっとお前! 危ないだろ!」


 背後で冒険者から止められたような気がしたが、アズルは無視して外へ出た。





 甲板に出たアズルは、強風に吹かれながらマートを捜す。


「あいつどこに行ったんだよ!」

「外はまだ賊がいるかもしれないっぴ! 外に出ると危険だっぴよ!」

「うわ、やべっ。ていうかそれなら外にいるわけがないか」


 すると、冒険者たちが怒りを露わにしてアズルを引き戻しに来た。


「お前、外に出たら危ないだろ! 船内で待ってろ!」

「うっ……すみません」


 考えを改め、再び船内に引き返そうとしたとき——





「お前ら、武器を捨てろ!! こいつがどうなってもいいのか!!」


 甲板の奥から怒声が聞こえ、アズルは思わず振り返り——


「えええええっ!?」




 残っていた賊の1人が、男を強引に連れてアズルの前に現れた。

 その男はマートだ。彼は賊に羽交い絞めにされ——首元にナイフを当てられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ