第19話「守るための共闘」
グランビットに続く勢いで、チビウサギたちが村へと侵入してきた。
まるで犬に先導され、小屋に走るヒツジの群れのようだ。彼らは村に入ると、逃げ惑う人々を追いかけ始めた。
「きゃはははっ! チビども総員だ!」
グランビットの狂った雄叫びを聞き、人々は震えあがった。
普段から魔物の脅威など殆どなかったから、いざ攻められたときの対策がないのだ。
「うわぁ、来るな!」
「きゃああああっ!」
悲鳴が折り重なり、逃げる人はぶつかり合い、場は混沌とし始めた。
その様子を、ノアはしばらく意識のはっきりしない様子で見つめていた。
「……」
アズルと村長が、遠くで何かを話している。そしてグランビットが近づいてくるのが見えると、2人は慌てて逃げ出した。そんな光景を無心に眺めていたのち——
「……えっ、グランビット……!?」
ようやく事の重大さを理解し、彼女は青ざめた。
このままでは犠牲者が出る。だが、自分が出せる魔法も限られている。すでにチビウサギたちを倒すために殆どの魔力を使った後なのだ。
彼女はどうしてよいかわからず、ひとまず村の奥へ逃げた。
アズルは、村長へと必死に言い訳をしていた。
「だから、俺はチビウサギじゃないの!」
「お前さんが村にグランビットたちを呼んだんじゃろうが!」
「違うって! ってああああああああああ!!」
チビウサギが数匹、村長に向かって飛び掛かって来た。
「ぎゃあっ」
杖をついている村長には対抗する術がない。か弱い老人の体は傷がついたら終わりである。
間一髪。アズルがとっさに剣を抜き、振り回した。チビウサギたちは逃げていく。
村長は驚いたような目でアズルを見つめた。
「お前さん……」
「逃げますよもう!」
アズルは小さな村長の体を抱えると、必死に走り出した。
ただ、いくらなんでも人間1人を抱えて走るとなると、体力の消耗が激しい。顔を真っ赤にしながらも、彼は懸命に走る。杖をついている村長が自力で逃げられるわけがないと、そう判断したからだ。
サラピはアズルの頭の上に乗ると、必死に作戦を考え出す。
「これはまずいっぴよ……アズル、どうするっぴ!」
「ど……どうするもこうするも! どうしたらいいんだよ!?」
「うーん……ここは、海の近くっぴよね……」
独り言のようにつぶやくと、サラピは周囲をきょろきょろと見渡した。
だが、肝心の人物が見当たらない。
「ノアはどこだっぴ?」
「わからない。どこかにいると思うけど……」
「ちょっと捜してくるっぴ!」
サラピは小さな翼を広げると、村の奥へと飛んで行った。
「ハァッ、ハァッ……」
ノアはひたすら走り続け、村の奥へとたどり着いた。ちょうど大きな海岸の岩が並ぶ場所があり、そこに隠れられるようだ。
そこでは人々が漁業の道具などを武器にして、誰からチビウサギのもとへ行くか喧嘩を起こしていた。
「お前が先に行けよ!」
「はぁ!? ふざけんな、お前が先だろうが!」
全員、命の価値は等しく、大事にしているのは誰しもが同じだ。だからこそ、誰もグランビットを倒そうとする勇気を出せなかった。
ノアはそんな彼らを見つめ——違和感に気づいた。
「……みんなはどこですか?」
「へ?」
「子どもたちが足りていないです! リリアも、テリーも、レトラも……どこですか!?」
その叫びに、大人たちは困惑し始めた。
確かにこの場には、子どもたちが足りていない。全員で12名の子どもたちは、ノアを含めてここに7人しかいなかった。
「おかしいわ! さっきまでちゃんとついてきていたはずなのに」
行方不明の子の母親が、顔を手で押さえて嘆く。
ノアはとっさにライミーを見つめた。ライミーは小さく頷く。
彼女も頷き返した。アズルが必死に動く今、自分にもやることがある。だって、“一緒”に倒すと決めたのだから。
「……わかりました。ノアが捜してきます!」
「えぇっ!? 危ないって!」
「大丈夫です! ノアは強い魔法が使えるので!」
ノアはそう言うと、岩陰から飛び出して村の中へと向かってしまった。
去っていく彼女の背を見つめ、1人の女が声を出す。
「……ねぇ、あの子が頑張ってるのに、私たちって何してるの?」
「そ、それは……」
「私、行くわ。武器貸して」
女は先端が鋭い矛を手に取ると、ノアに続いて出て行こうとした。
すると次々に、賛成の声が沸き上がる。
「だよな……俺たち、逃げてたってどうしようもない」
「きっとみんなでなら、魔物も倒せるかもよ!」
「行くぞ、みんな! 魔法が少しでも使えるなら使って、ウサギたちを減らすんだ!」
ノアや女の動きを見て、人々は次第に士気を上げていった。
そして武器を手にすると、チビウサギたちに負けないような集団で飛び出していく。
人間対魔物の攻防戦が始まった。
ノアは必死に子どもたちを捜す。
「どこにいるんですかー! 出てきてください!」
すると——
「いやあああああっ!」
聞き覚えのある少女の悲鳴が聞こえ、ノアは急いでその場へ走る。
少年少女が集まった5人は、家の壁に追い詰められていた。
最初は親と逃げているはずだったが、人々が多すぎてついていけなくなり、気が付けばはぐれてしまっていた。同じく迷った子どもたちで集まっていたところ、チビウサギたちの群れに見つかってしまったのだ。
しかも、彼らはかつてノアに暴言を吐いた子どもたちだった。
「ねぇ、うちら死ぬの!?」
「いやあぁぁあ、助けて!!」
彼らは思わず目をつぶる。
魔物の脅威を目前にし、恐怖して涙を流した時——
「ぎゃあああああああああああっ!」
絶叫を上げて倒れたのは、チビウサギたちの方だった。
「……え?」
恐る恐る目を開けると、真っ黒になったチビウサギたちの真下には、小さな魔法陣が稲妻を放っている。
少し離れたところから、片手を掲げたノアが現れた。
「大丈夫でしたか!?」
ノアは子どもたちの安否を心配し、すぐに駆け寄って来た。
幸い子どもたちに怪我はないが、彼らは目を丸くしてノアを見つめていた。
「ノア……」
「みんな、大丈夫です。ノアの魔法で守ります!」
ノアは力強い声でそう言った。
目にかかるカーテンのような前髪を、彼女は片手で横に分ける。
紅色の燃えるような瞳が、確固たる決意を宿していた。
強い魔法を持つ者が、弱い者を守る。ごく当たり前のことで、それが使命なのだと彼女は強く実感する。
ノアが元気になったことに喜んだのか、ライミーは嬉しそうな奇声を上げた。
すると、遠くからサラピが飛んでくる。
「ノア! ここにいたっぴね!」
「サラピさん!」
ノアが手を伸ばすと、サラピが手の甲に留まった。
一度呼吸を整えた後、ノアはサラピに尋ねる。
「どうしますか、このあと?」
「オイラに思い付きの作戦があるっぴ! ちょっと上手くいくかはわからないけど……」
そう言うと、彼は背後に目をやった。
先程まで自己中心的に逃げ出していた村人たちが、武器を持ってチビウサギたちに対抗している。おかげで少しずつ、劣勢だった人間たちは力を発揮し始めていた。
倒さなくてはいけないのは、親玉のグランビット。彼女は怪我をしており、自らは動かずむちゃくちゃな指揮を出しているだけだ。しかし、村人たちが戦っている今が、グランビットを倒す絶好の機会である。
「おーい、ノア!」
「アズルさん!」
サラピに続く形で、アズルも到着した。
連戦が続いて全身傷だらけだが、何とか我慢し、体を動かせる範囲ではある。
「みんなが戦いだしたから、村長さんを違う人に預けてきた」
「おっけーだっぴ! じゃあオイラの作戦で、グランビットを倒せるかやってみるっぴよ!」
「えっと、具体的には?」
アズルが尋ねると、サラピはニヤリと意地悪く笑う。
「アズルにはもう一度、囮役をやってもらうっぴ」
「はぁ!? なんで!?」
「そしてノア、グランビットを倒すのはノアだっぴ!」
「ノアが……ですか?」
「そう。まだ魔法は使えるっぴよね?」
アズルの抗議を無視しながら、サラピはノアの魔法陣を覗き込んだ。
すでに大量の魔力を消費しているが、手首の魔法陣はまだ健全に輝いているままだ。
「あと少しならいけます」
「了解だっぴ! じゃあ、今から作戦を言うっぴよ」
ノアが助けた子どもたちは、他の大人に保護されていった。
アズル、サラピ、ノアは円を作り、3名だけで話している。
サラピは大きく息を吸ったあと、互いの顔を見合わせ、決定事項を告げた。
「海を利用して——グランビットを感電させるんだっぴ」




