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青二才のアズル  作者: 紫煌 みこと
第2章「雷少女とウサギ討伐」
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第19話「守るための共闘」

 グランビットに続く勢いで、チビウサギたちが村へと侵入してきた。

 まるで犬に先導され、小屋に走るヒツジの群れのようだ。彼らは村に入ると、逃げ惑う人々を追いかけ始めた。


「きゃはははっ! チビども総員だ!」


 グランビットの狂った雄叫びを聞き、人々は震えあがった。

 普段から魔物の脅威など殆どなかったから、いざ攻められたときの対策がないのだ。


「うわぁ、来るな!」

「きゃああああっ!」


 悲鳴が折り重なり、逃げる人はぶつかり合い、場は混沌とし始めた。

 その様子を、ノアはしばらく意識のはっきりしない様子で見つめていた。


「……」


 アズルと村長が、遠くで何かを話している。そしてグランビットが近づいてくるのが見えると、2人は慌てて逃げ出した。そんな光景を無心に眺めていたのち——


「……えっ、グランビット……!?」


 ようやく事の重大さを理解し、彼女は青ざめた。

 このままでは犠牲者が出る。だが、自分が出せる魔法も限られている。すでにチビウサギたちを倒すために殆どの魔力を使った後なのだ。

 彼女はどうしてよいかわからず、ひとまず村の奥へ逃げた。





 アズルは、村長へと必死に言い訳をしていた。


「だから、俺はチビウサギじゃないの!」

「お前さんが村にグランビットたちを呼んだんじゃろうが!」

「違うって! ってああああああああああ!!」


 チビウサギが数匹、村長に向かって飛び掛かって来た。


「ぎゃあっ」


 杖をついている村長には対抗する術がない。か弱い老人の体は傷がついたら終わりである。

 間一髪。アズルがとっさに剣を抜き、振り回した。チビウサギたちは逃げていく。


 村長は驚いたような目でアズルを見つめた。


「お前さん……」

「逃げますよもう!」


 アズルは小さな村長の体を抱えると、必死に走り出した。

 ただ、いくらなんでも人間1人を抱えて走るとなると、体力の消耗が激しい。顔を真っ赤にしながらも、彼は懸命に走る。杖をついている村長が自力で逃げられるわけがないと、そう判断したからだ。


 サラピはアズルの頭の上に乗ると、必死に作戦を考え出す。


「これはまずいっぴよ……アズル、どうするっぴ!」

「ど……どうするもこうするも! どうしたらいいんだよ!?」

「うーん……ここは、海の近くっぴよね……」


 独り言のようにつぶやくと、サラピは周囲をきょろきょろと見渡した。

 だが、肝心の人物が見当たらない。


「ノアはどこだっぴ?」

「わからない。どこかにいると思うけど……」

「ちょっと捜してくるっぴ!」


 サラピは小さな翼を広げると、村の奥へと飛んで行った。





「ハァッ、ハァッ……」


 ノアはひたすら走り続け、村の奥へとたどり着いた。ちょうど大きな海岸の岩が並ぶ場所があり、そこに隠れられるようだ。

 そこでは人々が漁業の道具などを武器にして、誰からチビウサギのもとへ行くか喧嘩を起こしていた。


「お前が先に行けよ!」

「はぁ!? ふざけんな、お前が先だろうが!」


 全員、命の価値は等しく、大事にしているのは誰しもが同じだ。だからこそ、誰もグランビットを倒そうとする勇気を出せなかった。


 ノアはそんな彼らを見つめ——違和感に気づいた。


「……みんなはどこですか?」

「へ?」

「子どもたちが足りていないです! リリアも、テリーも、レトラも……どこですか!?」


 その叫びに、大人たちは困惑し始めた。

 確かにこの場には、子どもたちが足りていない。全員で12名の子どもたちは、ノアを含めてここに7人しかいなかった。


「おかしいわ! さっきまでちゃんとついてきていたはずなのに」


 行方不明の子の母親が、顔を手で押さえて嘆く。

 ノアはとっさにライミーを見つめた。ライミーは小さく頷く。

 彼女も頷き返した。アズルが必死に動く今、自分にもやることがある。だって、“一緒”に倒すと決めたのだから。


「……わかりました。ノアが捜してきます!」

「えぇっ!? 危ないって!」

「大丈夫です! ノアは強い魔法が使えるので!」


 ノアはそう言うと、岩陰から飛び出して村の中へと向かってしまった。



 去っていく彼女の背を見つめ、1人の女が声を出す。


「……ねぇ、あの子が頑張ってるのに、私たちって何してるの?」

「そ、それは……」

「私、行くわ。武器貸して」


 女は先端が鋭い矛を手に取ると、ノアに続いて出て行こうとした。

 すると次々に、賛成の声が沸き上がる。


「だよな……俺たち、逃げてたってどうしようもない」

「きっとみんなでなら、魔物も倒せるかもよ!」

「行くぞ、みんな! 魔法が少しでも使えるなら使って、ウサギたちを減らすんだ!」


 ノアや女の動きを見て、人々は次第に士気を上げていった。

 そして武器を手にすると、チビウサギたちに負けないような集団で飛び出していく。

 人間対魔物の攻防戦が始まった。





 ノアは必死に子どもたちを捜す。


「どこにいるんですかー! 出てきてください!」


 すると——


「いやあああああっ!」


 聞き覚えのある少女の悲鳴が聞こえ、ノアは急いでその場へ走る。





 少年少女が集まった5人は、家の壁に追い詰められていた。

 最初は親と逃げているはずだったが、人々が多すぎてついていけなくなり、気が付けばはぐれてしまっていた。同じく迷った子どもたちで集まっていたところ、チビウサギたちの群れに見つかってしまったのだ。


 しかも、彼らはかつてノアに暴言を吐いた子どもたちだった。


「ねぇ、うちら死ぬの!?」

「いやあぁぁあ、助けて!!」


 彼らは思わず目をつぶる。

 魔物の脅威を目前にし、恐怖して涙を流した時——





「ぎゃあああああああああああっ!」


 絶叫を上げて倒れたのは、チビウサギたちの方だった。


「……え?」


 恐る恐る目を開けると、真っ黒になったチビウサギたちの真下には、小さな魔法陣が稲妻を放っている。

 少し離れたところから、片手を掲げたノアが現れた。


「大丈夫でしたか!?」


 ノアは子どもたちの安否を心配し、すぐに駆け寄って来た。

 幸い子どもたちに怪我はないが、彼らは目を丸くしてノアを見つめていた。


「ノア……」

「みんな、大丈夫です。ノアの魔法で守ります!」


 ノアは力強い声でそう言った。

 目にかかるカーテンのような前髪を、彼女は片手で横に分ける。

 紅色の燃えるような瞳が、確固たる決意を宿していた。

 強い魔法を持つ者が、弱い者を守る。ごく当たり前のことで、それが使命なのだと彼女は強く実感する。

 ノアが元気になったことに喜んだのか、ライミーは嬉しそうな奇声を上げた。





 すると、遠くからサラピが飛んでくる。


「ノア! ここにいたっぴね!」

「サラピさん!」


 ノアが手を伸ばすと、サラピが手の甲に留まった。

 一度呼吸を整えた後、ノアはサラピに尋ねる。


「どうしますか、このあと?」

「オイラに思い付きの作戦があるっぴ! ちょっと上手くいくかはわからないけど……」


 そう言うと、彼は背後に目をやった。

 先程まで自己中心的に逃げ出していた村人たちが、武器を持ってチビウサギたちに対抗している。おかげで少しずつ、劣勢だった人間たちは力を発揮し始めていた。


 倒さなくてはいけないのは、親玉のグランビット。彼女は怪我をしており、自らは動かずむちゃくちゃな指揮を出しているだけだ。しかし、村人たちが戦っている今が、グランビットを倒す絶好の機会である。



「おーい、ノア!」

「アズルさん!」


 サラピに続く形で、アズルも到着した。

 連戦が続いて全身傷だらけだが、何とか我慢し、体を動かせる範囲ではある。


「みんなが戦いだしたから、村長さんを違う人に預けてきた」

「おっけーだっぴ! じゃあオイラの作戦で、グランビットを倒せるかやってみるっぴよ!」

「えっと、具体的には?」


 アズルが尋ねると、サラピはニヤリと意地悪く笑う。


「アズルにはもう一度、囮役をやってもらうっぴ」

「はぁ!? なんで!?」

「そしてノア、グランビットを倒すのはノアだっぴ!」

「ノアが……ですか?」

「そう。まだ魔法は使えるっぴよね?」


 アズルの抗議を無視しながら、サラピはノアの魔法陣を覗き込んだ。

 すでに大量の魔力を消費しているが、手首の魔法陣はまだ健全に輝いているままだ。


「あと少しならいけます」

「了解だっぴ! じゃあ、今から作戦を言うっぴよ」


 ノアが助けた子どもたちは、他の大人に保護されていった。

 アズル、サラピ、ノアは円を作り、3名だけで話している。

 サラピは大きく息を吸ったあと、互いの顔を見合わせ、決定事項を告げた。





「海を利用して——グランビットを感電させるんだっぴ」

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