17-3:一方的な蹂躙
「口で言っても分からねえなら……実演してやるよ!」
風水建築士の男が、運転席でレバーを乱暴に操作した。
ブオオオオッ!!
改造ショベルカーのエンジンが咆哮を上げる。
だが、襲ってきたのは物理的なアームだけではなかった。
ヒュンッ! ヒュパパッ!
「ぐっ……!?」
俺の頬や腕が、突如として裂け、鮮血が飛んだ。
見えない刃物で切り刻まれたような痛み。
「風……か!?」
(鎌鼬だ!)
玄さんが警告する。
(地脈を捻じ曲げて生じた“歪み”が、真空の刃となって襲ってきてやがる! こいつ、重機を杖代わりに術を使ってやがるぞ!)
物理的な重機のパワーと、霊的な風水の刃。
この二つが同時に、しかも波状攻撃となって俺たちに降り注ぐ!
「オラオラオラァ! 事故だ事故! 不可抗力だァ!」
ガガンッ! ドゴォォッ!
ショベルカーのアームが、俺を狙って振り下ろされる。
俺は詩織を抱きかかえ、必死に横へ飛んだ。
だが、俺が避けたその先には――実家の壁があった。
バキベキィッ!!
「あっ……!」
木材が悲鳴を上げ、粉砕される音。
俺が子供の頃から見慣れた、店の入り口の格子戸と、土壁の一部が、無惨にも重機のアームによって抉り取られた。
「俺の家が……!」
「あ、あぁ……いやぁ……!」
腕の中の詩織は、飛び散る木片と土煙の中で、耳を塞いで震えている。
本来なら、彼女が結界を張れば、鎌鼬も重機も防げるはずだ。
あるいは、彼女が俺の背中を守ってくれれば、俺は前に出てあの運転席を叩き斬れる。
だが、今の彼女は「お荷物」ですらない。
俺の腕を縛る「鎖」そのものだ。
「くそっ! 玄さん、あいつを斬る!」
(馬鹿野郎! 止せ!)
俺が反撃に転じようとした瞬間、玄さんが俺の意識を強引に引き止めた。
(お前が飛び出せば、その隙に詩織が鎌鼬に切り刻まれるぞ! 今のこいつに自衛は無理だ!)
「だけど、このままじゃ店が!」
(店と命、どっちが大事だ! 判断を誤るな!)
ズバッ!
俺が躊躇した一瞬の隙に、風の刃が俺の足を深く切り裂いた。
痛みが走り、膝が折れそうになる。
――勝てない。
力が足りないんじゃない。「戦う形」になっていない。
このままでは、ジリ貧どころか、二人ともここで“事故死”処理される!
(チッ! 小娘が封じられちゃ、ワシも十全に動けねえ!)
玄さんが、悔しそうに、しかし冷静に舌打ちした。
(一旦引くぞ、小僧! 体勢を立て直すのが先だ!)
「……くそぉッ!!」
俺は血の滲む唇を噛み締め、崩れかけた実家に背を向けた。
詩織を横抱きにし、霊力の残りをすべて脚力に回す。
「逃がすかよ!」
背後で重機が旋回する音。
俺は、路地の狭い隙間――重機が入ってこられない細道へと、泥にまみれながら飛び込んだ。
ガガガガッ……!
重機のアームが路地の入り口を破壊するが、深追いはできないようだ。
遠ざかる破壊音と、風水師の高笑いが、俺の背中に焼き付く。
守るべき家を壊され、反撃もできず、無様に逃げ出す。
俺たちは、完敗した。
浅草奪還どころか、最初の砦すら守りきれずに。




