表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/168

17-2:動けない巫女


ガシャン、ガシャン、と重苦しい金属音が近づいてくる。


店の裏手の工事現場から、フェンスを蹴破るようにして現れたのは、異様に改造された小型ショベルカーだった。


そのアームの先端には、通常のバケットではなく、鋭利な「巨大な杭」のようなパーツが装着されている。


まるで、地面だけでなく、そこに住む人間の命ごと突き崩すための凶器だ。


その運転席から、作業着姿の男がひらりと飛び降りた。


さっき俺と目が合った、羅盤ラバンを持った男だ。


彼はヘルメットを小脇に抱え、俺たちの店の前――陥没したアスファルトの縁に立ち、ニヤリと笑った。


「警告はしたはずだぜ、ご同業」


男の声は、砂利を噛んだようにざらついていた。


「ここはもう『凶地きょうち』だ。地脈の流れは完全に書き換えた。……さっさと立ち退かないなら、このボロ屋ごと“事故死”してもらうことになる」


「……やっぱり、テメェらの仕業か」


俺は一歩前に出た。


体の中で、玄さんの霊力が蒼い炎となって燃え上がる。


物理的な重機だろうが、風水だろうが関係ない。


俺の家に手を出したことを、後悔させてやる。


(小僧、あの重機ごと叩き斬るぞ。……加減はしねえ)


「ああ、同感だ!」


俺は拳を握りしめ、地面を蹴ろうとした。


あの男の懐に飛び込み、そのふざけた羅盤ごと殴り飛ばす――!


その、瞬間だった。


「――ダメッ!!」


悲鳴のような声と共に、俺の腕が強く引かれた。


「うおっ!?」


振り返ると、詩織が俺の袖を両手で掴み、必死の形相で首を振っていた。


その顔色は、死人のように蒼白だ。


「詩織ちゃん? 何してんだ、あいつは敵だぞ!」


「ダメ……! 手を出したら……!」


詩織の瞳が、恐怖で見開かれている。


彼女が見ているのは、目の前の風水師ではない。


その背後にいる、巨大な組織グラン・アーバンと、人質に取られた母親の姿だ。


「ここで私たちが抵抗したら……『妙な真似』をしたら……!」


「母さんが……母さんが、殺される……!!」


麗華の言葉が、呪いのように彼女を縛り付けていた。


生命維持装置ラインの電源を、うっかり落としてしまうかもしれませんわよ?』


「……っ!」


俺は、振り上げた拳を下ろすしかなかった。


戦えば勝てるかもしれない。


だが、俺がこいつを殴った瞬間に、遠く離れた病院で、詩織の母親の心臓が止まるかもしれないのだ。


「へェ……」


風水建築士の男は、詩織の怯えようを見て、嗜虐的な笑みを深めた。


「なるほど、噂の『巫女』ってのはお前か。……親孝行な娘さんだこと」


男はわざとらしく羅盤を操作し、俺たちの店――『浅河』の方角を指差した。


「だが、親孝行なら場所を選んだ方がいい。ここはもうじき、ガス爆発か地盤沈下でペシャンコになる運命だ」


ゴゴゴゴ……!


男の言葉に呼応するように、背後の改造ショベルカーが唸りを上げ、アームの杭を地面に突き立てる。


ドス黒い波動(邪気)が地面を伝い、店の基礎を揺さぶった。


ミシッ、ピキキッ!


店の窓ガラスにヒビが入る。


「やめろォ!」


「……ひっ……!」


俺が叫ぶが、詩織は俺の腕にしがみついたまま、ガタガタと震えている。


本来なら、彼女の結界術で店を守れるはずだ。


だが、今の彼女は恐怖で印を結ぶことさえできない。


呼吸すら浅く、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


「ハハハ! 無様だなあ! 呪術師が呪いに縛られて動けねえとは!」


男は高笑いし、重機へと戻っていく。


「今日のところは『挨拶』だ。……明日までに更地にしておけよ?」


重機が去った後には、ひび割れた店舗と、絶望に打ちひしがれた俺たちだけが残された。


俺は、震える詩織を支えながら、唇を噛み締めた。


このままじゃ、店も、詩織の心も、守りきれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ