3-2:情報屋との接触
俺たちの次なるターゲットは、決まっていた。
玄夜神社を破壊した、元凶。
大手デベロッパー、『ガイアフロント』社だ。
「……だが、相手がデカすぎる」
詩織のアパートで、俺はうなっていた。
「リフォーム詐欺とはワケが違う。あいつらの悪事の証拠なんて、どうやって掴むんだ?」
あの後、俺はネットでガイアフロント社を徹底的に調べた。
だが、出てくるのはクリーンなIR情報(投資家向け情報)と、輝かしい業績ばかり。
ヤバい噂は、検索結果の奥深くに埋もれて、すぐ削除されているようだった。
「情報が、足りませんね」
詩織も、タブレットを操作しながら頷く。
「こういう時は、専門家に頼みます」
「プロ?」
「はい。この浅草で、彼以上に『情報』を集められる人間はいません」
詩織に連れられてやってきたのは、雷門近くの雑踏だった。
観光客でごった返す中、一台の人力車が、威勢よく客を降ろしている。
「へい、お待ち! お二人さん、浅草満喫してって!」
法被を着崩し、髪を金髪に染めた、チャラい兄ちゃん。
それが、詩織の言う「プロ」だった。
「うぃーっす、詩織ちゃん! 今日もカワイイね!」
男は人力車を停めると、ニカッと笑って俺たちに近づいてきた。
詩織は、そのノリを完全に無視する。
「矢切さん。お願いしていた件です」
「はいはい、分かってるって。で、そっちが噂の『器』クン?」
矢切、と名乗った男は、ジロジロと俺を値踏するように見た。
(……なんだこいつ。軽いな)
俺が警戒していると、脳内の玄も不機嫌そうだ。
『フン。ヘラヘラして、実に好かんヤツだ』
「俺は矢切景。この街の人力車夫さ。……ま、表向きはね」
矢切は、人差し指を自分の耳に当てる。
「俺の商売道具は、この足と、この『耳』。この浅草で、俺の知らない噂はねぇよ」
詩織が、事前に彼に調査を依頼していたらしい。
「で? ガイアフロント社だったか。……調べといたぜ」
矢切は、急に真顔になった。
そのギャップに、俺は少し驚く。こいつ、ただのチャラ男じゃねぇ。
「あの会社、真っ黒だ。詩織ちゃんトコの神社みてぇな、地上げスレスレの案件をゴロゴロやってる。だが、表には一切出ない」
「なんでだ?」
「『掃除屋』がいるからさ」
矢切は、声を潜めた。
「ガイアフロント社は、元・半グレの連中を『現代の用心棒』として雇ってる。面倒事を、全部ソイツらに処理させてるんだ」
元・半グレ。
用心棒。
「そいつらのアジトは?」
「浅草の隣、蔵前にある古い雑居ビルだ。表向きは『ガイアフロント都市開発・第二営業部』なんて看板が出てるが……そこが、連中の“汚ねぇ仕事”の拠点さ」
矢切は、スマホを取り出し、地図アプリで場所をピンポイントで示してみせた。
「……報酬は、詩織ちゃんとのデート一回でいいぜ?」
「断ります。情報料は、指定の口座に」
詩織は、ピシャリと撥ねつける。
「ちぇー、冷てぇの」
矢切は肩をすくめたが、その目は笑っていなかった。
「愁クン、だったか? 気をつけな。そいつら、そこらのチンピラとはレベルが違う。……ガチの“プロ”だぜ」




