13-4:リアル世界(詩織の“翻訳”)
(場所:地下室・特殊事案対応室)
「浅河! ワクチンが間に合わねえぞ!!」
霧島さんの絶望的な叫びが、地下サーバー室に響き渡る。
だが、その声は、ダイブしている愁には届かない。
愁の“肉体”は、霊的デバイス(ヘルメット)を装着したまま、椅子にぐったりと凭れかかっている。
その横で、詩織は、結界の中、目を閉じ、全ての神経を研ぎ澄ましていた。
(……来ます)
詩織の脳裏に、愁のヘルメットから送られてくる、膨大な「霊的パルス」が、奔流となって叩きつけられる。
それは、玄さんが「江戸OS」の中で振るっている、一挙手一投足。
“殺める”ためだけに最適化された、江戸の「動き(しょさ)」そのものだ。
(速い……! 追いつけない!)
玄さんの「殺意」は、あまりにも純粋で、あまりにも速い。
詩織は、霊力を限界まで引き上げ、トランス状態に突入した。
彼女は、その「殺し」の“意味”を、現実の言語へと“翻訳”を開始する。
「(インカムの向こうのプログラマーに向かって、詠唱するように)」
「……観測、開始。“翻訳”を、開始します……!」
詩織の唇が、震えながらも、確実な「コード」を紡ぎ出す。
「“怨”のプログラム(敵の攻撃)に対し、“断”のシーケンス(玄の斬撃)を、入力……!」
(玄さんが、敵の「呪いの連鎖」を斬った!)
『(インカム)――な!? おい、今、コンソールに、意味不明だが有効な“対抗コード”が……!』
プログラマーの驚愕の声を無視し、詩織は、次の「動き」を“翻訳”する。
(玄さんが、敵の“核”を“突いた”!)
「“呪”の連鎖を、“祓い”のコード(玄の回避動作)で、強制切断ッ!」
『(インカム)――ウオオオオオッ! (絶叫)すげえ!』
インカムの向こう側で、オカルトオタク(プログラマー)の先輩が、椅子から転げ落ちるような、絶叫を上げた。
『本当に“対抗呪術ワクチンコード”が生成されていく!』
『“江戸”の「動き」が、“現代”の「コード」に“変換”されてやがる!』
そして、彼は、戦慄と歓喜に震える声で、叫んだ。
『これが……! これが、鬼神の“殺し)方(OS)”かよ!』
「(舌打ち)チッ……!」
霧島さんは、その報告を聞き、同時に、大手町の監視モニター(黒幕がサーバーを焼いている映像)を見た。
「だが、間に合うか!」
ワクチンの“生成”と、心臓の“破壊”。
二つの「現実」が、今、コンマ一秒を争っていた。




