第13章:電脳の“鬼神”とリアルの“ノイズ” 13-1:電脳世界(愁・玄サイド)
「う、おおおぉぉぉぉっ――!」
霧島さんの「ダイブ開始」の号令と同時。
俺の意識は、現実の身体から、強引に引き剥がされた。
(クソッ、なんだこれ……!)
視界も、聴覚も、触覚もねえ。
あるのは、猛烈なスピードで「落ちていく」感覚。
まるで、「0(ゼロ)」と「1(イチ)」の数字でできた、冷たい滝の中を、垂直に落下していくみてえだ。
(玄さん!? 聞こえるか!)
(……)
(チッ、このノイズの中じゃ、玄さんの意識も沈んでやがる……!)
どれくらいたった?
一秒か? それとも、一時間か?
永遠にも感じられた「落下」が、唐突に、終わった。
フッ、と。
無重力のような浮遊感のあと、俺の「意識」が、硬い“地面”に「着地」した。
「……ッ!」
目を開ける。
いや、これは「目」じゃない。「認識」が、始まった。
「ここ、は……」
そこは、俺がさっきまでいた、会社の無機質な地下サーバー室じゃなかった。
空は、赤黒い。
まるで、血と膿をぶちまけたみてえな、不気味な暗雲が渦巻いている。
空気は、焦げ臭い。
炎と、腐臭と、そして、濃密な「呪い(のろい)」の匂いがした。
「なんだよ、ここ……」
俺が立っていたのは、燃え盛る「町」のド真ん中だった。
木造の家々(いえいえ)。瓦屋根。
見るからに、「江戸」の町並みだ。
だが、そのすべてが、業火に包まれ、崩れ落ちている。
『ギイイイ……』
『ウラメシイ……』
『コロセ……!』
そして、最悪なことに、あの地下遺跡で聞いた「声」が、四方八方から響いてくる。
怨嗟の声だ。
俺は、自分の「手」を見た。
ちゃんと、五本の指がある。
だが、触った感覚は、どこか希薄だ。
(そうだ、俺、ダイブしたんだった……!)
(霧島さんの無茶振りで、あの“呪術データ”の仮想サーバーに……!)
「ここが……“呪い”のサーバーの中……!?」
「“江戸OS”……!」
これが、あの黒幕が作り上げた「呪い(ウイルス)」の“正体”。
あいつが「日本円の信用」を破壊するために使っている、呪術プログラムの“中身”!
(ふざけてやがる……!)
俺が歯噛みした、その瞬間。
『『『オオオオオオオッ!!』』』
地獄絵図が、動いた。
燃え盛る炎の中から、崩れた家屋の瓦礫の下から、「それ」らが、一斉に這い出してきた。
角の生えた、グロテスクな魑魅魍魎。
ボロボロの甲冑を纏い、怨念のオーラを引きずった、無数の怨霊武者。
(地下の奴らと、同じ……!)
(いや、違う!)
こいつらは、地下にいた「本物」の怨霊じゃない。
その「目」を見て、確信した。
こいつらの目は、生きてねえ。
焦点の合わない目の奥で、チカチカと、「0(ゼロ)」と「1(イチ)」のデジタルノイズが、気味悪く明滅している。
こいつらは、あの黒幕がネットから集めた「悪意」と「江戸の呪い(のろい)」を掛け合わせて作り上げた、量産型の「呪い(バグ)データ」だ!
その、無数の「バグ」が、一斉に、俺(=異物)を認識し、殺到してきた。
「クソッ!」
俺は、咄嗟に霊力を練ろうとして、
(――ケッ!)
脳内の“奥”から、灼けつくような「怒り」が、爆発した。
玄さんだ!
(なるほどな、小僧!)
ダイブの衝撃から目覚めた玄さんは、この地獄絵図を見渡し、心底つまらなそうに、吐き捨てた。
(悪趣味な“見世物小屋”だ!)
(これが、あの黒幕の“心”の中かよ!)
『グオオオオ!』
一番早く駆けてきた怨霊武者(データ)が、錆びた刀を、俺の脳天に振り下ろしてくる。
(小僧! 身体、借りるぜ!)
「ああ、頼む!」
俺たちの意識が、再び「同調」する。
(所詮は“作りもん”の地獄だ!)
ズバァッ!!
俺(玄)は、振り下ろされた刀を、紙一重で躱すと同時に、その腕を、蒼い霊気を纏わせた「手刀」で斬り落としていた。
怨霊武者が、悲鳴を上げる。
だが、その断面から噴き出したのは、血じゃない。
意味のない数字の羅列と、バチバチと弾ける「ノイズ」だった。
(見せてやるよ! この“偽物”どもに!)
俺(玄)は、蒼い霊気の「刃」を、両手に作り出す。
そして、無数の「バグ(敵)」の群れに、真正面から、笑ってやった。
(ワシの“刃”は――本物だ!!)




