12-3:後遺症
「“ワクチン”が、作れない……?」
俺は、インカムから聞こえてきた絶望的な報告に、愕然とした。
詩織が、あの詩織が、命懸けで送った希望が。
“古すぎる”という、訳の分からない理由で、無駄になった。
「……っ」
隣で、霧島さんが無言でインカムを睨みつけている。
その、重苦しい沈黙が、装甲バンの狭い車内を支配した。
その、時だった。
「……いや……」
「……?」
「……やめて……ください……」
(この声は!)
俺は、バッと後部座席を振り向いた。
ベンチシートに横たわらせていた亜美が、うっすらと目を開けている。
だが、その焦点は合っていない。
「亜美! 亜美、気がついたか!」
俺が肩を掴もうと手を伸ばした、瞬間。
「あ……あ……」
亜美の目が、車載モニターを捉えた。
そこには、ノイズまみれで点滅する「システムダウン」の文字と、真っ赤に暴落した株価ボードが映し出されている。
「ひっ……!」
亜美は、まるでこの世で最も恐ろしいモノを見たかのように、息を呑んだ。
「聞こえる……!」
「亜美?」
「聞こえる……! あの音……! キーンっていう、嫌な音が……!」
亜美は、ガタガタと震えながら、後部座席の隅に這って逃げようとする。
俺から、逃げるように。
「やめて……! たくさんの人が『やめて』って叫んでる……! 苦しいって……!」
「亜美さん、落ち着いて!」
霊力を使い果たした詩織が、這うように亜美に近寄り、その手を、強く握りしめた。
「愁さん……!」
詩織は、亜美の“状態”に気づき、蒼白な顔で俺を見た。
「呪いは、解けています……! ですが……!」
「だが、何だ!」
「精神が……あの“呪いのOS”に、一度、強制的に接続された影響で……」
「“回線”が、開きっぱなしになっています……!」
「回線が、開きっぱなし……?」
オウム返しに尋ねる俺に、詩織は、悲痛な表情で、首を横に振った。
「彼女はもう……“一般人”には、戻れません……」
(なっ……!)
詩織の診断は、あまりにも残酷だった。
黒幕に操られた「後遺症」として。
亜美は、今回の「霊的テロ」……ネットワーク(けっかん)を流れる「呪いのデータ(ノイズ)」を、24時間、強制的に“受信”できる体質になってしまっていた。
「いやぁぁぁぁぁッ! 聞きたくない! やめてッ!」
亜美は、両耳を強く塞ぎ、甲高い悲鳴を上げた。
俺は、その悲鳴を前に、ただ、立ち尽くすことしかできなかった。




