第11章:地下遺跡の“共闘”と大手町の“本命”4-3
11-8:物理的“救出”
「グッ……! ヌゥウウオオオオッ!!」
俺(愁と玄)の全身から、霊力が悲鳴を上げて絞り出される。
目の前では、黒い怨念の津波が、俺の張った「蒼炎の防壁」に、休むことなく叩きつけられていた。
ミシッ、ミシッ!
(クソッ、防壁にヒビが……!)
(霊力が……持たねえ!)
この蒼い炎が破られた瞬間、俺も、背後で意識を失っている亜美も詩織も、あの黒い泥に飲み込まれてジ・エンドだ。
「ハハハハ! どうした、鬼神! それが限界か!」
瓦礫の上から、黒幕の嘲笑が響き渡る。
「ワクチン(データ)が届く前に、お前たちが潰れるのが先だ!」
(うるせえ……!)
(だが、事実だ……! このままじゃ、あと10秒も……!)
怨念の津波の圧力が、最大に達する。
ついに、防壁が、音を立てて砕け散った。
パリンッ!
「しまっ――!」
(ここまでか……!)
黒い怨念の“腕”が、スローモーションのように、俺の目の前を通り過ぎ、倒れている詩織たちに襲い掛かろうとした――
その、瞬間。
「……転送、完了……!」
背後で倒れていたはずの詩織が、か細い、しかしハッキリとした声で、そう呟いた。
「!?」
俺が振り向くよりも、
怨念の津波が詩織たちを飲み込むよりも、
“それ”は、早く来た。
ドッゴォォォォォォンッ!!
「なっ!?」
音は、真上からだ!
この地下遺跡の天井――ビルの一階部分の床が、轟音と共に爆破された!
(爆破!?)
コンクリートの破片と、凄まじい粉塵が、怨念の津波もろとも降り注ぐ!
黒幕の攻撃が、物理的な爆風で、一瞬、押しとどめられた。
「ゲホッ、ゲホッ……! なんだ!?」
「チッ……! 上からか!」
黒幕が、忌々しそうに天井の穴を睨む。
その穴から、夜の闇ではなく、ビルの明かりを背負った「何か」が、猛スピードで降りてきた。
「なんだ、ありゃ……」
それは、黒い影。
いや、人間だ!
天井の穴から、何本ものロープが垂らされ、黒い戦闘服に身を包んだ男たちが、次々とラペリング降下してくる!
ズタッ、ズタッ、ズタッ!
ヘルメットの暗視ゴーグル。
防弾・防呪仕様の黒いタクティカルベスト。
手には、俺たちが使う御札じゃない、ゴツいアサルトライフル。
(元自衛隊員……! いや、ウチの会社の“特殊事案対応室”!)
(会社の「制圧チーム」か!)
「撃て(ファイア)!」
号令と共に、制圧チームの銃口が一斉に火を噴いた。
ダダダダダダダッ!
物理的な銃弾じゃない。清められた銀の弾丸、「対霊散弾」だ!
『ギイイイイイイイアアアア!?』
怨念の津波が、現代兵器の“浄化”によって、激しく削り取られていく!
「ハハハ! いいぞ、やれやれ!」
(玄さんが嬉しそうだ!)
そして、その制圧チームが確保した降下ポイントに、最後の一人が、悠然と、ロープを使わずに飛び降りてきた。
スーツ姿。
爆炎と土埃が舞う戦場で、高級そうな革靴が、コツン、と音を立てる。
男は、舞い落ちる埃を手で払いながら、俺たちを一瞥した。
「……霧島さん!」
俺の最悪のクソ上司、霧島が、そこに立っていた。
「チッ……」
霧島は、この地獄のような光景と、ボロボロの俺たち(新人)と、意識のない亜美・詩織を見て、心底面倒くさそうに、舌打ちした。
「(呆れ顔で)遅いぞ、新人ども。時給泥棒が」
(いや、アンタが遅いんだろ!)
俺の心のツッコミが飛ぶが、口には出せない。
霧島は、俺を無視すると、視線を、ぐったりと壁に寄りかかっている詩織に向けた。
「……巫女」
「……」
詩織は、もう意識を保つのがやっとで、返事もできない。
「データは、確かに受信した」
霧島の、その一言。
その瞬間、俺の全身から、張り詰めていた緊張が抜けそうになった。
(やった……!)
(詩織の“初仕事”、成功したのか!)
霧島は、まるで当然だというように、続けた。
「上出来だ。――大手町の“ワクチン(対抗呪術)”は、今、完成した」




