第11章:地下遺跡の“共闘”と大手町の“本命”3
11-5:詩織の“初仕事”
「オラオラオラァ! どきやがれってんだ、亡者どもがァ!」
俺(玄)は、蒼い霊力を拳に纏い、襲い来る怨霊の群れを殴り飛ばしていた。
ズバッ! ドンッ! 擬音が地下空間に響き渡る。
バトルは勢いだ。だが、勢いだけではどうにもならねえ状況ってのが、世の中にはある。
(クソッ! キリがねえ!)
一体倒せば、呪いの溜め池から二体湧いてくる。
まさに無限湧き(アンリミテッド・ワークス)だ。
このままじゃ、俺の霊力が尽きるか、大手町が壊滅するのが先か。どっちにしろ詰んでやがる。
その間、詩織は意識のない亜美を抱え、必死に俺の後方、瓦礫の陰に後退していた。
普通ならパニックで泣き叫んでもおかしくない状況だ。
だが、このエリート巫女(後輩)は、違った。
その目は、恐怖に怯えながらも、怨霊の群れじゃない、一点……瓦礫の上に立つ「黒幕」と、この空間全体に満ちる「呪いの仕組み(システム)」を、冷静に、分析していた。
「――玄さん!」
俺が怨霊の槍を叩き折った瞬間、背後から詩織の切羽詰まった声が飛んだ。
「ダメです! あの男を倒さない限り、怨霊は無限に湧き続けます!」
「分かってらァ! だが、あそこまで雑魚が多すぎんだよ!」
「違います! あの男自身が“鍵”なんです! この呪いの溜め池に直接アクセスして、怨霊を引き出しているんです!」
(つまり、あの黒幕がいる限り、ここの怨霊は無限ってことかよ!)
最悪の分析結果だ。
だが、詩織はまだ諦めていなかった。
彼女は、懐からボロボロになったインカムを取り出す。
かろうじて、霧島さんとの回線が、ノイズ混じりに繋がっているらしい。
「ハハハ! 気づいたか、巫女!」
黒幕が、俺たちの絶望を煽るように高笑いする。
「だが、手遅れだ。お前たちはここで死に、日本は大手町から腐り落ちる!」
その嘲笑を、詩織の鋭い声が遮った。
「霧島さん! 聞こえますか!? 雑音混じりでもいいから聞いてください! 私、新人の詩織です!」
詩織は、インカムに向かって、この世の終わりみたいな状況で、ありったけの声を張り上げた。
「私の“初任給”! 利子つけて“前借り”しますよッ!」
『ザー……! ……何!? 貴様、ふざけ――』
ノイズの向こう側で、霧島さんが何かを言いかける。
だが、詩織はそれを遮って叫んだ。
「ふざけてません! これが私の“初仕事”です!」
詩織はインカムを懐にねじ込むと、俺に向き直った。
その目には、もう迷いはなかった。
11-6:霊的データの“アップロード”
「玄さん! 1分……いえ、30秒! たった30秒でいいです! 私と亜美さんを、何があっても守り抜いてください!」
「……おう! 威勢のいいこった! やってみやがれ!」
俺(玄)はニヤリと笑い、詩織と亜美の前に仁王立ちになった。
「かかってきやがれ、亡者ども! この先は一歩も通さねえ!」
「ハッ。無駄な時間稼ぎを」
黒幕が鼻で笑う。
だが、詩織がやろうとしていることは、無駄な時間稼ぎじゃなかった。
詩織は、意識のない亜美の傍らで膝をつくと、目を閉じ、両手を組んだ。
そして、この呪いの溜め池に満ちる、おぞましい怨念に対し、祝詞を唱え始めた。
(……何をする気だ、嬢ちゃん?)
(まさか、この場で怨霊を浄化するつもりか? 無理だ、霊力が持たねえ!)
俺(玄)の懸念は、しかし、良い意味で裏切られた。
詩織は、祝詞を唱えながら、俺に(あるいは自分に)言い聞かせるように、モノローグ(しこう)を飛ばす。
(聞こえますか、玄さん! あの黒幕は、呪いをネットワークに乗せて、大手町を攻撃しています!)
(この地下遺跡は、いわば敵が作り上げた“呪術OS”のサンプルだらけです!)
(奴がネットに“呪い”を流せるなら……!)
詩織の祝詞が、熱を帯びていく。
彼女の霊力が、この地下に満ちる「呪いの構成データ」を、無理やり解析し始めたのだ。
(私も、この“呪いのデータ”を、会社に送れるはずです!)
(なっ……!?)
俺は戦慄した。
第9章で、俺(愁)が亜美の記憶を「ダウンロード」した、あの霊的ハッキング。
詩織がやろうとしているのは、その真逆。
(霊的ハッキングの逆……!)
(この呪層に満ちる、敵の“呪いの仕組み(ソースコード)”を、丸ごと“アップロード”する……!)
そうだ。
霧島さんたち「会社」が大手町で戦っている。
だが、敵の「現代呪術」の仕組みが分からなければ、対処のしようがない。
カギは、この地下にある!
(敵の呪いの“仕組み”さえ分かられば!)
(きっと、そちら(霧島さん)で“ワクチン(対抗呪術)”が作れるはずです!)
これこそが、詩織が「前借り」すると宣言した「初仕事」の正体!
クソッ、新人にしちゃ、あまりにもデカすぎる仕事じゃねえか!
「小娘が……!」
さすがの黒幕も、詩織の異常な霊力の動き(ハッキング)に気づいたようだ。
空気がビリビリと震え、詩織の周囲の空間が歪み始めている。
「霊的データを転送する気か! させんぞ!」
黒幕が、腕を振り下ろす。
それに応じ、怨霊たちの中から、一際デカい、大鎧を纏った武者が、ギロリと詩織を睨みつけた。
『オオオオオオ……!』
「行かせっかァ!!」
ドォンッ!
俺(玄)は、ボス怨霊の突進に対し、カウンターで飛び蹴りを叩き込んだ。
「お前の相手は、この鬼神だ!」
「グゥ……!」
デカい図体だ、さすがに一撃では倒せん。
だが、足止めにはなる!
「詩織ィ! まだか!」
「……っ、もう少しです!」
詩織の額からは、玉の汗が流れ落ちている。
霊力の逆流か、顔が真っ青だ。
ムチャしやがて……!
「いけ……! いけ……!」
詩織は、最後の霊力を振り絞り、祝詞を詠い上げる。
「“天”に届け! 私たちの“切り札”を!」
「産土の霊脈よ、道を開け!」
――パァァァァァッ!!
次の瞬間。
詩織の身体から、青白い光の柱が、奔流となって立ち上った。
それは、この地下遺跡に満ちていた「呪いのデータ」を、霊的パケット(データの塊)として圧縮したもの。
光の柱は、瓦礫の隙間、あの崩れた天井の穴(唯一そとと繋がる場所)をめがけて、一直線に突き抜けていく。
まるで、旧世代の「のろし」が、現代の戦場へ向けて放たれたかのようだった。
「……送信、完了……」
プツン、と糸が切れたように。
詩織は、その場に崩れ落ちた。
「詩織の嬢ちゃん! やりやがった!」
俺(玄)は、ボス怨霊を蹴り飛ばしながら快哉を叫んだ。
「チッ……!」
瓦礫の上から、黒幕の、本気で苛立った舌打ちが響く。
「……余計なことを。小娘の分際で」
「だが、状況は変わらん。データ(ワクチン)が間に合う前に、大手町は落ちる」
黒幕の言う通り、詩織が倒れても、怨霊の群れは止まらない。
むしろ、詩織という脅威が去った今、その全ての敵意が、俺(玄)と、意識のない二人(亜美と詩織)に集中した。
「……さて」
俺(玄)は、荒く息をつきながら、ニヤリと笑った。
(嬢ちゃんが、デカい花火を打ち上げてくれたんだ)
(あとは、こっちの時間稼ぎ、だな)
「お前たちが大手町で勝つまで、ここは俺が、死んでも守り抜いてやらあ!」
俺は、再び蒼い霊力を燃やし、絶望的な数の怨霊の群れへと、再び突っ込んでいった。




