第11章:地下遺跡の“共闘”と大手町の“本命” 2
11-3:黒幕の“手法”
「うるさいっつってんだよ、三下がァ!!」
俺の怒りに呼応して、蒼い霊気が地下の呪層を揺さぶる。
意識のない亜美と、俺たちを守るように構える詩織。
そして、この絶望的な状況(クソみたいな盤面)を作り出した張本人。
瓦礫の上から、黒幕の男がクツクツと喉を鳴らすのが聞こえた。
余裕綽々(しゃくしゃく)だ。それがまた、俺の神経を逆なでする。
「ハハハ……! 聞いたか? 霧島とか言ったか? 『その娘は捨てろ』! あれが“現代の呪術”の『解』だ」
「……あ?」
何を言っているんだ、こいつは。
「お前たち旧世代は、個人にこだわりすぎる。だがな、鬼神。現代の呪いは、もっと効率的なんだよ」
男は、まるで講義でもするように、指を一本立てた。
「お前たちが襲撃したあの古い雑居ビル。あそこにあったサーバー群は、ただの囮じゃない。あれは“集積炉”だ」
「集積炉だと?」
隣で詩織が息を呑むのが分かった。
「まさか……! あれだけの負の思念、どこから集めたというのです!」
「簡単さ」
男は、この世の真理でも語るかのように、こともなげに言い放った。
「『呪い代行サイト』さ。インターネット(ふめいとくすう)の悪意だよ」
「『上司がムカつく』『隣人がうるさい』『あいつが成功するのが許せない』――。
そんな、取るに足らない一般人どもの“小さな悪意”。それをサイトで集め、あのサーバーで増幅させた」
(呪い代行サイト……? ネットの書き込みレベルの呪いを、ここまで増幅させたっていうのか!?)
俺が呆気に取られていると、黒幕はさらに続けた。
「そして、その増幅させた呪いを、大手町の『ネットワーク回線』そのものに流し込んだ」
「なっ……!?」
今度こそ、俺は絶句した。
「物理的な光ファイバーケーブルに、霊的な呪いを……!? そんな馬鹿な!」
「できるさ。現代のインフラは、あまりにも無防備だ」
黒幕は両手を広げ、恍惚とした表情で語る。
「金融システムという“国家の心臓”。その血管に、直接“呪い(ウイルス)”を流し込む! どうだ、美しいだろう? 鉄砲や大砲より、よほど効率的に、この国は殺せる!」
(こいつ……! ネットワーク回線を、人間の血管と同じように見立てて“呪って”いるのか!)
物理的な破壊じゃない。
システムという「概念」そのものを、霊的に汚染し、機能不全そうとしている。
これこそが、こいつの言う「現代の呪術」の正体……!
「江戸の“やり残し”は、こうも簡単だった」
男は、俺たちを哀れむように見下ろす。
「ネットワーク(でんのう)を介せば、たった一人でも国は転覆できる。お前たちのような、古臭い“力”自慢は、もう必要ないんだよ」
11-4:足止め
「……テメェ」
俺は、奥歯をギリリと噛みしめた。
こいつの言っていることは、たぶん本当だ。
そして、霧島さんが言っていた「日本経済が止まる」という言葉も、ハッタリじゃない。
(ヤベェ。本気でヤベェぞ、これは)
(一刻も早く、大手町に行かねえと……!)
だが、俺の焦りを嘲笑うかのように、黒幕はゆっくりと、この地下遺跡……「呪いの溜い池」の中心部へと手をかざした。
「さて。講義はここまでだ、鬼神」
「……!」
「しばし遊んでいけ。お前たちが、かつて江戸で葬り去った、名もなき“恨み”たちと」
男の手のひらから、黒紫色の霊力が奔流となって干上がった池に注ぎ込まれる。
ゴボゴボゴボッ……!
空気が震えた。
さっきまでの比じゃない。
淀んだ呪層が、まるで沸騰したかのように泡立ち、干からびた土が盛り上がり始めた。
「愁さん、来ます! ものすごい数の怨念です!」
詩織の悲鳴と同時だった。
ズブッ、ズブッ、ズブッ……!
乾いた土をかき分けて、無数の「腕」が突き出してきた。
ボロボロの甲冑を纏った者。
見るも無残な着流し姿の者。
槍で貫かれた痕が、生々しく残っている者。
(こいつら……江戸時代の、敗残兵かっ!)
戦に敗れ、この場所で無念の死を遂げた者たちの怨霊だ。
それが、黒幕の呪力に当てられて、無理やり「敵意」だけを増幅させられ、この世に呼び戻されている。
『オオオオオオオ……!』
『コロセ……! ミナゴロシニ……!』
焦点の合わない目で、怨霊たちが一斉に俺たちを睨みつけた。
その数、ざっと見て百を超える。
いや、今もなお、地面から次々と這い出してきやがる!
「クソッ……! 死人まで利用しやがって……!」
俺が怒りに身を震わせた、その瞬間。
(――テヤンデェ!! この外道がァッ!!)
脳内に、俺の怒りとは比較にならないほどの、凄まじい「義憤」が響き渡った。
玄さんだ!
(愁! ちょっと身体ァ貸しやがれ!)
(玄さん!?)
(死者を弄ぶんじゃねえ! こいつら(怨霊)は、ワシらが“晴らす”べき相手だろうが! それを無理やり叩き起こして、また戦わせようってのか! 許せねえ……!)
次の瞬間、俺の視界が切り替わる。
いや、身体の主導権が、完全に玄さんに移った。
「おう、待たせたな、亡者ども!」
俺の口から、威勢のいい江戸弁が飛び出す。
蒼い霊気が、怒りの炎となって俺の全身を包み込む。
「テメェらの無念は、ワシが引き受けた! だがな、そこの外道に操られるくれえなら……!」
ドンッ!
俺(玄)は、地面を強く蹴った。
一番近くにいた甲冑武者の怨霊に、真正面から突っ込む。
「この江戸の鬼神が、もう一度、叩き斬ってやらあ!」
ズバァァァッ!!
霊力を纏わせた手刀が、怨霊の胴体を一閃する。
怨霊は悲鳴を上げる間もなく、光の粒子となって霧散した。
「詩織の嬢ちゃん! そこの二人(亜美と愁)を守ってろィ!」
「えっ!? ちょ、愁さ……玄さん!?」
詩織が戸惑っているが、知ったことか。
俺(玄)は、怨霊の群れのど真ん中に飛び込んでいた。
「オラオラオラァ! かかってきやがれ!」
手刀で薙ぎ払い、蹴りで怨霊を吹き飛ばす。
バトルは勢いだ。精密さなんかより、こいつらの「無念」ごと叩き伏せる、この「勢い」こそが肝心だ!
だが――
「クソッ! キリがねえ!」
一体倒しても、二体湧いてくる。
倒しても倒しても、呪いの溜め池から怨霊が補充される。
まさに、多勢に無勢。
「ハハハ! いいぞ、いいぞ! まるで江戸の合戦の再現だ!」
瓦礫の上から、黒幕の嘲笑が響く。
こいつ、俺(玄)を怨霊の群れに釘付けにして、自分は高みの見物かよ!
「このままではジリ貧です、玄さん!」
後方で亜美を守る詩織が、御札で防壁を作りながら叫ぶ。
「大手町も、私たちも、間に合わなくなります!」
「分かってらァ!」
俺(玄)は、迫りくる怨霊の槍を紙一重でかわしながら叫んだ。
(マズイ! このままじゃ、愁の霊力も持たねえ!)
大手町の「現代呪術」。
この地下の「江戸の怨霊」。
二つの戦場に、完全に分断された。
(どうする……! どうすりゃ、この詰みを返せる!?)
俺(玄)が焦った、その時。
背後で、詩織が何かを決意したように、深く息を吸い込む気配がした。
「――玄さん、愁さん。覚悟を決めてください」
詩織の、凛とした声が、怨霊たちの呻き声を貫いて、俺の耳に届いた。




