10-8:陽動(ようどう)
「亜美!」
俺は、床に崩れ落ちた亜美に駆け寄ろうとした。
だが、黒い神主服の男が、それを嘲笑う。
「無駄だ。その女、高円寺亜美は、お前たち――特に、浅河愁、お前をこの一番深い罠に誘い込むための“餌”だ。ご苦労だったな」
「なっ……!?」
「餌、だと……?」
俺が亜美を気にかけてることを利用して、俺たちBチームを、この儀式場の奥深くまで誘導するためだけに?
「……陽動……!」
詩織が、悔しそうに呟く。
『小僧! 奴の挑発に乗るな!』
その時、俺の耳に付けていた、会社支給の小型無線機が、激しいノイズを発した。
霧島さんの、切羽詰まった声だ!
『――(Aチームが)罠だ! 浅河! 聞こえるか!』
「霧島さん!」
『敵の主力はここじゃない! 囮だ! 霞が関と大手町! 複数の拠で、同時に大規模な“霊的テロ”が始まった!』
(何だって!?)
じゃあ、このアジトは、俺たち(サイバー・ガーディアン)の目を引き付けておくためだけの……!
「ハハハハハ!」
黒幕の男が、不気味に笑う。
「そういうことだ、公儀の犬ども」
男が、トン、と軽く足で床を踏み鳴らした。
瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ……!
「うわっ!?」
「愁さん!」
俺と詩織が立っていた儀式場の床が、巨大な落とし穴のように、崩れ始めた!
男は、崩れない安全な足場から、俺たちを見下ろしている。
「江戸の“やり残(のこ”し」は、まずお前たちから片付ける。――この呪詛溜まりの底で、ゆっくりと腐り果てるがいい」
『小僧! 詩織!』
「うわあああああああ!」
足が地を離れ、俺たちの体は、暗く、冷たい、本当の地下へと落下していく。
(続く)




