10-4:潜入(せんにゅう)と“違和感(いわかん)”
その夜。 港区、旧○○ビル。
霧島と剛田さん率いるAチームが、トラックで正面ゲートに突っ込むのと同時に、俺たちBチームはビルの裏手、搬入口に回っていた。
「……うわっ」
近づくだけで、肌がピリピリする。
目には見えないが、ビル全体が、まるで真夏の陽炎のように歪んで見えた。
「強力な『呪詛結界』です」
詩織が、汗を滲ませた顔で言う。
「このビルそのものが、呪いの増幅器として機能しています」
(物理的にも、霊的にも、要塞ってワケか)
『チッ。面倒なこって』
玄が、俺の中で不機嫌そうに言う。
「行きます」
詩織は、俺を背にかばうように立と、懐から五枚の御札を取り出した。
「――開け、天の岩戸。祓え、給え」
彼女が、低く、だが鋭い祝詞を唱え、御札を搬入口のシャッターに叩きつけた。
ジジジジジッ……!
黒い霧のように見えていた結界に、御札が触れた箇所から、まるで酸で溶かされたように「穴」が開いていく。
『ほう。巫女の小娘、大したもんだ。あの時のヌシとの戦で、一皮剥けたな。腕を上げやがった』
玄が、素直に感心したように言う。
「行けます! 10分も持ちません!」
「おう!」
俺たちは、その霊的なセキュリティホールに、文字通り飛び込んだ。
ビル(・・)の内部は、真っ暗だ。
非常灯の緑色の光だけが、薄気味悪く廊下を照らしている。
……だが。
「……?」
俺は、立ち止まった。
「どうしました、愁さん」
「いや……静かすぎねぇか?」
外は、あんなに厳重な呪詛結界が張られていた。
当然、中は呪われた連中がウヨウヨしてると思っていたのに。
警備員どころか、物音一つしない。
『……妙だな』
玄も、俺と同じ違和感を感じているようだ。
『外の門構えだけは立派だが、中が伽藍堂だ』
詩織も、霊力で周囲を探り、ハッとした顔になる。
「……気配がありません。少なすぎます。敵は、地下のサーバー室に集まっているようですが……」
(正面は霧島さんたちAチームが。俺たちは結界を破って裏から。両方を警戒するなら、もっと人が居るはずだ)
俺は、懐中電灯の光を、暗い廊下の奥に向け(むけ)た。
「……罠か?」




