10-2:巫女(みこ)の“時給(じきゅう)”
翌日。
俺は、昨夜の激動でほとんど眠れないまま、実家の喫茶スペース(=アジト)に向かった。
(亜美が、敵……? 霧島は、亜美を“処分”する……?)
最悪の事態が頭をグルグルと回る。
詩織は、俺の部屋で一晩休ませた。
俺が店に降りると、彼女は既に起きていて、白湯を飲んでいた。顔色は、まだ青白い。
「詩織、体は……」
「……大丈夫です」
彼女は、湯呑を静かに置くと、俺をまっすぐに見た。
「愁さん。私、決心しました」
「え?」
俺が何を言うより先に、彼女は自分のスマホを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。
(まさか、その番号……!)
「もしもし、霧島さん。神楽坂です」
(やっぱり!!)
「はい。昨日ご提案いただいた、霊的アドバイザーとしてのアルバイトの件。お受けします」
「はぁ!? 詩織!?」
俺は、思わず大声を出した。
詩織は、手で俺を制し、「では、よろしくお願いします」と一方的に電話を切った。
「どういうことだよ! アルバイトって! あんな胡散臭い奴と、いつ契約したんだ!」
「昨夜、あなたがオフィスに向かった後、私のスマホに連絡が来ました。霧島さんは、あなたの知らないところで、私たちのことまで調べ上げていたんです」
詩織は、まだ顔色の悪いまま、俺の視線を毅然として受け止めた。
「……第一に、神社の再建費用のためです。霧島さんは、破格の“時給”を提示してきましたから」
「金かよ!」
「……それだけではありません」
詩織の目が、真剣な色を帯びる。
「高円寺亜美さんが、本当に“敵”なのか……。私自身の目で、確かめるためです」
彼女は、俺をまっすぐに見て、最後の釘を刺した。
「そして、あなた(愁)が私情で暴走しないよう、私が“監視”します」
(……結局、それかよ!)
俺が反論する間もなく、詩織のスマホが再び鳴った。霧島から、すぐに折り返しだ。
詩織が、スピーカーモードで応答する。
『――話が早くて助かるよ』
霧島の、楽しそうな声が、喫茶店の静かな空間に響いた。
『歓迎するよ、霊的アドバイザー殿。早速だが、初仕事だ』




