表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/107

第2章:俺の体、返してくれ 2-1:奇妙な同居人

「――ん……」

 目が覚めると、見知らぬ天井が目に入った。

 木の天井。古いけど、掃除は行き届いている。

 消毒液と、線香みてぇな匂いが混じってる。


「……夢、か?」

 昨夜の出来事。

 就活全滅。

 更地になった神社。

 黒い影。

 そして、地上げ屋どもを、俺の手が――。

 ガバッ、と体を起こす。


ってぇ……!」

 全身が、あり得ないレベルの筋肉痛に襲われた。

 昨日、あんな無茶苦茶な動きをしたせいだ。

「目が覚めましたか、浅河愁あさかわしゅうさん」


 りんとした声。

 見ると、部屋の隅で正座していた少女が、俺をまっすぐ見つめていた。

 昨夜の、あの巫女装束みこしょうぞくみたいなセーラー服のヤツだ。


「お前は……! 昨日の……!」

「私は神楽坂詩織かぐらざかしおり。あの玄夜げんや神社の、宮司ぐうじの家系です」

 場所は、詩織の自宅らしい。古いが、小綺麗なアパートの一室だった。


 介抱かいほうされたのか。

 警察はどうなった?

 俺が混乱していると、詩織は淡々と事実を告げた。

「単刀直入に言います。あなたは、あの神社にまつられていた鬼神きしんげん様に憑依ひょういされました」


「……は?」


「あなたの体は、もうあなただけのものではありません。鬼神様の“器”となったのです」

 ……何言ってんだ、こいつ。


 鬼神? 憑依?

 令和のこの時代に、そんなオカルト。


『フン。オカルトとは失敬な小僧だな』

「――!?」

 まただ。

 頭の中に、あのドスの効いた声が響く。


『俺だよ、俺。テメェの“中”だ』

「だ、黙れ! 出てけ! 俺の頭から出てけよ!」

 俺が頭を抱えて叫ぶと、詩織があわれむような目で俺を見た。


「無駄です。玄様は、あなたの意識の奥深くに定着してしまいました。……もはや、同居人のようなものです」

『その通りだ、神楽坂の小娘!』

 玄は、脳内で得意げに笑う。


『改めて名乗ってやる、小僧。俺は玄。江戸の昔から、法で裁けねぇ悪党ワルどもの“恨み”を晴らしてきた者よ』


「恨みを晴らす……?」

 訳が分からねぇ。


 なんだよ、それ。時代劇か?

『そうだ。そして、久方ぶりにシャバに出たら、どうだ。この時代も、晴らすべき“悪”の匂いがプンプンしやがる!』

 玄の声は、どこか楽しそうだ。


 だが、俺はまっったく楽しくない。

「冗談じゃねぇぞ! 誰がテメェなんかに……!」

 俺は詩織に詰め寄った。


「おい、あんた! 神社の関係者なら、こいつをどうにかしろよ! 除霊とか! おはらいとか!」

「無理です」

 詩織は、即答した。


「は?」

「玄様は、単なる悪霊ではありません。人々の『恨み』をかてとする、荒ぶる神の一種。そして、あなたの鬱屈うっくつした感情と、完全に同調シンクロしてしまった。……今のあなたと玄様は、切り離せない状態です」


「なっ……!?」

 俺の鬱屈した感情?

 就活がうまくいかねぇことか?

 思い出の神社が壊されたことか?


『そういうこった、小僧』

 玄が、俺の意識に語りかける。


『テメェの「世の中クソだな」って気持ちは、上等なみつの味だったぜ。おかげで、最高の器が見つかった』


「ふざけんな! 俺は! 俺は就活中なんだぞ!」

 俺の絶叫が、アパートの部屋に響いた。


「内定もらって、普通にサラリーマンになって、平穏に暮らしたいだけなんだ! なんで俺が、神様だか暗殺者だか知らねぇヤツの器にならなきゃいけねぇんだよ!」

 そうだ。

 人を殴った。いや、殴らされた。

 あんなバケモノみたいな強さで。


 昨夜は混乱してたけど、一歩間違えば、俺が人殺しになってたかもしれねぇんだぞ。

「殺人なんて無理だ! 絶対にやらねぇからな!」

『フン。甘っちょろいこって』

「うるせぇ!」

 俺は、この最悪な同居人から逃れるすべがないことを悟り、その場で膝から崩れ落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ