第10章:高円寺亜美(こうえんじあみ)の「罪(つみ)」 10-1:緊急会議(きんきゅうかいぎ)と対立(たいりつ)
詩織が、あの座敷で亜美の名前を口にした、その直後。
俺、浅河愁は、実家から文字通り転がり込むようにしてタクシーに飛び乗り、新宿の地下オフィスに引っ張り戻されていた。
(詩織は、俺の部屋の布団に寝かせたままだ。後で母さんに頼むしかねぇ……!)
「特殊事案対応室」。
そのメインモニターには、俺の部屋の天井を背景に、顔色の悪い詩織が、オンラインで映し出されている。
霧島さん、ケビン、剛田さん。全員の視線が、モニターと俺に集まっていた。
「……間違いありません」
モニター越しの詩織が、か細い声だが、はっきりと証言する。
「呪詛サーバーの“依り代”を防衛していた結界の中。私が最後にビジョンで見た、実行犯の姿は……高円寺亜美さんでした」
「クソッ……!」
俺は、デスクを拳で叩きたい衝動を、なんとか抑え込む。
詩織の“目”が間違うはずがない。だが、信じたくなかった。
霧島は、その報告を、腕組みしたまま冷静に聞いていた。
「なるほどな。神楽坂の巫女の“目”が言うなら、確かだろう」
彼は、傍らに控える剛田さんに視線を移す。
「剛田さん、突入準備は?」
「いつでも行けます。装備はどうしますか? 実弾で?」
「ああ」
霧島は、あっさりと頷くと、俺に向き直った。
「高円寺亜美が、自らの意志か、操られているかは不明だ。だが、土御門の残党に加担している以上、彼女は“敵性存在”と見なす」
俺の頭に、カッと血が昇った。
「待ってください! 敵性存在って、なんだよ! 亜美は! 高円寺さんは、俺と同じ、ただの就活生だったんだぞ!」
「……」
「操られてるに決まってる! 決まってるだろ、そんなの!」
「浅河くん」
霧島が、俺の激情を、氷のように冷たい声で遮った。
「アジト強襲時、彼女がもし(・・)抵抗すれば、“処分(物理的排除)”も、やむを得ん」
「ふざけるな!」
俺が立ち上がり、霧島に掴みかかろうとした、その瞬間。
『――小僧。落ち着け』
脳内の玄が、俺の暴走を、強く抑え込んだ。
『私情で“仕事”をしくじるなよ。あの狐男(霧島)の言うことも、“戦”の理屈としては正しい。……だが』
玄の声には、戸惑いも含まれていた。
『……妙だ。ワシ(・・)の鼻は、“恨み”の匂いを嗅ぎ違えねぇ。あの日、大学で会った時も、今日の詩織の報告にも、あの娘(亜美)からは、“恨み”の匂いはしなかったはずだ』




