9-7:巫女(みこ)の“勝利(しょうり)”
玄の殺気を道しるべに、詩織の精神は、呪詛の分厚い防壁を貫いた。
(詩織の精神世界視点)
壁の向こう側は、静かだった。
怨霊の叫び声も、呪いの文字もない。
ただ、巨大なデータの海が広がる、暗い空間。
その中心に、それはあった。
黒く、脈打つ、巨大な心臓のようなサーバーラック。
それが、あのサイトの“依り代”だ。
日本中から集められた悪意と呪詛を吸い込み、増幅させ、ターゲットに向けて発信し続けている。
(……見つけた!)
私の意識が、そのサーバー(依り代)に触れた瞬間。
ビジョンが、奔流のように逆流してきた。
――暗く、湿った地下室。
――無数のケーブルと、赤いランプの点滅。
――窓の外に見える、特徴的なビル)の看板。
――港区。古い、オフィスビル(・・・)だ。
(……分かった。場所は、そこ!)
(現実世界)
「―――っ!!」
結界の中で、詩織の体が、背中を反らせるようにして痙攣した。
カッ、と彼女の目が見開かれる。
「はぁっ……! はぁっ……!」
荒い息が、静かな座敷に響き渡る。
俺が握っていた彼女の手は、汗でぐっしょりと濡れていた。
まるで、フルマラソンを走り切ったかのように、全身が疲労で震えている。
ノートPCの画面の奥で、霧島がグイッと身を乗り出したのが見えた。
『……やったか、小娘!』
脳内の玄が、息を詰めて問う。
詩織は、俺の視線に応えるように、力なく頷いた。
そして、震える手で、俺が持っていたスマホ(・・・)を掴むと、地図アプリを起動させた。
「……見えました」
その震える指先が、東京のマップの上をなぞり――そして、ある一点をタップした。
「……ここです」
「港区、旧○○ビル、地下……」
そこが、江戸の呪いが潜む、現代の魔窟だった。




