9-6:攻防(こうぼう)
(詩織の精神世界視点)
深い。
暗く、冷たい水の中を進むようだ。
ここは、俺たちが知るインターネットじゃない。
人の「恨み」や「悪意」が、コールタールのように絡み合う、汚染された霊的空間だ。
(……見つけた。あの、ひときわ強く澱んでいる場所が、“依り代”のサーバー……!)
私の意識が、その「霊的座標」に触れようとした、その瞬間。
『『『キエエエエエエエ!!』』』
データのノイズに擬態した無数の怨霊たちが、霊的トラップ(“バグ”)として、私の精神に襲いかかってきた!
そして、目の前に。
おびただしい数の「呪い)」という文字が、集合し、回転し、巨大な防壁となって立ちはだかる。
(……ッ!)
(現実世界)
「う……っ!」
結界の中で正座していた詩織の顔が、苦悶に歪んだ。
玉のような汗が、彼女のこめかみを伝う。
精神が、敵の呪詛防壁に捕えられかけている!
「おい、詩織!? しっかりしろ!」
護衛についていた俺は、彼女の異変に気づき、思わず結界の中に踏み込む。
そして、氷のように冷たくなっていた彼女の手を、強く握りしめた。
「詩織! 戻ってこい!」
その瞬間、俺の手を通して、俺の中の“鬼神”が、彼女の精神に向かって咆哮した。
『小娘ェ! そっちじゃねえ!』
俺の意識と、玄の強烈な殺気が、握った手を通じて詩織の精神へと流れ込む。
『……そうだ、思い出したぜ。この“結界”の癖……江戸のあの日(・・・)、土御門の屋敷で張られていた呪いと同じだ!』
玄の“江戸の記憶”。
あの、土御門一味が使っていた、呪詛のパターン。
『奴らの悪趣味な“匂い”はこっちだ! ワシ(・・)の“殺気”を辿れ! ワシ(・・)が、ヤツらの防御の“継ぎ目”をこじ開けてやる!』
(詩織の精神世界)
(……この声は、玄様!?)
怨霊の壁に押し潰されかけていた詩織の意識に、荒々(あらあら)しい鬼神の殺気が、道しるべのように突き刺さった。
(……見えた! 壁の、あの“歪み”!)
詩織の霊力が、玄の力を乗せて、一本の槍となる。
そして、呪詛防壁の、わずかな“継ぎ目”を貫いた!




