9-3:アナログの専門家(せんもんか)
「……クソッ、ラチがあかねえ!」
俺、浅河愁は、自席のデスクで頭を抱えていた。
あの後、予備のマシンを使って角度を変え、何度かサイトへの侵入を試みた。だが、結果は同じ。
触れようとするだけで、物理的な呪詛のカウンターが飛んでくる。
(デジタル――俺のハッキング技術だけじゃ、これ以上は無理だ!)
玄の言う通り、物理と呪詛が組み合わさってるなら、こっちも両方の専門家で対抗するしかねぇ。
俺は霧島に「外部コンサル(と打ち合わせ」という謎の報告を残し、アジト――実家の喫茶スペースへと急いだ。
「――それで、私を呼び出した、と」
閉店後の薄暗い店で、神楽坂詩織は俺のノートPCに映し出された「呪い代行サイト」のキャプチャを見つめ、眉をひそめていた。
俺は、さっきのPCがショート寸前になった経緯を説明する。
「ああ。アナログ(・・)の専門家の意見が聞きたくてさ」
「……アナログ、ですか」
詩織が、少しムッとした顔をする。
その時だった。
俺がセキュリティを掛けていたはずのノートPCが、ピコン、と軽い音を立てた。
画面に、ビデオ通話の着信ウィンドウが強制的に開く。
「げっ!? 霧島さん!?」
「(愁さん、回線、乗っ取られてます!)」
応答ボタンを押す間もなく、スピーカーがオンになり、霧島の胡散臭い笑顔が画面いっぱいに広がった。
背景は、あの地下オフィスだ。
『やあ、浅河くん。その外部コンサル(・・・)とやらとの会議、俺も参加させてもらおうか』
「……!」
詩織の体が、強張る。
あの江戸の呪術師の末裔。彼女にとって、天敵とも言える相手だ。
霧島は、画面越しに詩織の姿を認めると、興味深そうに目を細めた。
『……ほう。神楽坂の巫女か。なるほど、いい判断だ』
彼は、あっさりと俺の「敗北」を肯定する。
『ウチの浅河(のハッキング)が通用しない相手だ。あんたたち“神道”の専門家の見解は?』
詩織は、画面の中の霧島を忌々(いまいま)しそうに睨みつけつつも、プロとしての目でサイトの構造に視線を落とす。
そして、顔を曇らせた。
「……これは、現代の“丑の刻参り”を模した、集団呪術です」
「集団?」
「ええ。サイトの閲覧者全員が、無意識のうちに呪いを増幅させる片棒を担がされている。ですが……」
詩織は、最も厄介な問題を口にした。
「この呪術の核は、サーバーそのものです。サーバーが、呪いを受け止める“依り代”として機能しています」
「依り代……」
「はい。そのサーバーという“依り代”の物理的な場所を特定し、破壊するか、祝詞で浄化しない限り、呪いを解くことも、止めることもできません」




