9-2:デジタルの“壁(かべ)”
霧島からの命令を受け、俺は自席に戻った。
(呪い代行サイト、ね。どうせ中二病のこじらせたヤツが、オカルトっぽく見せてるだけだろ。サーバー特定して、ケビンさんと剛田さんにパスすりゃ終わりだ)
俺は、「特殊事案対応室」の、そこらへんの就活生が使うPCとはワケが違う、超ハイスペックなカスタムマシン(・・・・・・)のキーボードを叩き始めた。
サイトの表層は、わざと脆く作ってある。
ダミーのIPアドレスをいくつか踏み台にし、俺はすぐに本丸――『丑の刻ネット』の管理サーバーへと潜行を開始した。
(見つけた。こいつのルート権限を……)
俺が、侵入のための最初のプローブ(観測コード(・・))を送り込んだ、その瞬間。
バチッ!! ビーーーーーーッ!!
「うおっ!?」
目が焼ける!
モニターが、砂嵐どころじゃない、直視できないほどの強烈なノイズ(・・)を発した。
同時に、PC本体から、冷却ファンが物理的に砕け散ったみてぇな、甲高い悲鳴が上がる!
だが、それだけじゃない。
LANケーブルを伝って、物理的な電力とは別の、「ナニカ(・・・)」が俺のPCに向かって逆流してきた!
(なんだこれ!? 頭が……痛ぇ! 腐った泥みたいな、怨嗟の情報が、脳に直接……!?)
『小僧ッ! 回線を断ち切れ! 早くしろ!』
玄の、今まで聞いたこともないほど焦った叫び!
俺は、反射的にデスクの下に潜り込み、壁に繋がる物理ケーブルを、力任せに引っこ抜いた。
シーン……。
けたたましいノイズと悲鳴が止み、地下オフィスに静寂が戻る。
「はぁっ、はぁっ……! クソッ!」
俺は、床に手をついたまま、荒い息を吐いた。
PCは、CPUが焼け切れる寸前だったのか、プラスチックの焦げ臭い匂いが、鼻についた。
「なんだよ、今の……!?」
俺は、震える声で呟いた。
「ただのDDoS攻撃(妨害)じゃない。カウンターハックでもねぇ……!」
「コードそのものが、“呪われて”やがる……!」
『……チッ! やはりか』
脳内で、玄が忌々(いまいま)しそうに舌打ちした。
『あの組織の“結界”だ! こりゃあ、江戸の時代より厄介だぜ!』
玄の声にも、焦りが滲む。
『あの野郎ども、物理(“ネット”とかいうやつ)と呪詛を、完全に組み合わせやがった!』




