第9章:電脳(でんのう)呪詛(じゅそ)と江戸(えど)の残党(ざんとう) 9-1:最初(さいしょ)の“共闘(きょうとう)”案件(あんけん)
あの霧島との「精神ダイブ契約」から、数日後。
俺は、いつも通り地下3階の「特殊事案対応室」に出社した。
……いつも通り、と言いたいところだが、俺の精神は休まらなかった。
霧島の顔を見るたび、あの精神世界での「契約」と、玄の壮絶な過去がフラッシュバックする。
『……チッ。あの狐小僧の顔は見たくもねぇ』
脳内の玄は、あの日以来、ずっと不機嫌だ。
「おはよう。全員揃ったな」
俺がデスクに着くと同時に、霧島が珍しく、室のメンバー全員――俺と、オカルトハッカーのケビン、筋肉担当の剛田さん――を集めた。
剛田さんは、プロテインシェイカーを持ったままだ。
霧島は、ホワイトボードの前に立つと、俺の目を一瞬だけ射抜くように見て、ニヤリと笑った。
「――さて、諸君。厄介な“サイバーテロ”案件だ」
彼はそう言って、モニターに、あるウェブサイトのキャプチャを映し出した。
どす黒い背景に、赤い文字で『丑の刻ネット』と書かれている。
「案件概要だ。最近、特定の政治家や官僚、大企業のCEOを狙った、『呪い代行サイト』がアンダーグラウンドで流行している」
「……呪い?」
剛田さんが、怪訝そうに眉をひそめた。
「ああ。表向は、オカルトだ」
霧島が、キーを叩く。
画面が切り替わり、数人の男たちの顔写真が並んだ。
「だが、笑えないことに、このサイトで『呪い』のターゲットになった人間が、現実に、次々(つぎつぎ)と原因不明の体調不良や、あり得ないスキャンダルに見舞われ、社会的に失脚している」
「……Wow。それ、ただのDDoS攻撃や、クラッキングでの情報リークじゃなくて?」
ケビンが、珍しくモニターから顔を上げた。
「それだけじゃない」
霧島の目が、俺と、俺の中の玄を捉える。
「江戸の“やり残し”の連中――あの土御門の残党が、ネットを使って『呪い』をビジネス化し、ふたたび政財界に干渉し始めている」
(……! いきなり、本丸かよ!)
俺は、ゴクリと唾を飲んだ。
霧島は、俺にだけ向かって、命令した。
「ケビンがサーバーの物理位置を追う。剛田さんは、その時の突入準備だ」
そして、俺を指差す。
「――浅河。お前の“専門分野”だ。サイト運営者の特定と、その『呪い』のシステム(・・・・・)を解明しろ」




