8-8:現実(げんじつ)への帰還(きかん) 霧島(きりしま)の最後(さいご)の言葉(ことば)が、玄(げん)の負(お)い目(め)に深々(ふかぶか)と突(つ)き刺(さ)さった、その瞬間(しゅんかん)。
8-8:現実への帰還 霧島の最後の言葉が、玄の負い目に深々(ふかぶか)と突き刺さった、その瞬間。
俺の肩に置かれていた霧島の手が、スッと離れた。
「――ッ!?」
ハッ、と俺は息を飲んだ。
金縛りが解け、全身に冷たい汗が吹き出している。
(戻ってきた……!)
視界には、見慣れた「特殊事案対応室」の光景が広がっている。
ケビンのタイピング音。剛田さんのプロテインシェイカーの音。
さっきまで、あんなに遠くに聞こえていた現実の音が、鼓膜を揺らす。
精神世界では、まるで何時間も経ったかのような、濃密なやり取りがあった。
だが、現実では、霧島が俺の肩に手を置いてから、ほんの数秒しか経っていなかった。
「……どうかしたか? 浅河くん。ずいぶん顔色が悪いぞ」
目の前には、コーヒーカップを片手に、小首を傾げる霧島がいた。
あの精神世界で見た、眩しいほどの白い光のオーラも、何百年もの因縁を背負った「御庭番の末裔」の顔も、そこにはない。
あるのは、掴みどころのない、いつもの「胡散臭い上司・霧島」の笑顔だけだ。
「……で、報告書の不備だが」
彼は、何事もなかったかのように、さっきの話の続きを始めた。
(……この人、マジで……)
俺は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
(江戸時代から続く、“呪い”の組織?)
(それを追う、“御庭番の末裔”?)
(そして、そいつらに“負い目”がある、“鬼神”?)
俺は、ただの就活全滅大学生だったはずなのに。
いつの間にか、とんでもねぇスケールの、江戸時代から続く因縁と、新たな“共闘契約”の、ど真ん中に放り込まれたことを悟った。
(……マジかよ。俺の二重生活、これからどうなっちまうんだ……)
俺の平穏な(?)サラリーマンライフは、この日、完全に終わりを告げた。
(続く)




