8-4:霊力(れいりょく)の対話(たいわ) 視界(しかい)が、ぐにゃりと歪(ゆが)んだ後(のち)。
次に俺が見たのは、オフィスでも、暗闇でもなかった。
そこは、音もなく、色もない、静謐な空間。
まるで、宇宙の端に一人放り出されたような、不思議な場所だ。
俺の体は金縛りにあったように、一歩も動かせない。
(ここ……どこだ?)
俺の正面に、二つの「人型」が対峙していた。
一つは、漆黒のオーラを放つ、荒々(あらあら)しい巨漢。
その姿は、まさに俺の脳内に住まう、鬼神・玄の霊体そのものだった。
いつもより、そのオーラが激しく波打っている。
そして、その対面に立つ、もう一つの人型。
それは、眩しいほどの「白い光」を放っていた。
光が強すぎて、その姿形ははっきりとは見えないが、そこに立つ者が、霧島さんであることは、直感で分かった。
俺は、この場に居るのに、まるで透明人間のように扱われている。
彼らは、俺を完全に無視して、会話を始めた。
「――久しぶりだな、“玄夜”の鬼神」
白い光の中から、霧島の声が響く。
だが、その声は、オフィスで聞く上司の声とは全く違っていた。
まるで、何百年もの時を超えて響くかのような、古い響きを持っていた。
「俺の“先祖”が、随分と世話になったようだ」
世話になった、という言葉の裏に、何か恐ろしい皮肉が込められているのを、俺は感じた。
『……テメェ(てめぇ)』
玄の低い唸り声が、空間を震わせた。
漆黒のオーラが、一際激しく燃え上がる。
『やはり……テメェは、あの時の“御庭番”の小僧の……末裔か!』
玄の言葉に、俺の頭の中に、稲妻が走った。
(御庭番……!? 詩織が言ってた、江戸時代の幕府の隠密ってやつか!)
何百年もの時を超えて、今、鬼神と、その因縁の相手の末裔が、俺の精神世界で対峙している。
俺の体は動かせないが、その会話は、一語一句、脳に刻み込まれていく。




