第8章:詩織(しおり)の警告(けいこく)と“視線(しせん)”の正体(しょうたい)8-1:巫女(みこ)の分析(ぶんせき) 霧島(きりしま)が帰(かえ)っていった直後(ちょくご)。
俺の実家『あさかわ』のイートインスペースは、重い沈黙に支配されていた。
チリン、と風でドアベルが鳴った音に、詩織がビクリと肩を震わす。
さっきまでの鋭い牽制モードは消え、彼女の顔は青褪めていた。
「愁さん……!」
詩織が、絞り出すような声で俺に詰め寄る。
「あの霧島という男……ただ者ではありません」
「……だよな。俺も、なんかヤベェとは思ってたけど」
「ヤバい、なんていうレベルじゃないです!」
詩織は、俺の楽観的な(?)言葉を、強く否定した。
彼女は、自分の手を見つめ、震えを抑え込むように握りしめる。
「彼は、“箱”(俺のような憑依体)じゃない。……彼自身の血に、強力な“法力”が、生まれながらに刻まれています」
「血に、法力が?」
「私たち神楽坂の家系とは、まったく系統が違う……もっと古く、厳めしい、鍛え抜かれた力です。まるで……」
詩織は、言葉を選ぶように、一度目を伏せた。
「……まるで、江戸時代の“公儀隠密”か、幕府に仕えた“呪術師”のようです」
(公儀隠密……呪術師……)
とんでもない単語が飛び出してきた。
俺の上司、いったい何者なんだよ。
『……チッ』
その時、脳内の玄が、忌々(いまいま)しそうに舌打ちした。
(玄さん?)
『あの狐小僧……。ワシ(わし)に気づいてやがる。間違いねぇ』
(え?)
『さっき、奴が笑った時、一瞬だけ“目”が合った。テメェ(こぞう)の目を通して、まっすぐワシ(わし)の魂を覗き込みやがった。……厄介な匂いだぜ、こりゃ』
玄の言葉に、俺の背筋がゾッとした。




